2024年01月25日 18:47
1月25日、東京高裁は、「現民法の単独親権制度は違法である」として国に損害賠償を求める民事訴訟、いわゆる「共同親権国賠訴訟」の控訴を棄却する判決を出した。
「共同親権」を求めて国を訴える
本訴訟は、「夫婦の離婚後には子どもの親権はどちらか一方が取得する」としている現民法の「単独親権制度」は親の利益を侵害しており、法の下の平等にも違反しているとして、2019年(令和元年)11月に男女12名が国に損害賠償を求めて東京地裁に提訴したもの。請求は2023年(令和5年)6月に棄却、同年7月に控訴された。
原告は、離婚後に親権を取得できず子と会えなくなった、または会う機会が制限されるようになった親たち。地裁への提訴後から1名が離脱、1名が死亡した。現在では亡くなった原告の両親が裁判に加わっている。
控訴審後の会見では、原告側の弁護士ら(稲坂将成、古賀礼子、富田隼)が訴えの要旨や判決文の概要を説明した。
訴えの要旨は「単独親権制は親が子を養育する利益を無視している」。具体的には、基本的人権とされる「養育権」の侵害と、憲法14条で定められた「法の下の平等」に違反している、という二つの問題が訴えられてきた。
第一の争点:「養育権」の人権性
現在の日本では、親が子を養育する権利(養育権)は法律には明記されていない。しかし、養育権は基本的人権に含まれるものであり、国は養育権の人権性を認めるべきである、と原告は主張する。
一審で地裁は養育費の人権性を否定。控訴審でも、養育権は「外縁」(権利を請求できる範囲)が曖昧であるとして、高裁は原告の主張を退けた。
弁護士らは、表現の自由の権利など他の人権も外縁が曖昧であること、またそれまで法律には明記されていなかったプライバシー権が近年になって認められた事例を引き合いに出しながら、裁判所を「正面からこの問題を受け止めていない」「憲法判断から目をそらし続けている」と批判する。
古賀弁護士は「わが子と会えない当事者だけでなく、子を育てている親全体にとっての権利が軽く扱われている」と語った。
第二の争点:離婚すると単独親権になるのは「法の下の平等」違反
原告は、現在の民法における「婚姻中の父母は共同親権、非婚(離婚後)の父母は単独親権」という規定は、婚姻の有無によって父母の権利の取り扱いを非合理に変える差別だと批判。
民法818条第3項の「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う」の記載は憲法違反であるとして、「父母の婚姻中は」の記載を消して「父母は婚姻中か否かに関わらず原則親権者となる」とするように変更すべき、と主張している。
裁判所は「非婚の人たちは類型的(一般的)に協力できない」として、婚姻中であるか非婚であるかによって親権の取り扱いを変えることは合理的と判断。これに対して稲坂弁護士は、そもそも権利の有無を「非婚であるから」という理由で一律に判断することが差別である、と批判した。
「現行法が、親個人の地位を無視して、非婚時一律単独親権とすることはまさに本件で訴えていることの中心である。親の養育意思や能力を一切問題にすることなく、非婚時は一律に父母の一方は親権を奪っても構わないという現行法の価値判断は、親という立場・利益を元々無視しているからこそなせる業なのである」(配布資料より)
「世の中には自分たちのような親が何万人もいる」
会見には、「共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会」の代表として活動を行っているライターの宗像充さんを含む計4名の原告も参加。判決に対する不服を、それぞれに表明した。
「私たちにとって不当な判決でした。自分の子どものためにも、これからも頑張っていきたい。」(原告A氏)
「裁判所としても、もっと親が子どもと一緒に会える環境のことを考えてほしい。」(原告B氏)
「離婚して親権をなくした親は子どもを見守る権利もなくなり、子どもは親権を取った親に虐待されていたとしてもSOSを言えなくなる。児童虐待をなくす、子どもたちを守るためにも、共同親権は必要だ。」(原告C氏)
「裁判所は無為無策。父親として、法改正の議論が進まなかったのは残念。世の中には自分たちのような親が何万人もいる。法律で決まっているから会えない、というのは納得がいかない。」(宗像さん)
法制審は共同親権の導入を進めているが…
離婚後の共同親権導入を検討する法制審議会(法相の諮問機関)は、今月末にも、共同親権を可能にする要綱案を採決する予定。2月中旬の法制審総会を経て法相に答申され、その後の通常国会で、政府は民法などの改正案の成立を目指す見通しとなる
要綱案は現行の単独親権性を見直し、原則として夫婦が協議して共同親権か単独親権のどちらとするか選択可能にすることを提案するもの。ただし、改正要綱案でも、配偶者に対するDV(家庭内暴力)や子どもに対する虐待の恐れがある場合には家庭裁判所が単独親権と決める、とされている。
これまで、DV被害当事者やその支援団体などが、「DVの事実を証明することは難しく、家庭裁判所には虐待の有無を適切に判断できない場合があるため、子どもの安全を守れない」と導入反対を訴えてきた。また、24日には、「共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会」が離婚事件などを扱う弁護士423人が賛同した申入書を法務省に提出している。
共同親権を導入するという点では、要綱案は本訴訟における原告の主張と一致している。しかし、宗像さんは、要綱案でも家庭裁判所によって単独親権に決められる可能性があることを「基本的に現行の司法のあり方を追認するもの」と批判した。
「国家が決める家族のあり方が私たちに押し付けられている、というのが今の法律。この前提を変えない限り、法改正をいくら進めても意味がない。」(宗像さん)
古賀弁護士は、法制審の要綱案には民法818条の見直しが含まれているという点では原告の主張と一致している、と補足。そのうえで「“親の利益”に向き合わなければ、どんな法制度でも骨抜きになってしまうことは考えられる」と懸念を示した。
原告は最高裁への上告を予定している。