https://news.yahoo.co.jp/articles/65f2dc3fa444b8baee1d4b889157925786dd4897
1/6(土) 21:02配信
OTONA SALONE
この状況がそもそも男尊女卑の現れなのか。
「共同親権」「子どもの連れ去り」という言葉を聞いたことがある人、多数いらっしゃるのではと思います。
「子の連れ去り違憲国家賠償訴訟」の共同代理人を務める神奈川法律事務所所属の弁護士・大村珠代先生に、この問題について5話連続で詳しくお話を伺うシリーズです。
普段DV・モラハラを受ける女性の声を聞く機会が多い編集部は、引き続き「DVから逃げきれなさそうな」共同親権には懐疑的な立場でお話を伺っています。
海外では子どもの権利を優先して「ケースごとに親が判断する」取り決めも
ここまでのお話で、日本では場当たり的に対応してきた経緯があるため、狭間で救出されないケースがあることが理解できてきています。別居したため重大事項の決定を夫婦で相談できないケースは、海外ではどうなっているのですか?
「たとえばドイツでは、親権という概念をやめて『親の配慮』に改正しました。別居や離婚をしても共同配慮が原則で、両親は合意により子の福祉のために親の配慮を行使しなければなりません」
それは具体的に、どういうケースでどういうことを行うのでしょうか?
「子にとって極めて重要な事項、たとえば子どもの居所、面会交流、学校の選択、手術の選択、危険を伴う外国旅行、宗教の選択などは、両親の合意が必要です。意見が異なるときでも両親は、合意するよう努めなければなりません。それでも、両親が合意できないときは、家庭裁判所が親のいずれか一方にその決定権を委ねることができます。日常的な事項については、同居親に単独の決定権を認めています」
ドイツはDVありの場合「単独配慮」に切り替える。フランスは?
ドイツにもDV夫はいると思うのですが、配慮といえども、これは友好的な離別の場合にだけ機能することですよね。結局「逃げられない」ということでしょうか?
「いいえ、両親が一時的でない別居をしている場合でかつ他方の親の同意がある場合や子の福祉にかなうとき、つまりDV事案などでは共同配慮から単独配慮の移行ができます。私は、ドイツのように事項ごとにあらかじめ法律で定めるか、または離婚後の養育計画作成を義務づけるかがいいと思っています。養育計画の中で事項ごとにどのように決めるか定めておけば、そのあとも個別具体的な事案に柔軟に対応できます。当事者にとっても利用しやすい制度になると思っています」
どうしてもDVから逃げることばかり聞いてしまうのですが、他の国ではどうでしょうか?
「フランスでは、婚姻しているかどうかにかかわらず、父母は共同で親権を行使するのが原則です。もっとも、子の身上に関する日常的な行為については、父母の一方が単独で行うとしても合意が推定されます」
ドイツほどきちきちっとケースをきめず、もう少し柔軟に事項を定めている、という感じですね。これはお国柄が出るんですね、革命と自由の国らしい感覚だと感じます。
「フランスでも、重要な決定について合意に至らない場合には、例外的に子の利益のために裁判官は、親権の行使を父母の一方に委ねることができます。ただし、親権を行使しない親も子の養育及び教育を監督する権利・義務を保持します。また、訪問・宿泊の権利の行使も、重大な理由による場合を除いて奪われません」
離婚の原因の側ではなく、子どもの権利を最初に考えるのが世界標準
他国の例を見てみても、離婚をすべてDV因と捉えず、子どもの権利を優先的に考えて、切り分けを適切に行う仕組みを作るのが大切、ということですね。
「はい。DV離婚は別として、子どもの医療や進学など重要な事項は共同のほうが、両性の多様な価値観を反映して、子どもにとってよりよい決定ができると思うのです。日本は、共同親権である婚姻中も、親権行使について父母の意見が異なる場合の手続規定がありません。これは学者から立法の不備だと指摘されています。この規定を制定する必要がまずあります」
そもそも女性や子どもの権利というものが「ない」時代感覚のままでこれらの法律が変更されていないため、親権が片方の親にしかないのが当然という前近代の状態が日本では今でも続いている、そういう状況が見えてきた気がします。
「逃げるべきケースでも、では逃げるのが正当なケースはどこまでなのか。確たる原因を表明されず逃げられた場合、残された親は子どもを誘拐されたに等しく、居場所も安否もわからない精神的な不安を抱え、多くのケースで自殺も考える状態に陥りがちです。そこまでするほどの命の危険が逃げる側に本当にあったのか?」
確かに、「虚偽DVばかりが横行」などといわれるようなら、DV夫の話を聞き続けている私たちは「そんなことない、本当にDVは起きているし、心底つらいし、危険もある!」と言い返したいのですが、いっぽう女性の側が常に被害者だという発想も私たちが持つアンコンシャスバイアスでした。この点は反省します。
「そもそもモラハラやDVがあり、まともに話せないから逃げるということならば、繰り返しになりますがその話し合いにこそ警察と司法の支援が入るべき。第三者が入って安全が確保された状況できちんと話し合いをするべきなのです。ですが、そういう相談や支援の場が日本にはありません。声をあげて、獲得すべきなのです」
日本はもう、「やられる側が逃げる」時代遅れの慣習から脱するべき時代です
学校でのいじめ問題と共通しますが、なぜやられる側が逃げないとならないのか。そこがおかしいと大村先生。
「被害者が身を隠すのではなく、まずはすぐに加害者を切り離す。加害者は更生プログラムを受け、被害者は保護されるという仕組みに変えていかなければなりません。みなさんが安心して共同親権がいいねと思えるように、支援策をきちんとつくるのが大前提。その上で、子どもの成長に有害な影響を与える子の連れ去りを防止するための立法を求めているのが、現在私たちが取り組んでいる『子の連れ去り違憲国家賠償訴訟』なのです」
大村先生は以前、連れ去り被害当事者である医師からこんなことを教えてもらったそう。
「女性は妊娠・出産の過程でオキシトシンが分泌され、自然に愛着形成ができるのですが、男性の場合は子どもと直接触れ合うことでオキシトシンが分泌され、愛着形成を行うそうです。なので、男親が子どもと触れ合い、時間を過ごすことはとても大切です」
アメリカで面会交流が確立された結果、養育費の支払い率が上がったという話も出てきましたね。
「結果的に子どもの精神も安定します。離婚後も定期的に面会交流ができているお子さんは、両親揃った家庭の子どもと比較しても問題行動に有意差がないそうです。離婚した側の親とも定期的に交流を持ち、お互いの愛着を形成していくことは、子どもの成長にとって必要不可欠な要素なのです」
連れ去りの背景には核家族化や地域コミュニティの希薄化も感じると大村先生は加えます。昔ならばご近所の目があり、DVやモラハラを受けている女性に何かしらのご近所の支援の手が入りやすかったのですが、現在はそれぞれの家庭が孤立しているため周囲に助けを求めにくい状況です。
いっぽうで祖父母に助けを求めると無条件で子どもの味方につくため、さらに対立がひどくなるケースも多々。だからこそ、第三者やカウンセラーが支援できる制度が必要であり、そう感じた医師や法曹関係者のなかには動き始める人も出ているそうです。
4では海外の例も伺いながら、日本に残る制度的特徴を解説していただきました。次の5では離婚後とくにシンママが陥りやすいとされる貧困問題について伺います。
お話/弁護士 大村珠代先生
神奈川県・JR川崎駅から徒歩7分、神奈川法律事務所に所属。家族法が専門。子の連れ去り違憲訴訟、自由面会交流権訴訟の共同代理人。日ごろの暮らしに密接な離婚、相続、成年後見などが重点分野です。連れ去りや離婚に悩む方、女性弁護士になら話せる悩みがある方、この機会にぜひ相談してみてください。「依頼者・相談者が自分らしい生き方ができるよう伴走します。ひとつひとつの事件に真摯に、親身に向き合うことを心がけています」。日弁連高齢者・障害者権利支援センター、神奈川県弁護士会高齢者・障害者の権利に関する委員会所属。
オトナサローネ編集部 井一美穂