https://news.yahoo.co.jp/articles/2836ea325053e446da3e19fc3330752985df7cd8?page=1
1/4(木) 21:10配信
OTONA SALONE
共同親権にまつわる法改正に向けた動きもあるが、まだまだこれから。
「共同親権」「子どもの連れ去り」という言葉を聞いたことがある人、多数いらっしゃるのではと思います。
「子の連れ去り違憲国家賠償訴訟」の共同代理人を務める神奈川法律事務所所属の弁護士・大村珠代先生に、この問題について5話連続で詳しくお話を伺うシリーズです。
普段DV・モラハラを受ける女性の声を聞く機会が多い編集部は、引き続き「DVから逃げきれなさそうな」共同親権には懐疑的な立場でお話を伺っています。
「連れ去られた側の女性」はさらに理不尽で悲惨な目にあう
#1では「DVに苦しむ女性が子どもといっしょに逃げる」典型的なDV離婚プロセス「ばかりではない」というお話を伺いました。むしろ女性が連れ去られる例も多々あるとのこと。
「女性側が子どもを連れ去られると、それはもう過酷です。まず、実情に関わらず『親権がとれない女性にはよほど問題があったのだろう』と偏見の目で見られてしまい、孤立しやすい。さらに、一般には母子のきずなのほうが強いため、連れ去った夫はそれを断ち切ろうとしますから、全然会わせずにひたすら悪口を吹き込むということも起きます」
あっ、それは最近私の身近でも耳にしました。夫が連れ去って、妻は会わせてもらえないケースですが、夫は相当悪口を吹き込んでいるらしいです。
「そのほか、残酷な例では、出産後に産後うつになって母親がひとりで実家に帰り、復調したので戻ろうとしたら家に入れてもらえず、それ以降子どもと断絶されたケースもあります。同居していない側の親に親権が認定されることはまずありませんから、打つ手なしです。本当に苛烈なシステムだと思います」
そもそも、この「争う」制度自体にも疑問があると大村先生。子どもは親同士が罵り合う姿を見ることになるため、心に深い傷が残ることもしばしばあるのだそう。
「西欧ではDVの有無とはまた別に、『自分の生活をある程度は選ぶことができる』親よりも、『いやおうなしに親とともに暮らせなくなる』子どもの権利をまず第一に考え、子どもが本来持っていたはずの権利を可能な限り保全することからスタートします」
具体的にはどのように?
「子どもの連れ去り自体を有罪、またはのちの監護親指定の際に不利にすることで、連れ去りそのものを防止し、その上で離婚後の養育計画の作成を義務付けています。これは、連れ去り自体が子どもの成長に悪い影響を与え、連れ去られた親に対しても精神的な問題を引き起こす可能性があるためです。共同親権、共同監護ですから、そもそも連れ去る意味がないんですね」
自力救済まかせの状態を放置している仕組みの側に大きな問題がある
問題はすべて夫婦の離縁そのものを「自力救済」に任せる仕組みの側にあると大村先生は続けます。
「アメリカの場合、たとえば性犯罪もGPSを利用した接近禁止など技術的な抑止を取り入れていますが、日本では『自力で逃げなさい』の自力救済頼みです。かろうじて逃げた先の住所はDV等支援措置で秘匿することができる、つまり隠すことには協力してくれるのですが、逃げるのは自力です」
私は隠してもらえるだけでもありがたいと思っていましたが、それでは足りないということですか?
「アメリカならば加害者と被害者を引き離し、加害者に更生プログラムを受けさせますが、日本にはそうしたプログラムがないのです。必要な法制度がなにひとつ整っていない。これではもう一つの自力救済である子の連れ去りがなくなるわけがありません」
一般に、日本を含む法治国家は「自力救済禁止の原則」を持ちます。つまり、自分の権利が侵害された場合に司法の手によらず実力行使で回復する行為は「禁止」が大原則です。しかし「連れ去り」「夜逃げ」は明らかにこの自力救済にあたるにもかかわらず放置されており、違憲であると訴えているのが大村先生が共同代理人を務める「子の連れ去り違憲国家賠償訴訟」です。
#1の冒頭で筆者は「共同親権に反対です」と述べましたが、私のように「共同親権を推進すると、妻と子の権利が踏みにじられる」ととらえる人が多い現状にも大村先生は疑問を呈します。
「むしろ逆、女性の権利保護につながります。というのも、そもそも離婚の過半は背景に暴力のない、性格の不一致による離婚です。暴力、虐待など顕著な問題がない夫婦の離婚であれば、共同親権として両親ともに養育負担義務を課すことが、むしろシングルマザーが陥りやすい経済困窮の予防となり得るのです」
ひとり親の経済困窮を「引き起こさない」ためにできることは?
なるほど、ひとり親世帯の相対的貧困率は50.8%とされますが、この惨状は単独親権制度がうまく機能していないからだと見ることもできそうですね。そもそも日本では妻子が夫の家の付属物としてとらえられていた歴史が長く、その権利を平等に戻す法整備が欧米ほどには進んでいないとも言えるのかもしれません。
「アメリカでは、児童虐待による離婚は別として、DVがあるからといって親と子の関係を断絶させることを認めません。ではどうするかというと、第三者が支援に入り、安全を確保したうえでの支援つき面会交流の体制をつくっています」
男親は産む側の性ではないため、愛着形成に時間がかかる傾向が見られます。会う機会のない子どもに愛着を育て、養育費を払う責任感を持ち続けられるかといえば、それが難しいのはどの国でも同様なのだそう。現実に、アメリカでは支援のうえでの面会交流が行われるように仕組みが変わったところ、養育費が支払われる率が上がったといいます。
「その例でもわかるとおり、安全に面会させる体制をつくることが養育を行う親を経済困窮に追い込まない最大の解決策となり得るのです。日本にも面会交流支援制度そのものはありますが、資金と人材不足の面でなかか思いどおりには進まないのが現実です」
ここまでのお話を数値的に見てみましょう。日本人では協議離婚が85%以上ですが1、調査2によれば離婚前に不仲を理由に別居したのは全体の43%。その中で、別居前に離婚した相手と話し合いをしていないのが約34%でした。理由として「 DVや子どもへの虐待等で話をする余裕がなかったから」と答えたのはアンケート回答者1000名中6名、0.6%でした。
また「あなたが離婚した原因に近いものをすべて選んでください」という質問への回答(複数回答)は「性格の不一致」63.6%、「精神的な暴力」21%、「経済的暴力」13.5%、「身体的な暴力」7.9%、「子への虐待」4.1%。
DVが背景にない離婚も多いのであれば、マネー相談を受けるFPさんたちから「あまりにも支払われない」と聞く養育費問題も、共同親権にすることで支払われるようになる気がしてきました。
「アメリカでは支払いが増えましたから、日本でもそうなるかもしれませんね。共同親権があってもなくても、DVや児童虐待から被害者を保護するのは絶対のこと。そのうえで、子どもの権利を第一にする仕組みを制度として作り、子どもが親と会えなくても仕方がないという現状の仕組みを変えないとならないのです」
次のお話では、なぜ「やられる側が逃げる」ことになっているのか、日本の制度が抱える問題点を伺います。
1令和4年度「離婚に関する統計」の概況(厚生労働省) 2令和2年度法務省委託調査研究 協議離婚に関する実態調査結果の概要
お話/弁護士 大村珠代先生
神奈川県・JR川崎駅から徒歩7分、神奈川法律事務所に所属。家族法が専門。子の連れ去り違憲訴訟、自由面会交流権訴訟の共同代理人。日ごろの暮らしに密接な離婚、相続、成年後見などが重点分野です。連れ去りや離婚に悩む方、女性弁護士になら話せる悩みがある方、この機会にぜひ相談してみてください。「依頼者・相談者が自分らしい生き方ができるよう伴走します。ひとつひとつの事件に真摯に、親身に向き合うことを心がけています」。日弁連高齢者・障害者権利支援センター、神奈川県弁護士会高齢者・障害者の権利に関する委員会所属。
オトナサローネ編集部 井一美穂