https://news.yahoo.co.jp/articles/42054ef1bde200c0444612187852f7bd2d3f1f38?page=1
1/3(水) 21:01配信
OTONA SALONE
再検討の機運が高まる「共同親権」だが、本当に大丈夫?
「共同親権」という言葉を目にする機会が増えました。両親の離婚後に子どもの監護養育を行う「親権」は日本では「単独親権」で、両親のうちどちらか1名に帰属すると定められています。
「ですが、子どもの幸福という最大の目的を考えた場合、単独親権とは過酷な仕組みと言わざるを得ません」。こう語るのは、神奈川法律事務所の弁護士・大村珠代先生。「子の連れ去り違憲国家賠償訴訟」の共同代理人を務める大村先生は、いまから4年ほど前、無料の市民法律相談をきっかけにこの問題にかかわり始めました。
「なぜ養育費の支払いが当たり前のように止まり、子どもが幸福に生きる権利が制限されるのか。どうすればこの問題を改善できるのか、根本の部分から考えないといけません」
23年12月19日には法制審議会の家族法制部会が共同親権を原則とする要綱案の試案を示しました。来年初めにも要綱案を取りまとめ、政府は早ければ来年の通常国会に民法改正案を提出する見通しです。
とはいえ、共同親権にすると、DVから逃げようとしている女性が居所を突き止められてしまい、暴力から逃げる権利がなくなってしまうのではないでしょうか?
逃げられないことではなく「DVを止める仕組みがないこと」が問題
私たちオトナサローネは夫のモラハラやDVに苦しむ女性の声を聞く機会が多いため、そんなDV夫から逃げられない共同親権は地獄としか思えません。取材者である私は、共同親権には懐疑的、むしろ反対という立場からお話を伺います。
「そうですよね、お察しします。それもそもそも、仕組みの側が間違っているせいで起きていることです」
仕組みの側……?
「たとえばこの分野の先進国であるアメリカでは、DVに際して警察を呼べばすぐ裁判所につながり、即行で夫婦を引き離し、まずは安全を確保します。そのうえで、DVの有無を認定するための審理を迅速に開始します」
具体的にはどのように?
「面接は夫婦別々に行われ、両方の言い分を聞いたうえで、DVが認定される場合は従来なら共同である親権がすぐに停止されます。DVを行う者の親権は素早く安全に制限されるのです」
日本では警察に頼っても「夫婦げんかは民事不介入」と言われてしまうと聞きます。その部分がそもそも違うのですね。
「はい。アメリカを主とする諸外国ではDVに警察が介入し、被害者の安全を守る仕組みが確立しています。いっぽう、日本では110番通報してもその場で分離とはならず、その後の裁判手続きも長くかかります。本当に命に危険のあるDVが起きていたとしても、接近禁止命令は裁判手続きで得る必要があります。証拠を集めて提訴してと、大変な負担と時間がかかります」
そうですよね。身動きがとれない時間が長すぎるという話は、モラハラの取材でもよく聞きます。
「なので、危険がある場合に『逃げる』以外の選択肢がなく、連れ去りが起きます。このように、日本は逃げる原因となるDVに対する支援が薄いことが問題であり、親権が単独かどうかはその次の段階の問題なのです」
連れ去り被害を「女性側がこうむる」ケースは想像以上に多い
男性が加害側、女性が被害側とイメージしがちなDVですが、女性は一方的被害者と思い込んで制度見直しに反対を続けると、結果的に女性同士が首を絞め合うことになると大村先生は指摘します。相談さえすればDV等支援措置が受けられる日本の制度にも問題があると考えているそう。
「警察や支援窓口で相談したという経歴だけで支援措置が受けられるのは手厚いようでいて、逆に問題を深くしています。というのも、単なる性格の不一致なのに自分と子どもの居所をわからなくする『虚偽DV』が発生しやすいのです。アメリカでは双方の言い分を聞いて裁判所が認定する、虚偽DVが起きにくい仕組みが作られています」
女性側でも事実を曲げた主張をする人は多々見受けられるため、女性だけが被害者だという構図を作りあげてしまうと、両性ともに「救済の網からこぼれる人」が増える可能性があります。
そもそも、共同親権問題にはさまざまな他の問題がからみ合います。たとえば大村先生が取り組む「子の連れ去り問題」は、離婚の話し合いプロセスに入る前に片方の親が子どもを連れ去ってしまう行為。一般に国際社会では犯罪行為ですが、日本では慣習的に行われています。
「なぜ連れ去るかというと、日本では子どもを連れ去ればまず親権争いに勝てるためです。先手必勝であるため、マンガや小説でもDVに耐えかねた母子が『逃げる』という選択が典型例として描かれるのでしょう」
こうした知識があるため、国際結婚の離婚時に法律の違いを知らないまま親が子どもを連れて帰国してしまい、あとから突然「子どもを誘拐した」と提訴されて驚く話も知られています。
「この、母子が逃げる描写ばかりというのも、現場からすればどうだろうと感じます。というのも、離婚裁判の代理人を務めてみると、虐待を行っていた側が連れ去るケースにもよく立ち会うからです。つまり、夫がDVを行い、子どもを連れ去る、さらには虚偽DVまで申し立てるというケースが想像以上に多いのです。知恵の回る側が既存の仕組みを悪用する例と言えるかもしれません」
#1のご説明で、私たちが思う「離婚と親権」とは違う現実が背景にありそうなことがわかりました。次回#2は「思いがけず連れ去られる女性のケース」を教えていただきます。
お話/弁護士 大村珠代先生
神奈川県・JR川崎駅から徒歩7分、神奈川法律事務所に所属。家族法が専門。子の連れ去り違憲訴訟、自由面会交流権訴訟の共同代理人。日ごろの暮らしに密接な離婚、相続、成年後見などが重点分野です。連れ去りや離婚に悩む方、女性弁護士になら話せる悩みがある方、この機会にぜひ相談してみてください。「依頼者・相談者が自分らしい生き方ができるよう伴走します。ひとつひとつの事件に真摯に、親身に向き合うことを心がけています」。日弁連高齢者・障害者権利支援センター、神奈川県弁護士会高齢者・障害者の権利に関する委員会所属。
オトナサローネ編集部 井一美穂