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10/2(月) 9:00配信
西日本新聞
西日本新聞 社説
実現すれば家族の関係が大きく変わることになる。
離婚後の親権について、法制審議会(法相の諮問機関)の部会は制度見直しのたたき台を示した。
親のどちらかに親権がある現行の「単独親権」に加え、両親双方が持つ「共同親権」を導入するとした。離婚する際に両者が協議して単独か共同かを選び、合意できなければ家庭裁判所が判断する。
親権は子どもの身の回りの世話や教育、居住地の決定、財産管理などあらゆることに及ぶ。共同親権を持つ親は、互いを尊重し、協力しながら子育てすることになる。
離婚して夫婦関係を解消しても、親子の関係に変わりはない。そもそも親権がなくても親は子どもを養育する責任があり、共同親権が望ましいとの考えは理解できる。
欧米では共同親権が主流であり、選択肢が増えれば多様な家族に対応できるとの見方もある。
ただ現実は簡単ではない。離婚は夫婦の信頼関係が失われていることが多い。親権は子どもを振り回すものではなく、子どもの利益のために協力して行使するとの理解が不可欠だ。親権を学習する機会や、家裁など第三者の適切な関与が必要だろう。
共同親権の是非を巡り、部会の議論は対立した。公募に寄せられた8千件超の意見でも、団体は賛成が多かったのに対し、個人は反対が賛成の2倍だった。国民の間でも二分されている。
最大の懸念はドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待だ。離婚時に単独親権か共同親権かを選べるとはいえ、親の力関係によっては共同親権に合意させられることがあり得る。子どもや被害親の不安は相当なものだろう。
たたき台は、共同親権を選んだ場合でも「急迫の事情」があれば、単独での親権行使が可能とした。さらに合意までの過程が適正でない場合は親権者を変更できる。
それでも近年のDVや虐待は心理的な加害が多く、外部の目では判断しにくい。共同親権を導入するなら、こうした実態を見逃さないための具体策を整える必要がある。
元夫婦の関係性によってはさまざまな決定が滞りかねない。たたき台は「日常の行為」は単独で行えるとするが、何を指すかが不透明だ。
例えば医療現場で両親の同意が得られない場合、子どもが適切な治療を受けられない恐れがある。学校でも保護者の同意が必要な場面は多い。
共同親権が実現すれば、家裁の業務はかなり膨らむ。調査官や調停委員を増やし、研修を充実させるなど体制を整えなくてはならない。
離婚は年20万組に上り、制度変更の影響は大きい。与党内には来年の通常国会での法改正を求める声があるが、導入ありきで結論を急いではならない。子どもの利益を最優先する原点を確認しながら、慎重に議論を進めたい。
西日本新聞