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8/30(水) 19:01配信
ニッポン放送
中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也と元経産省官僚で政策アナリストの石川和男が8月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。離婚後の子どもの養育を検討する法制審議会が初提示した「共同親権」の導入について解説した。
「共同親権」導入案 ~法制審議会の部会が「たたき台」を提示
離婚後の子どもの親権について、法制審議会の部会は8月29日、制度の見直しに向けた要綱案の「たたき台」を示した。離婚後の親権を「父母の双方または一方を親権者と定める」とし、父母どちらかの単独親権に限る現行制度を見直す議論に入る。
飯田)パブリックコメントも受け付けており、子どもへの虐待などの懸念に関する意見がかなりあったとも報じられています。
「どのような事例を見るか」によって意見が対立する
野村)どういうケースを見るかによって、意見が必ず対立するわけです。例えば単独親権になり、「将来的には子どもに会わせる」と言われていたのに会わせてもらえないような事例を見ていると、「共同親権にすべきだ」という話になるのです。
飯田)単独親権のケースを見れば。
野村)あるいは「養育費を払う」と言っていたのに滞らせている人を見ると、やはり「共同で一緒に育てましょう」というような話が出てきます。他方でDVを受け、子どもも虐待されて離婚に至ったような人たちは、「なぜこの人とまだ共同で親権を持たなければいけないのか」という話になる。
飯田)DVを受けていた人は。
野村)何の事例を見ているかによって考え方が分かれ、それがまとまらないのです。
法制審議会の最後の段階でたたき台が示される ~この方向感で行くということで法案につながる
野村)普通の考え方からすると「ケースバイケースで、いい方を選べるようにしましょう」という話になりそうだけれど、結局のところはどちらかを選ぶ際にバイアスが掛かるのです。
飯田)バイアスが掛かる。
野村)つまり、「早く離婚したいのであれば共同親権にしろ」と言われると、嫌々でも共同親権にするというような。こういう議論まできてしまい、落ち着くところが見つからない状況だったわけです。
飯田)落ち着くところが見つからなかった。
野村)そこで今回、1つの解決策を示した。私も法制審議会に関わってきましたが、法制審議会の最後の段階でたたき台が示され、「この方向感で行く」という法務省の腹が決まる状況になります。ある意味では、それが法案につながるのだと思います。
さまざまなケースに細かく分かれている ~細かすぎて「どれを選ぶのか」となる可能性も
飯田)今回、例えば離婚には合意していて、親権のところでもめる場合は、離婚とその親権、あるいは監護者の部分を切り離し、親権の部分だけを家裁が判断するケースなど、かなり細かく分けられています。
野村)トラブルの元になっているようなケースについては、裁判所が関与する。あるいは原則、共同親権なのですが、「教育の問題に関してはこちらの親の方だけが決められる」というような、きめ細やかなものにしています。
飯田)細かく分かれています。
野村)逆に言うと細かすぎて、今後は「どれを選ぶのか?」というような話が出てくる可能性もあります。ただ、このタイミングに入ってくると、法制審議会のメンバーには見せないけれど、役所の人たちは内閣法制局に法案を持っていくので、方向感が固まってきている状況だと思います。
法務省の担当している事務方は内閣法制局と論点を詰めて準備している段階
飯田)石川さんは法案づくりもさまざまされてきましたが、そういう擦り合わせやスケジュール感もありますか?
石川)法案を出すときには、内閣で統一的に法律の中身を詰める内閣法制局があります。
飯田)内閣法制局。
石川)法務省の担当している事務方は、そこと事前に論点を詰め、ほぼ条文としてでき上がったものを出しているのです。いろいろな条文案もあり、法制審などでどれに落ち着くかということです。
飯田)法制審議会などによって。
石川)最後は自民党総務会だと思いますが、どういうところで落ち着くかを待ち、事務方は条文化する準備をしていると思います。
「共同親権」を新規導入する場合、必ず問題は出てくる
石川)ただ、それはあくまでも条文という無味乾燥、クールな世界の話であって、実際は共同親権や単独親権について、ネット上でもさまざまな議論があります。それを見ていて不思議に思うのは、いままでは単独親権1つだったではないですか。
飯田)そうですね。
石川)単独親権1つだった世の中でこれだけ争いが起きているのであれば、共同親権という2つ目の選択肢を出し、「選択肢をいくつか持っておく」というように広げる方がいいのではないかと、ずっと思っていました。
飯田)単独親権だけでなく。
石川)しかし、「共同親権が嫌だ」という強硬な否定派もいるわけです。普通に会話していると「なんてまともな人だろう」と思う方が、共同親権の話になった瞬間に目の色が変わって、「そんなものは絶対にダメだ!」と罵倒される。そういうことが何回かありました。
飯田)共同親権を否定する人が。
石川)とても微妙な話なのでしょうね。しかし共同親権など、新規の決まりを出したときは必ず問題が出てくるものです。
飯田)新規の決まりが出た場合は。
石川)新しいルールは社会に定着するまで時間が掛かると思うので、その部分は耐えなければいけないのだと思います。新しいものをつくるときはそうです。
弁護士の世界では、単独親権を前提としたノウハウは存在している ~共同親権になった場合、「本当に守れるか」という不安がある
野村)弁護士の世界のなかでも、単独親権を前提とした実務のノウハウが存在しているわけです。それを続けることによって、「自分たちは争いを解決し、子どもの人権を守ってきた」という自負を持っているのです。
飯田)その方たちは。
野村)共同親権になったあとの世界が見えないから、「本当に守れるのか」という不安感があるのだと思います。
世界のトレンドは共同親権が基本 ~共同親権を選択できる議論に何の抵抗があるのか
野村)しかし、世界のトレンドから考えれば、自分の子どもですから、共同親権は基本なわけです。逆に言うと、(親権がないから)「俺は親権者ではない」など、無責任に考える人だって出てきます。それは望ましいことではないので、共同親権を選択できるようにする、あるいは原則にしてもいいと思います。そういう議論をすること自体にどんな抵抗があるのでしょうか?
飯田)共同親権ということを。
野村)日本的な抵抗のなかには、バイアスの掛かった抵抗もあるので、そこはきちんと整理する必要があると思います。
「どちらの場合もカバーできる」というパズルを解いた答え ~現実の社会のなかで本当に回るかどうか
飯田)もちろんDVや虐待など、特に子どもが不利益をこうむる状態からは絶対に救わなければいけない。事前的にもそうだし、事後的にも救うシステムが必要です。今回のきめ細かさは、そこをかなり意識した部分があったのですか?
野村)どちらにとっても落ち着かないのです。「どちらになってもきちんとカバーする」ということが大事です。最終的には頭のなかで考えたものになってしまっているのですよ。
飯田)なるほど。
野村)確かにパズルを解けば、これで正解だと思います。しかし、あくまでそれはパズルであり、実際に生きた人間が活動するなかで「本当にこれが回るかどうか」は大きな問題だと思います。