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2023/08/07 17:30弁護士事務所での面会交流でオセロゲームをする長男
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「面会交流」という言葉を知っていますか? 両親が別居や離婚をした場合に、子どもと別居した親が交流することです。実際に会う直接交流と、手紙や贈り物で交流する間接交流があります。
離婚時に面会交流について協議する際には「子どもの利益」を最優先することになっていますが、子どもにとって何が利益かは、それぞれが抱える事情によっても異なってきます。また、交流は父母が協力しないとできないため、父母間に信頼関係がなくなっている場合にはうまくいかないことも多いようです。
取材に応じてくれた北信地方の父母は、5年間の別居と離婚調停や裁判を経て、5年ほど前に離婚しました。互いに葛藤を抱えながらも、現在は10代半ばとなった息子と別居する父との直接交流を、別居開始時から今も続けています。
現在、法制審議会の家族法制部会で議論されている共同親権が導入されれば、別居親と同居親、子どもの関わりが増えることが予想されます。「子どものため」の面会交流を巡り、父母が何に苦しみ、どんな支援が必要だったのか。子どもはどう感じていたのか。それぞれの心境をたどって考えます。(伊吹あすか)
■10年ほど前に別居・調停へ
【母・久美さん(仮名)】
「夫といろいろなことが、合わなくて」。久美さんは10年ほど前のある日、別居を決意。当時保育園児だった長男を連れて引っ越した。事前に離婚などについて相談していた弁護士らを通じて「面会交流」の知識はあった。
別居の際に、夫が夫婦関係を元に戻すために起こした調停で、面会交流は月1回程度と決まった。決めたからには「会わせなければならない」「両親の愛情を感じられるようにしたい」とは思ったが、夫を信頼できず「子どもを会わせるのは苦しかった」。
【父・実さん(仮名)】
別居を告げられた実さんは「夫婦に冷却期間があった方がいいと思った。また戻ってくるんじゃないかと思っていた」と振り返る。長男を連れて行かないように求めれば、さらにもめると思いとどまった。そして「第三者がいた方が、冷静に話し合えるのではないか」と考え、夫婦関係を回復させるための調停を申し立てた。
調停では、面会交流や生活費について決めたが、夫婦関係がうまくいかない理由について掘り下げて話し合えなかった。「中身のある話はできなかった。これまでの夫婦間の過程はあまり考えてくれない」と失望した。
■お互いに連絡取り合い面会交流
【久美さん】
別居当初、久美さんは実さんとメールで連絡を取り合い、面会交流の日程を決めていた。ただ、実さんからのメールには、面会交流の日程調整だけでなく、久美さんの生い立ちを否定するような内容もあった。このため、実さんと連絡を取ること自体や、面会交流の場所に長男を連れて行くことを苦痛に感じた。また、面会交流をした後、実さんが長男をそのまま連れて帰ってしまうのではないかという不安もあった。それらが精神的な負担になり、不眠にも悩まされた。
ある面会交流の日は、実さんと会う公園に長男を連れて行ったが、遠くに実さんが見えるとそこから長男を一人で歩かせた。
【実さん】
実さんにとって、面会交流は長男の成長を感じ取れる大切な機会だった。「一緒に暮らしていた時の延長という感じで、会えばすぐに打ち解けた」。会えば、長男が好きな鬼ごっこや、かくれんぼをして遊んだ。別れ際に長男が泣き出す日もあり「父親がいないのが分かってきたのか」と想像もした。
■弁護士の支援を受けたものの…
【久美さん】
面会交流開始から1年弱。久美さんは、当事者だけの面会交流に限界を感じ始めた。そこで、離婚調停を担っている弁護士に相談。弁護士事務所で面会交流ができるように取り計らってもらえた。久美さんは実さんと鉢合わせしないように、弁護士に頼んで事務所の近くまで長男を迎えに来てもらった。
その間、実さんは久美さんの親族や知人を訪ねていた。その際も実さんが自分の生い立ちなどを否定するようなことを言っていたと聞いて傷ついた。
一方で、長男が小学生になり、事務所で遊ぶには手狭になってきた。このため、外での面会交流に再度挑戦してみた。しかし、そのためには、自分で長男を実さんの元に送らなければならず苦しんだ。
弁護士事務所での交流開始から3年余。長男はどんどん成長する。いつまでも弁護士事務所が使えるわけではない。かといって、久美さんには事務所を離れて面会交流を続ける自信はなかった。途方に暮れていた頃、信濃毎日新聞で離婚・別居後の面会交流の支援をするNPO法人が安曇野市を拠点に設立される記事を見つけた。すがるような思いで掲載されていた電話番号に電話をかけた。
【実さん】
実さんは弁護士事務所での面会交流で、子どもとボードゲームなどをして楽しく過ごした。ただし「子どもの成長に合わせていろいろな場所で会いたい」と満足してはいなかった。夫婦関係を修復する手がかりも見つけたかった。だが、これまでの調停での経験から、裁判所に取り持ってもらうことは期待できないと感じた。夫婦関係を戻すために助けになればとの思いから、久美さんの親族や知人を訪ねることもした。
その後、離婚調停は不成立になり、久美さんが離婚裁判を起こした。離婚を認めて和解すれば、面会交流の充実についても話し合える。ただ、離婚を認めなければ、久美さんとの対立が深まって面会交流ができなくなるかもしれない…。そんな狭間で苦しんでいた時、久美さんが依頼したNPO法人の相談員と会うことになった。
(続く…)
【次回】NPOの支援を受け面会交流 離婚受け入れた夫、安心できた妻
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