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5/28(日) 10:17配信
プレジデントオンライン
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なぜ日本の少子化は止まらないのか。評論家の八幡和郎さんは「都道府県で出生率を比較すると、いわゆる『イクメン』が多い県は出生率が低い傾向がある。男性が家事や子育てを手伝うようになれば少子化は改善するという前提での政策展開は、的外れなのではないか」という――。
【図表】合計特殊出生率47都道府県ランキングの推移(1950~2020年)
■日本の出生率は187カ国中174位
少子高齢化を論じる場合に指標となるのは、「1人の女性が生涯で何人の子どもを産むのか?」という合計特殊出生率である(以下、基本的には出生率と呼ぶ。出産可能年齢とされる15~49歳の年齢別出生率を合計したもの)。
2020年の日本の出生数は84万835人で、合計特殊出生率は1.33だった。世界の出生率ランキングでは、日本の順位は187カ国中174位であるが、G7参加国中では6番目で、イタリアが1.24で最下位(181位)である。G7トップはフランスの1.83(120位)で、米国、英国、ドイツ、カナダが続く。1980年には、イギリスの1.90がトップでフランス、米国、1.75の日本が僅差で続いていた。
ちなみに、2020年時点での世界最低は韓国でなんと0.84。1980年に2.82だったのだから少子化は最も深刻だ。同じく中国は2.61から1.70に低下している。
また、日本国内での推移を見ると1925年には5.10だったが、1950年に3.65、1960年に2.00となり、その後も長期低落が続いている。
■国内トップ10は四国・九州に集中している
ただ、日本中、同じような数字かといえば、そんなことはない。1位の沖縄は1.83、上位11県が1.50以上である一方、最下位の東京は1.12、下位9都道府県が1.30未満である。
この地域差は、日本の少子化の歯止めのために何が必要かという観点からも、人口を増やせる地方へ産業などを誘導することで、少子化を回避できないかを考える上でもヒントが隠されているように思える。
2020年時点における出生率の都道府県別の順位を見てみよう(図表1)。上位10県は、沖縄、宮崎、鹿児島、長崎、島根、熊本、佐賀、福井、大分、鳥取である。
また、下位10都道府県は、下から東京、宮城、北海道、秋田、京都、神奈川、千葉、埼玉、神奈川、千葉、埼玉、奈良、大阪である。
つまり、上位10県でもっとも東なのは東西日本の境界線上(47都道府県は福井・滋賀・三重を真ん中に二分される)にある福井で、残りはすべて九州か中国地方である。
■いつから「西高東低」になったのか
全国平均以下の都道府県には、東京・大阪周辺が多いが、仮に東京と大阪の隣接県を除いてみると、宮城、北海道、秋田、栃木、岩手、新潟、青森となる。
この傾向は1990年ごろからほとんど変わっていない。しかし、戦争直後の1950年では、上位5道県が、青森、北海道、長崎、岩手、福島(沖縄は復帰前)で、下位5都府県が、東京、京都、大阪、奈良、兵庫だった。
もう少し、細かく見ると、1960年の高度経済成長開始から、東北が急速に下がり始めて、その後も回復していない。一方、九州など西日本各県が、順調に順位を上げてくるのだが、これらの県でも出生率の数字自体は下がっており、下位の都道府県より下がり方が少ないというだけである。
たとえば、2020年時点で4位の長崎県は1.61だが、1950年には4.49だったから約3分の1になっているのである。ただ、下がり方が明らかに東日本より西日本のほうが小さかったのである。
■東北では冬季の出稼ぎが少子化の要因に
この東北の動向について、SNS上でも論議し、地元経済の歴史をよく知る人などと意見交換を重ねたところ、戦前から戦後にかけては、子どもを農業労働力として重宝していたことが子だくさんの理由の一つだったようだ。
ところが、高度経済成長期には、二毛作が不可能な東北独自の現象として、冬季の出稼ぎが拡大し、1年間で夫婦が一緒に過ごす期間が短くなった。こうした西日本と異なる事情が、西日本と比べて東北で急速な減少を見せた理由ではないかということで、だいたい意見が収斂した。
東北の出稼ぎは減ったが、現在では、大都市でも企業の転勤に配偶者がついていかず単身赴任というケースが増え、これが、子どもの減少に影響している可能性はかなり高いように見受けられる。それに加え、戦前の東北では子どもの死亡率が高かったことが、子どもをたくさん産んでいた理由の一つという指摘もあった。
■出生率と相関するデータはなかなか見当たらない
東北については納得のいく理由が見つかったとはいえ、出生率の「西高東低」は、いわゆる県民性とか社会経済についてのさまざまな数字との相関性がなかなか見いだしにくい。
共立総合研究所が、文部科学省「平成25年度全国学力・学習状況調査」(小学6年生対象)の分析によりランキングした「『いい子どもが育つ』都道府県ランキング」(2013年度データ)というのがある。ここで1位になったのは秋田だが、2020年の出生率では44位、出生率トップの沖縄は46位だから、まったく関係がなさそうだ。
通勤・通学時間は、出生率が低い大都市周辺で長いが、同じ地方圏のなかで比較してみると、出生率にはほとんど影響していない。
平均寿命、喫煙、飲酒、持ち家、家の広さ、女性就業率、子どもの学力、睡眠時間……このあたりも相関性はない。医師数を見てみると、西日本のほうが人口比の割に国立医大の設置が多いため、一般に西日本で多く東日本で少ない傾向があり、少し相関性はあるが、これが出生率に関係しているかはわからない。
三世帯同居率は、東北や日本海側で高く九州などでは低い。その結果、同居率が低いほうが、出生率が高いことが多いともいえるが、断定できるほどの相関性はない。
■「子どもにお金をかけたい県」は出生率が高い
ソニー生命保険株式会社が2015年に行った「生活意識調査」は、主観的な意識の問題だが、少しヒントがある。
「子育てのしやすさが自慢」は、福井、富山、香川、鳥取、山口が上位だが、比較的、出生率が高い地域だ。
お金の使い道について、住宅とか健康などとの相関性はないが、「教育にお金をかけたい」は、徳島、福岡、大分、兵庫、広島、愛媛が上位だから少し関係はしている。やはり子どもの将来が楽しみだ、自分より子どもにお金をかけたいという意識のところは出生率も高いようではある。
また、男性の平均初婚年齢(2021年、全国平均30.9歳)を見ると、初婚が早い上位道県が岡山、山口、宮崎、広島、佐賀、福井、徳島であり、初婚が遅い下位は関東地方が多い。女性(同、全国平均28.6歳)では、上位が愛知、愛媛、茨城、岡山、沖縄、下位が和歌山、北海道、兵庫、福島、福岡であるから、初婚が早い都道府県のほうが、出生率が高いという傾向は間違いなくある。
■親族、地域社会全体で子どもを育てる地域
県民性などとの関連で、感覚的に感じるのは、九州などでは、祖父母や親戚、地域社会全体で子どもをかわいがり、成長を喜ぶ気分が強い印象がある。
私は沖縄で勤務していたことがあるが、沖縄では、たとえば夫婦が離婚しても、実家の祖父母や兄弟姉妹が子育てをわりに積極的に引き受けると耳にした。また、習慣で男性の一族からしか養子を取れないので、男の子ができるまで何人も産むし、兄弟のところに男子がいないと、頑張って2人目の男子を得ようとする傾向があるので出生率が高くなると言われていた。最近ではそういう特殊事情は希薄になってきたようだが、完全になくなったわけでもないようだ。
保育園とか、医療費補助とかは、市町村レベルで決められるので、都道府県のなかの市町村同士ではそれなりに差が出るが、都道府県全体の数字に影響しているかと言えば疑問である。
■「イクメン県」は出生率ではパッとしない
一般常識からすると意外なのは、男性の子育てへの参加との相関性だ。なんと、男性の子育て参加が少ない都道府県ほど、出生率が高い傾向がある。
総務省の社会生活基本調査(2021年)によると、「6歳未満の子どもを持つ夫の家事関連時間」(※)の全国平均は1.54時間であり、都道府県別の数字は「イクメン⁉ランキング」としてまとめられている。
※夫婦と子どもの世帯、土日を含む週全体の平均。家事関連時間とは、「家事」「介護・看護」「育児」「買い物」の時間
このランキングの下位、つまり夫が家事をしない県には石川、大分、熊本、山口、愛媛、長崎、岡山、兵庫、佐賀、沖縄と、出生率トップクラスが多く並んでいる。ちなみに、上位5県は奈良、新潟、高知、和歌山、千葉で、出生率ではパッとしないところばかりだ。
先ほど紹介したソニー生命の調査でも、「夫がよく家事に参加している」の上位は、群馬、東京、岩手、三重、和歌山、「夫がよく子育てに参加している」の上位は、宮崎、岩手、山梨、佐賀、北海道、神奈川、兵庫といったところで、出生率下位の県が目立つ。
こうした数字からは、「男性が家事や子育てを手伝うようになれば少子化は改善する」という前提での政策展開は、あまり効果がないのではないかという疑いが出てくる。
■「20代のうちに結婚・子育て」への回帰を
そもそも、日本の少子化対策がうまくいかない最大の理由は、男女共同参画政策をもって少子化対策だと検証なく代替させているからだ。これらはそれぞれ大事だが、まったく別の問題であって、政治的意図で歪めるのはよくない。
私は男女とも早めに結婚し、体力があり、また、祖父母も若いうちに複数の子どもを作り、子育てが一段落したのちに、もっとも職業人として力を発揮できる30~40代で頑張るようなライフサイクルが理想的だと思うし、それを推奨、支援することでこそ子だくさんが多い社会にできると思っている。
現在、特に女性において顕著なように、30歳を超えて結婚して、子育てでキャリアを中断させられるようなサイクルでは、複数の子を持つのは難しいし、子どもを持つ女性のキャリア形成の支障にもなっている。日本全体でも20代における結婚・子育てへの回帰が適切だが、地域においても、工夫できる分野だと思う。
■離婚後も共同で子育てできる制度も有効
ちなみに、現在、世界でもっとも活躍している女性のうち、ナンシー・ペロシ前米国下院議長は、23歳で結婚して5人の子どもを育てた後、47歳で下院議員に当選。女性として初めて欧州委員会の委員長になったウルズラ・フォン・デア・ライエンは、27歳で結婚して7人の子どもを産んで、42歳でドイツ・ゼーンデ市会議員として政界入りしている。
あるいは、夫の海外赴任に同行していた女性たちがその間に学んだり現地で働いたりした経験を生かして帰国後、事業や仕事を始めて成功していることが多いのは、私自身の海外勤務時代の同僚たちの夫人たちを見ても間違いない。その一人が、NPO法人「国境なき子どもたち」の専務で、守谷絢子(元高円宮)さんの夫である守谷慧氏の母親(故人)だった。
さらに、離婚後の共同親権制度の導入など、両方の親や家族が共同して子育てができることも少子化に歯止めをかけることに有効なのではないかと考える。
■「子だくさんを喜ぶ文化」をどう育てるか
47都道府県のうち、出生率トップの沖縄で1.83、10位の鳥取でも1.52で、最下位の東京は1.12というのは、想像以上の差だと思う。また、大都市部・東日本で低く、地方・西日本で高い傾向があることは、これまで説明してきた通りだ。
それ以外の各種指標との相関性はなかなか取りづらいが、初婚年齢が低いこと、子どもの教育にお金をかける傾向が強いことなどは子だくさんにつながっている。一方、意外なことに、夫が家事を手伝うとか子育てに参加するといったことがむしろ少ないほど、子だくさんであって、少なくとも「イクメン」が少子化克服の決め手というのは間違いだ。
西日本の高さの理由を考えると、祖父母や兄弟姉妹などを含めた家族や地域社会が子どもの成長を楽しみにし、助け合うことが東日本より多いように思う。もちろん、子育て支援なども大事だが、子だくさんを喜びとする文化が国においても、地域においてもとても大事だということだろう。
■子どもを増やせる西日本にヒトとモノを移す
私は、欧米を中心に認知が進む同性婚などやLGBTに対して、日本でも理解を増進させ、関係者が生きやすくすることは、絶対に必要だと思う。
ただ、人類や国家、民族、地域社会を継続させるためにも、男女のカップルで子どもをつくり、父母を中心とした家族が育てるということが基本パターンであるということに変わりはないし、そのことの価値を再認識するべきだ。このことについては別の機会に論じたいし、近刊の『民族と国家の5000年史 文明の盛衰と戦略的思考がわかる』(扶桑社)を読んでほしい。
また、日本全体として少子化を食い止めるためには、何が出生率の高低に影響するのかを正しく分析するだけでなく、出生率が高い地域へ、産業と人口の移動を促す政策を検討することがなによりも重要だ。東京一極集中を解消する地方分散策と、少子化対策の一石二鳥になるわけで、こんな効率的な政策はないからだ。
八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。
徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎