白熱!法制審議会 社会の根本方向付け、その実像は【政界Web】

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4/1(土) 15:30配信

時事通信

 法相の諮問機関である「法制審議会」をご存じだろうか。時々ニュースに取り上げられる通り、民法や刑法といった国の基本法の内容を方向付ける重要な役割を担っている。社会のありようや国民生活に広く及ぶテーマを扱うだけに、議論はしばしば白熱し、委員の意見は時に激しく対立する。知られざる実像を追った。(時事通信政治部 上田隆太郎)

重鎮そろう総会

 法制審の役割は「民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議すること」(法務省組織令)。社会情勢の変化や世論の高まりなどにより、刑法や民法、商法、刑事訴訟法、民事訴訟法といった基本法を改正したり、新たに法律を制定したりする場合に、法相の諮問を受けて検討が始まる。  総会と部会で構成。総会は学界や法曹界、経済界の有力者が主なメンバーで、労働界のトップ、芳野友子連合会長も加わっている。歴代の会長には高名な学者が名を連ね、今は中央大大学院教授(慶応大名誉教授)で刑法が専門の井田良(いだ・まこと)氏が務める。  

一方、部会は諮問事項ごとにその都度設置され、現在は「家族法制部会」「担保法制部会」「刑事法(情報通信技術関係)部会」「区分所有法制部会」など六つ。委員は当該分野に詳しい学者や実務家、関係する当事者らが務め、実質的な検討はここで行われる。月1回以上の頻度で集まり、1年以上にわたって審議を重ねるのが通例だ。

法案に直結

部会では、初回に事務局となる法務省が諮問の背景など議論の前提となる事情を説明。その後は委員がおのおの意見を述べていく。事務局は委員の発言を踏まえ、進捗(しんちょく)に応じて「たたき台」や「中間試案」を作成。委員はそれらを基にさらに検討を続ける。  

必要に応じて関係者へのヒアリングやパブリックコメント(意見公募)も実施。審議の結果は最終的に要綱案などの形で取りまとめられ、総会での採択を経て法相に答申する。  

要綱は法案にそのまま反映されるなど、法制審の影響力は大きい。実際、「基本法の立案準備機関」と呼ぶ関係者もいる。

性犯罪要件で決定打

 部会の議論は原則、発言者を明らかにした議事録として残り、公開される。それを見ると、委員の意見が法案の内容に結び付いていく様子が分かる。  

例えば、性犯罪の成立要件を明確化する「刑事法(性犯罪関係)部会」でのやりとりだ。現行刑法の強制性交等罪や強制わいせつ罪の「暴行または脅迫」の要件をどう改めるかが論点となる中、事務局は当初、被害者の「拒絶困難」を要件とする試案を示した。  

これに対し、複数の委員から「『拒絶』は被害者の視点から見て容認できない」「被害者に拒絶義務を課すことになる」などの批判が続出。事務局は「拒絶」の2文字を削除し、「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態」にさせた場合に成立するとした試案を再提出した。この文言は政府が今年3月14日に閣議決定した刑法改正案に盛り込まれた。

24回審議中の共同親権

 委員間で見解が真っ二つに割れる場合もある。離婚後も父母の双方が親権を持つ「共同親権」の導入を巡って賛否が対立し、白熱した議論が続いている家族法制部会がその一例だ。

 スタートは2021年3月。「離婚後も両親がともに子の養育に責任を持つべきだ」とする賛成派と、「離婚後もDV(家庭内暴力)や虐待が続く恐れがある」と懸念する反対派の主張を踏まえ、事務局は22年11月、現行の「単独親権」を維持する案と共同親権を導入する案を併記した中間試案を提示した。  審議はその後も続き、今年3月末時点で計24回を数えるが、着地点はなお見通せない。法務省内からは「全員が満足する答えは存在しない」「終わりが見えない」との声が漏れている。

政策官庁との違い

 中央省庁の審議会に対してはかつて、「官僚の隠れみの」に使われているとの指摘がなされた。事務局である省庁が各界から集めた委員に裏で「振り付け」を行い、あらかじめ決めた結論に誘導しているのではないかとの批判だ。  

法制審もそうなのか。ある法務省幹部に尋ねると、「基本法を扱う法務省と他の政策官庁とは発想が大きく異なる」との答えが返ってきた。  

基本法の改正は法体系全体や国民生活に及ぼす影響が大きいため、学者や実務家、当事者の意見も踏まえた深い検討が求められる。この幹部は、そうした点が特定の政策上の目標に進む省庁と根本的に違うとした上で、「基本法は役人だけで答えを出すのは不可能。それでは国民が納得しない」と強調した。

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