親の拒否感情を、引き離しの正当理由にする、珍しい社説です。
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1754542
2023年3月30日 午前7時30分
【論説】離婚後の親権を巡り、父母双方の「共同親権」を導入するか、現行のまま父母どちらかの「単独親権」だけを維持するか。法制審議会(法相の諮問機関)の中間試案に対するパブリックコメント(意見公募)が2月に終わり、今後は寄せられた幅広い声を基に議論が進められる。当事者は、共同、単独のどちらを支持するかによらず切実な悩みを抱えている。子どものために親権制度がどうあるべきかという視点が必要だ。
共同親権に関する議論は、養育費が支払われずに経済的に困窮したり、子どもが親と会えなかったりして、検討を求める声が上がったことがきっかけ。離婚後も父母が子育てに関与できるようにすべきとの考えや、親権争いから起きる子どもの「連れ去り」を防ぐ観点から支持する声がある。一方、元配偶者との関わりを避けたいドメスティックバイオレンス(DV)の被害者らは反対している。
2021年のひとり親世帯に関する厚生労働省の調査(推計値)によると、母子世帯のうち養育費を受け取っている世帯は28・1%にとどまり、養育費に関する取り決めをしている割合も50%に満たなかった。面会交流の実施割合は母子世帯で30・2%、父子世帯で48・0%で、取り決めの割合はともに30%程度だった。母子世帯では、養育費や面会交流に関する取り決めをしない理由として「相手と関わり合いたくない」が最も多く挙げられた。
本紙で昨年11~12月に掲載した連載「離婚後の親権」で、DVを受けた県内の女性は、「子どもを大切に考えなかった前夫に、共同親権が適用されたらと思うとむしずが走る」と語った。一方、県内の男性は離婚後、子どもとの面会や学校行事への参加を巡る元妻側の対応に納得できないことも多いとしつつ、「強く反論できない。(元妻の)機嫌を損ねれば、子どもと会えなくなる可能性がある」と打ち明けた。
憲法学者で東京都立大教授の木村草太さんは、2月に福井市内で講演した際、共同親権に関して「父母が不仲である場合、子どもの引っ越しや進学、医療などがスムーズに決められなくなり、子の利益を害する恐れがある」と課題を指摘。「必要なのは両親の協力関係。相互に話し合える信頼関係がない場合、子どもの重要事項をすぐさま決定できない」と訴えた。
「親権」とは、子どもの利益のために身の回りの世話や教育、しつけ、財産管理をしたりするもので、単に親の権限ではなく、責務だとされる。子どもが最善の利益を得て成長していくために、養育費や面会交流に関する取り決めや実施状況などを継続的にケアする仕組みも検討すべきだ。