議論される離婚後の「共同親権」制度の問題点──「子どものため」という言葉の背後に見え隠れする“親のエゴ”

母性神話全面展開

https://fumufumunews.jp/articles/-/23668?page=3

林美保子

2023.03.26 20:01SNSでの感想

両親が対立すればするほど子どもは板挟みになり、よけいに傷つく(写真はイメージです)

離婚夫婦子ども家族法律

目次

  • 子どもの学校行事でエゴを押し通す別居親たち
  • 父母の板挟みになって子どもが不利益を被ることも
  • 「共同親権か単独親権か」の二択の問題ではない

 日本では子を持つ夫婦が離婚するとどちらか一方が親権者になる「単独親権」が採用されていますが、現在、国の法制審議会が親権制度を見直すかどうか議論を進めています。父と母の双方を親権者とする「共同親権」を導入する案も検討される中、この親権問題についてジャーナリストの林美保子さんがリポートします。<後編>

  ◇   ◇   ◇  

 親権問題を語るときには、だれもが、「子どものため」「子どもの最善の利益に」という言葉をまるで枕詞のように使う。しかし、離婚家庭に育った子どもだった私から見ると、その言葉の背後には、むしろ親の権利を優先しているのではないかと思われるような言動が見え隠れすることがある。

子どもの学校行事でエゴを押し通す別居親たち

 離婚家庭が増えている今日では、学校行事への参加を希望する別居親が増えている。一緒に並んで授業参観や運動会の観戦をする元夫婦もいれば、距離をとって参加をする元夫婦もいる。多くは、節度を持って子どもを見守っているのだが、中には困った行動をする別居親もいるという。

 小学生の娘を持つA子さんは、コロナ禍前の運動会や授業参観でそんな父親Bさんを見てきた。A子さんの娘とBさんの息子は小学2年から4年まで同級生だった。

 Bさんは参観日に出席すると、教室の後ろで参観するという決まりごとを無視して息子の席の横や後ろにつく。

近くの席の児童たちも迷惑そうな顔をしていましたし、何よりも、Bさんのお子さんが嫌がっていました」と、A子さんは語る。

 授業中であるにもかかわらず、教室の中を移動しながら動画撮影も始める。教師に注意されると、いったんは引き下がるが、少したつとまた元の木阿弥だ。参観が終了して休み時間になっても居すわり、息子にまとわりつく。

「お母さん(Bさんの元妻)も困り果てて、肩身が狭そうでした」

 Bさんは運動会でも、保護者の立ち入りが禁止されている児童席や入場門にやってきて息子に話しかけ、撮影をする。息子が嫌な顔をしていてもお構いなしだ。

お父さんには来てほしくないんだけれど、お母さんが約束しちゃったから仕方ないんだ。ごめんね

 そう言って、Bさんの息子は同級生に謝ったそうだ。ほかのクラスの児童からは、「おまえの父ちゃん、ウザイよな」とからかわれていた。

 こうしてBさんは10回近く学校行事に参加していたが、息子は4年の2学期から学校行事を欠席するようになった。そして、翌日になると、同級生から行事の話をうらやましそうに聞いていたと、A子さんは娘から聞いた。

 その後、Bさんの息子は突然転校してしまった。

 A子さんは、ほかのクラスや他校に通う子どもを持つ友人からも似たような話を聞く。

はじめは別居親に学校行事を知らせていたけれども、参加時のマナーが悪いために調停まで起こして参加を断ったケースや、“パパが来るなら欠席する”とお子さんが嫌がったために断ったケースもありました

 2020年11月20日に開かれた衆議院文部科学委員会で、萩生田光一文部科学大臣(当時)は、次のように述べている。

「学校行事の現場に来て、そのお子さんのみならずほかのお子さんにも迷惑をかけるような対応は、正直、文科大臣としては迷惑な話だなと。(中略)良識ある大人だったら、子どもの教育現場に来て、親の権利だけで、見せろとか入れろとかということで学校の先生たちに迷惑をかけるのは~(後略)」

 文科大臣がここまで踏み込んだ発言をするということは、A子さんの話は決してレアケースではなさそうだ。

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父母の板挟みになって子どもが不利益を被ることも

 昨年11月16日、3歳の娘が肺の動脈弁をバルーンで拡張する手術を受ける際に説明や同意がなかったことに精神的苦痛を覚えたとして、別居中の父親が滋賀医科大を相手取り、慰謝料を求めた裁判で、大津地裁は同医大に5万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

 毎日新聞によれば、父親は大津家裁によって面会を禁じられている状態にあり、母親は病院にもその旨を伝えていた。父親は、婚姻中は共同親権にあるという法律を盾に、自分の権利を主張したのだ。父親にとっては、娘の命を救ってくれたことへの感謝よりも、親としての権利のほうが大切だったようだ。

 このように、離婚後に共同親権になれば、「なぜ自分に通知しないのか」などと親権を持つ別居親から主張され、学校や病院が難しい対応を迫られるケースが出てきそうだ。

 元夫婦は転居や進路、歯列矯正などの重要決定事項を離婚後も話し合って決めることが必要になる。話し合いで決まらなければ、裁判所で決めることになるが、その板挟みになるのは子どもだ。進学先の決定や手術の同意などスピーディーに決めなければならないとき、一方の親が反対すれば、子どもは不利益を被りかねない。

 養育費を払わない別居親は8割近くいると言われている。わが子が生活に困る心配よりも、「自分の金を元配偶者にいいように使われたくない」という思いのほうが強いようだ。

 共同親権というのは、「子どもは親が大好き」で、「父母とも良識ある大人」という条件下においては理想的な制度かもしれない。しかし、現実にはそうとは言い切れない事例が一定数存在する。しかも、両親の不協和音が大きく、子どもになかなか会えない別居親たちが共同親権を強く望んでいる。

 中には、「子どもを連れ去られた」と主張して、面会妨害に対する損害賠償請求、裁判官への訴追請求、元配偶者へ未成年略取誘拐罪での刑事告訴などさまざまな申し立てを繰り返す別居親もいる。

 しかし、自分の同居親に厳罰を望むような別居親に子どもは会いたいと思うだろうか。イソップ寓話「北風と太陽」のように、強引に事を進めようとしても相手の心は離れていくだけではないだろうか。

 両親が対立すればするほど子どもは板挟みになり、よけいに傷つく。子どものためを思うのならば、違う努力が必要なのではないだろうか。

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「共同親権か単独親権か」の二択の問題ではない

 海外では、20世紀後半にアメリカやイギリス、オーストラリアなどで父権運動が起こり、共同親権も制度化された。現在の日本は、そのころの欧米と酷似しているように思う。つまり、それらの国では、すでに20世紀後半に離婚家庭が増えて、それに伴う問題が出てきたわけで、日本も離婚家庭の増加によって似たような問題が数十年遅れて出てきたものと考えられる。

 最近では、共同親権の問題点も少しずつ出てきて、法改正の動きがある。例えば、オーストラリアでは、父母の親権の平等よりも子どもを虐待から守るなどの観点から見直しの議論がされている。イギリスでも、子の福祉は親との直接交流である必要はないなど子どもを守る方向にシフトしてきている。

 共同親権も単独親権も、メリットデメリットがある。現行法である単独親権では、同居親に問題があった場合、別居親は手出しができにくいというリスクがあるようだ。共同親権だと、DVや虐待の支配から逃げられないという懸念がある。

 欧米の多くは共同親権ではあるが、日本と違って裁判所の介入を経て離婚が成立する。養育費やDV加害者更生プログラムの受講にも強制力がある。裁判所のマンパワーが不足ぎみで、個人の裁量に任されることが多い日本の制度の上に、海外の制度をそのまま乗っけても実状に合わない部分も出てくるのではないか。

 いずれにしても、修正すべき点はあるように思う。先を行く欧米諸国における共同親権制度の問題点を洗い出し、研究してから、日本の親権問題を考えたほうがいいのではないだろうか。

 そして、本当の意味で、子どもの利益を最優先に考えてもらいたいものだ。

(取材・文/ジャーナリスト・林美保子) 

〈PROFILE〉
林美保子(はやし・みほこ)
ジャーナリスト。DV・高齢者・貧困など社会問題を取材。日刊ゲンダイ「語り部の経営者たち」を随時連載(2013年~)。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)がある。

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