地上波で別居親批判をさせて、ネットで言い訳。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/03/08/29682.html
2023年3月8日
離婚後の子育てを考える 揺れるオーストラリア
離婚の後、親が子どもをどう育てていくのか。
現在、国の法制審議会が「親権」の制度を見直すかどうか議論を進めていて、2022年11月に、父と母双方を親権者とする「共同親権」を導入する案と、一方のみの「単独親権」を維持する案を併記する中間試案をまとめました。
そもそも「共同親権」とは?制度を導入している海外はどうなっているのか?取材しました。
この記事の目次
- 日本での議論の現状は?
- 海外の状況は?
- オーストラリアの「共同の親責任」とは?
- オーストラリアの人たちはどう考えている?
- 離婚したオーストラリアの家族 両親の家を均等に行き来するケース
- オーストラリアの制度に課題は?
- 離婚したオーストラリアの家族 DVでも「共同の子育て」を命じられるケース
- オーストラリアの現状どう見る?専門家は
日本での議論の現状は?
そもそも「親権」とは、未成年の子どもの身の回りの世話、教育、財産の管理などのために、父母に認められた権限であり義務です。
日本では現在、夫婦はどちらも親権を持ちますが、離婚するとどちらか一方が親権者になる「単独親権」という制度が採用されています。
親権者を決めることが、離婚の実質的な要件になっていて、話し合いでまとまらない場合は、調停などを通じて決めることになります。
この制度については国の法制審議会が見直すかどうかの議論を進めていて、2022年11月に、父と母双方を親権者とする「共同親権」を導入する案と、一方のみ「単独親権」を維持する案を併記する中間試案をまとめました。
ただ、この「共同親権」については、賛成と反対の声があります。
導入に賛成する人たちの主な意見は次のようなものです。
「『単独親権』だと、親権を持たない親が子育てに関わりづらく、子どもとの交流が断たれがちになる。離婚した後も、父と母の双方が子どもの成長に関われるようになれば、養育により責任を持てるようになる」
一方で、反対する人たちは次のような理由を挙げています。
「『共同親権』になると、子どもの養育をめぐって父と母の意見が対立した場合、合意するのに時間がかかり、子どもが板挟みになりかねない。DV=ドメスティック・バイオレンスや虐待などのおそれがあるケースでは、子どもの安全が守られない」
海外の状況は?
2020年に法務省が公表した調査では、日本以外の主要20か国(G20)を含む24か国のうち22か国で、「単独親権」だけでなく、「共同親権」も認められています。「単独親権」制度だけを採るのは、インドとトルコの2か国でした。
ただ、国ごとに離婚の制度や親権という概念なども異なっていて、単純な比較は難しいという指摘もあります。
このほか各国では、離婚後の家族に関する様々な制度を整備しています。
こうした国々の中でも際立っているのがオーストラリアです。
1995年に「離婚後も両親が共に子どもに対して責任を持つ」という法改正を行い、日本で検討が進められている「共同親権」に近い「共同の親責任」という制度を導入しました。
さらに2006年には、養育に関する裁判では「離婚後も両親が子どもの重要事項の決定を平等に行うことが、子どもの利益にかなうという推定を適用する」とした法改正を行いました。離婚後も両親による共同での養育を強く推奨するものでした。
30年近く前に「共同の親責任」を導入し、その後も、共同で養育することを推奨するため、離婚する家族に対するさまざまな制度を整えてきたことで、世界からも注目されています。
しかし、今、子どもの利益にかなわないケースを排除することができないとして、法改正の議論も始まっています。
オーストラリアの「共同の親責任」とは?
オーストラリアでは、離婚や、離婚後の子どもの養育について、日本とは違った決まりがあります。
特徴的なのは、離婚までに、事前に様々な取り決めを行うことです。
オーストラリアの法律では、12か月の別居期間を経ないと、離婚できない仕組みになっています。その間に、両親は子どもの具体的な養育の仕方などについて取り決めを行うことになっていて、離婚後の子どもとの関わり方を考えることになります。
例えば、次のような点を事前に決めておきます。
・父親と母親のどちらと住むのか
・別居する親との面会はどのようにするのか
・教育費など養育費はどうするのか
・学校の長期休みやクリスマスなどはどちらと過ごすのか
・学校の行事はどちらが参加するのか
・海外旅行に行く際の許可が必要か
日本では離婚後、相手から支払われないケースも多い養育費については、収入や子どもと過ごす時間の割合に応じて、政府が自動的に給与から天引きする仕組みもあります。
こうして双方の親が、子どもの養育に責任を持つことが求められています。
また、離婚にあたって両親の間で、養育についての意見が分かれた場合に相談できる機関も整備しています。
「Family Relationship Centres=家族関係支援センター」という機関で、民間団体が政府の資金で運営しています。オーストラリア国内に100か所あまりあり、一定の時間までは無料で利用することができるようになっています。
例えば、子どもの進学先をめぐって両親の意見が対立した場合は、施設のスタッフが間に入り、双方から意見を聞き取ります。
また、子ども専門のスタッフもいて、子どもを個別にカウンセリングして、子どもの“本音”を聞き出すようにしているといいます。ただ、話し合いで決まらないケースもあり、その場合は裁判などで決めることになります。
オーストラリアの人たちはどう考えている?
離婚した後も、両親が子どもと関わり続けるべきだという考えが社会に浸透しています。
2008年の政府機関による調査では、「離婚後も両親がともに子どもの養育に当たるべき」と考える人が8割でした。
こうした考えから、オーストラリアでは離婚後も、両親が子どもと交流を持ち続けることが一般的で、政府機関による2014年の「子どもの養育時間に関する調査」では、次のような割合になっています。
・母親と父親でほぼ同じ…9%
・宿泊を伴う交流を行っている…70%
・宿泊を伴わない交流のみ…19%
・一方の親とは全く会わない…10%
また、離婚後も父母が協力的な関係を築けていると回答した人たちは61%でした。一方、別の調査によると、離婚する夫婦のうち、2割ほどが政府の提供する家族間の紛争解決サポートを利用し、1割ほどは裁判に発展しているということです。
離婚したオーストラリアの家族
両親の家を均等に行き来するケース
ブリスベン郊外に住むマヤ・スキルトン(13)さんのケースです。
日本人の母親とオーストラリア人の父親の間に生まれ、両親は7年前に離婚しました。母親が看護師で、泊まり勤務があるなど時間が不規則なこともあり、大学で教員を務める父親の家と母親の家を行き来する生活を送っています。
どういう時に、どちらがマヤさんの子育てをするか、事前に両親の間で調整をしていて、母親と父親の家には、どちらにもマヤさんの部屋があり、服や生活用品もそろっています。
学校の行事、保護者面談、習い事の発表会には両親が一緒に参加しています。
「両親が離婚したことは悲しかったです。でも、今は2人の関係を理解しているから悲しくはありません。今の生活にも慣れ、両親が私に関わってくれることはいいことだと思います」(マヤさん)
「マヤの父親も私も、マヤのことを一番に考えています。夫婦としてはうまくいかなかったけれど、父親としてはいい人で信頼しています。だから、この生活ができていると思います」(母親の幸子さん)
オーストラリアの制度に課題は?
うまくいっているケースがある一方、子どもの利益につながらない事態も起きています。
離婚した後も、両親が子どもと関わり続けるべきだという考えが浸透していることから、DVや虐待がある家庭であっても、離婚後、両親の双方が子育てに関わることになるケースが数多く出てきているのです。
法制度では、DVや虐待がある場合は、共同の子育てから除外するとされていましたが、DVや虐待が見過ごされたり、過小に評価されたりしているとの指摘もあります。
2009年には、4歳の女の子が面会交流中だった父親に橋から投げ落とされて死亡する事件が起きました。
母親は子どもに危険が及ぶおそれがあると弁護士や医療機関に訴えていましたが、裁判所からは父親と会うことが命じられていたためでした。
その後も、離婚後の暴力や、子どもと過ごす権利を求める訴訟が相次いでいます。
離婚したオーストラリアの家族
DVでも「共同の子育て」を命じられるケース
ブリスベン郊外に住むアンさん(仮名)もそうした経験をした1人です。
14歳から20歳の3人の子どもたちと暮らしていますが、去年離婚が成立するまで、3年半にわたって元夫との訴訟が続きました。
元夫は、アンさんに暴言を吐く、さげすむ言葉を繰り返すといった精神的なDVに加え、経済的・性的なDVもあったといいます。
そうしたDVがエスカレートしたことから、2018年に子どもと一緒に家を出ます。
しかし、元夫はアンさんや子どもにつきまとったり、家に勝手に入ったりしたことなどから、警察に相談し、裁判所から元夫に対してアンさんや子どもたちに近づかないよう命令が出されました。
一方の元夫は、子どもたちと過ごす時間を半分半分にするよう裁判所に提訴します。裁判所は、15分間だけ子どもたちの聞き取りも行い、「安全」と判断して、元夫とも半分ずつ過ごすように命じたといいます。
その後も元夫は、裁判所に「妻は精神的に問題がある」「妻といると子どもたちが危険にさらされている」などと訴え、アンさんは1年半あまりの間、ほぼ毎月、裁判所に通ったほか、子どもたちのヒアリングのため、子どもたちを連れて行く必要もありました。
裁判所の取り決めで、子どもたちとは、元夫の話をしてはいけないことになっていたため、子どもたちが元夫に暴力を振るわれたり、虐待を受けたりしていないかとても心配だったといいます。
「子どもたちを守る方法がなくて、本当に胸が張り裂けそうでした。“共同で養育することが理想”とされているために、DVの主張などをすると、こちらが共同で養育することを拒んでいるように受け止められ、私が子どもたちと過ごせなくなるおそれもあります。弁護士からもDVの主張をしないようアドバイスされます。子どもと過ごすことが適切ではない親とも交流するように強いられるのです」
オーストラリアの現状どう見る?専門家は
オーストラリアの家族法に詳しい、東京経済大学の古賀絢子准教授は、2006年の法改正で「共同での養育は子どもの利益になる」という理念を掲げ、共同での養育を推奨する中、一部の子どもの利益がおびやかされる事態が起きていると指摘します。
2006年の法改正では、暴力や虐待を伴う家族に対しては、共同での養育を促さないこととしていますが、実際にはそうした家族でも共同での養育が行われることになり、子どもの安全が不安視されることは少なくないといいます。
そもそも家庭内という密室で行われる暴力を認定することが難しい上に、共同での養育が推奨される中では、被害を受けている親は暴力の問題を持ち出しにくい面があるからです。
また一部の親が、ことあるごとに裁判所の命令に不服を申し立てたり、子どもと同居する親の養育に反対して裁判を起こしたりすることも問題となっています。
同居する親への攻撃を目的として裁判を乱発し長引かせることが、“新しい形の暴力”となり、子どもや同居する親を追い詰めているとしています。
こうした実態も踏まえ、オーストラリア政府は、2023年1月末、家族法の改正案を公表しました。
この改正案では、共同での養育にこだわらず、それぞれの家族の状況に応じた子どもの利益の実現を重視しているといいます。
例えば、「子どもの最善の利益」とは何かを次のように変更するとしています。
現行法
重要な子どもの利益…2項目
(a)両親との有意義な関係を維持する(共同での養育を受ける)利益
(b)暴力・虐待のもたらす物理的・心理的な悪影響からの保護
その他の子どもの利益…13項目を例示
改正案
5項目を例示
● 子どもと子どもを世話する者の暴力・虐待からの保護
● 子どもの意見
● 子どもの成長発達や心理面のニーズ
● 世話する者の、子どものニーズに応える能力と意欲
● 安全な場合に、子どもが両親その他第三者との関係を維持することによる利益
ほかにも、今の法律では「共同での決定」や「世話をする割合の共同分担」を推奨していますが、その廃止も提案しているということです。
古賀准教授は、もし改正案がこのまま実現すれば、これまでの離婚後の共同での養育を推奨する方針が転換されることになるといいます。
「現行法が『共同での養育』の理念を掲げて家族を導こうとするのに対し、改正案は『安全面を重視しつつ、それぞれの家族の実情を踏まえて子どもの利益を図る』ものになっています。
共同での養育が広く浸透しているオーストラリアでも、暴力や激しい対立などの機能不全を抱え、共同での養育が難しい家族は一定数はいます。そのことに現行法では十分に対応できなかったとすれば、新たな法の下でどう変わるかが注目されます。
この点が日本の家族法を考える上で持つ意味ですが、実はオーストラリアでは、法改正後も離婚した両親が子どもを養うなどの責任をそれぞれ負い続けることは変わりませんし、日本のように片方の親が単独ですべてを決める訳でもありません。
揺り戻しがあっても、日本より進んでいるのです。加えて、今回の改正案は、法がこれまでに実際の家族や紛争の解決に与えてきた影響に関する膨大な検証作業の成果に基づいています。その中には、日本の子どもたちの安心と平穏を大切にする制度作りのためのヒントがあると期待しています」