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2022.12.28
子どものために養育計画義務付けを 原則共同親権に 嘉田由紀子参院議員
滋賀県の知事時代、親の離婚で貧困や虐待、精神的喪失、社会的不適合といった問題を抱える子どもたちへの対応を迫られた。子と同居する親の負担は大きく、別居している親は孤独や喪失感にさいなまれていた。こうした状況は、父母双方が親として責任を持つ共同親権で変えられると考えている。
共同親権は南北米大陸と欧州のほぼ全ての国、オーストラリア、中国、韓国などで認められ、両方の親から経済的、社会的、心理的な支援を受けられる子どもの方が教育水準が高く、生活も安定しているというデータがある。両親は離婚しても子どもにとって父は父、母は母なのだ。
ところが、日本は共同親権を法制度として認めておらず、世界でも珍しい「片親親権」(単独親権)の国となっている。
沿革を見ると、戦前の子どもは父方の系統を継ぐ「家」の所属物との意識から、婚姻中も父親の片親親権で、離婚すると母親を「家」から追い出した。男尊女卑で「女の腹は借り物」だった。
そんな戦前の民法が戦後改正され、母親は親権を持てるようになった。ただ片親親権の法制度は残ってしまい、裁判官が母親を重視することなどから、家裁の調停や審判の結果は現在、90%以上が母親の片親親権だ。
また離婚の危機を迎えたとき、母親が子どもを連れ去っても裁判で負けることはまれだ。父親を虚偽のドメスティックバイオレンス(DV)で訴えるケースまであり、苦しみの中で自殺に追い込まれた父親もいる。さらに拉致や金銭の搾取をビジネスにする弁護士によって、子どもから父親が奪われた事例もある。
一方、厚生労働省の統計によると、シングルマザーの半数以上は賃金面で不利な非正規雇用で働く。離婚後、養育費を支払っている父親は20~30%にとどまり、子どもの貧困を招いている。
これらの問題を解決するには、民法で共同親権を原則とし、協議離婚するときは、子どもの養育費や面会交流などを具体的に定めた「共同養育計画」の作成を義務付けるのはどうだろうか。弁護士の仲介は不可欠で、共同養育計画は養育費の確保などができる公正証書とすべきだ。費用は将来の社会を担う子どものためなので、公費で賄うのがいいと思う。
子どもは親の所有物ではなく、心の底では、両方の親から愛されたいと願っているはずだ。 離婚の原因がDVや虐待で、相手との交渉や面会交流に生命・身体の危険が伴うケースには、関係法令の強化で対応しなければならない。
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かだ・ゆきこ 1950年埼玉県生まれ。農学博士。京都精華大教授などを経て2006~14年に滋賀県知事を務めた。19年から参院議員(滋賀選挙区、無所属)。「命をつなぐ政治を求めて」など著書多数。
現行制度のままでいい 子どもの世話を絡めた誤解多い 太田啓子弁護士
親権には、日常的に未成年の子どもの世話をする「監護権」と進路、医療、財産管理などの「重要事項決定権」の二つが含まれるが、離婚した父母が同居して子どもを監護することは想定できない。現在議論されている「親権」は重要事項決定権なのに、共同親権の問題を巡って監護権を絡めた意見や報道が多く、誤解を生んでいる。
例えば「単独親権だと同居する親が子どもに会わせたくないと言えば、別居している親はなすすべがない。親子交流のため共同親権を導入すべきだ」という意見がある。
親子の面会は監護権の問題であり、家裁に面会交流の調停を申し立てれば、面会実施を原則として検討される。同居する親が調停で「相手からモラハラを受けていたので会うのが怖い」などと言っても「子どもに対して虐待があったわけではなく、子にとって親は親」と説得されるのが日常茶飯事であり、調停から審判に移行しても面会を命じられることが多い。
法的には「親権を持っていないから子どもに会えない」というのは誤りだ。離婚後もDVや虐待が続くことが軽視され、子どもの面会交流のために赴いた元夫宅で元妻が殺害された事件や、面会中に子どもが殺された事件が起きている。
「子どもを連れ去った方が離婚後、親権を取れる『連れ去り勝ち』の状況が横行している」という話もまことしやかに流布している。しかし、家裁の調停・審判で離婚前でも子と同居する監護者を決められるし、離婚後は親権者変更が可能。同居する親に子の引き渡しを求めることもできる。
日本の女性は家事、育児、介護などの無償労働に男性の5・5倍の時間を割いている(男女共同参画白書)。育児をメインに担当してきた母親が子を連れ別居すると、家裁が彼女を親権者や監護者に指定するのは当然の帰結で「連れ去り勝ち」と評するのは誤りだ。
さらに共同親権の国は多いと言われるが、共同しているのは監護で、日本も離婚後に監護を共同できる。共同監護を前提に親権を考えると、親の権利ではなく、子の利益のための「親責任」と把握する国も増えている。
親の責任としての面会交流は支援する公的な仕組みがあるといいし、養育費の不払いは行政による立て替えを検討すべきで、これらは親権の在り方を変えて対応する問題ではない。 離婚後の共同監護は父母の関係次第で可能だ。重要事項決定権は進学先や手術の同意などで父母の意見が異なる場合、子が不利益を被ることもあり、離婚後の親権は現行制度のままでいい。 × ×
おおた・けいこ 1976年生まれ。さいたま市出身。2002年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。離婚や相続、性被害などを多く手がけてきた。著書に「これからの男の子たちへ」など。
多数の「案」併記 中間試案、意見集約できず
法制審議会の部会は中間試案で、離婚後の親権制度について、共同親権を導入するかしないかで二つの案に分け、共同親権を導入したときの具体的な制度を巡って10もの案を提示した。多くの案が併記されたのは、意見の集約ができなかったためとみられる。
まず共同親権を導入する「甲案」と単独親権のままとする「乙案」。甲案は、共同親権が原則で父母の協議や家裁の裁判で単独親権とする「甲(1)案」、逆に原則単独親権で協議や家裁の裁判で共同親権とする「甲(2)案」と、原則を定めずケース・バイ・ケースの「甲(3)案」の三つに分かれる。
また共同親権の下の監護者について、必ず父母の一方を監護者と定める「A案」と、定めることも定めないこともできる「B案」が提案された。
監護者を定めた場合の親権は、監護者が単独で行使し、一方に事後報告する「α案」、父母の事前協議に基づき行使し、協議が不調のときは監護者が単独で行使する「β案」、父母が共同で行使し、親権行使に関する重要な事項で協議が不調のときなどは家裁が行使者を決める「γ案」の三つの考え方がある。
さらにA案の場合、子の住む場所は監護者が単独で決める「X案」、α案、β案、γ案のいずれかで父母が関与して決める「Y案」も示した。
法務省は2023年2月17日まで「家族法制の見直しに関する中間試案」のパブリックコメント(意見公募)を実施している。 離婚と親権 離婚は婚姻関係を解消すること。厚生労働省の統計によると、90%近くが話し合いによる協議離婚で、残りは裁判手続きを経て離婚している。
2021年は婚姻が約50万1千組に対し、離婚は約18万4千組。民法では、未成年の子の監護と教育を行う権利と義務を親権と総称し、婚姻中は父母が共同で行うと規定。離婚する場合は一方を親権者と定めなければならないとしている。
司法統計によると、21年に家裁の離婚調停や審判で定めた親権者は母親が94%に上っている。
法制審議会 法相の諮問を受け、民事法、刑事法、訴訟法などの立法・改正を調査、審議する。専門部会で議論して要綱を取りまとめ、総会の採決を経て法相に答申する。通常は法務省が答申に基づいて法案を作成、国会に提出する。
総会の委員は裁判官、検察官、弁護士の法曹三者や大学教授、企業・労働組合の役員などで、専門部会は法曹三者に対象の立法・改正で影響を受ける利害関係者の代表らが任命される。現在は離婚後の親権を含む家族法制の見直しや性犯罪の法改正などが専門部会で論議されている。