〈漫画第1話無料公開〉「子どもに会えなくてつらい」という告白から生まれたテーマ。親権をもたず子と離れて暮らす親の哀しみ

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2/29(木) 18:03配信
集英社オンライン

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日本では未成年の子がいる夫婦が離婚する場合、夫婦のどちらか一方が親権をもたなければならず、親権をもたず子どもと離れて暮らす側の親は、子どもとの面会の約束が守られず、つらい思いをしている場合がある。そのような親権をもたない側の思いが描かれた話題の漫画『今朝もあの子の夢を見た』の著者・野原広子氏に執筆の動機や作品に込めた思いを聞いた。

【漫画】『今朝もあの子の夢を見た』第1話
夫婦の激しい闘いの物語を避けて、 優しい本にしたかった

『今朝もあの子の夢を見た』はスーパー勤務の42歳、バツイチのタカシが、10年前に離婚後、まったく会えていない1人娘・さくらを思って悩み苦しむストーリー。その思いが、同じスーパーに転職してきた30歳、独身の真美の目を通して少しずつ明かされていく。タカシの寂しさ、悲しさがじわじわとしみてきて、涙なしには読めない1冊だ。

「物語のはじめに『俺は怒ってるんだ!』『悲しんでるんだ!』と大きな声で主張するところから入っちゃうと、読者に引かれちゃうと思ったので、最初はタカシと真美のラブストーリーになるのかな、と思わせて、じょじょにポロッ、ポロッ、とタカシの思いをほどいていく手法をとりました。その出し方を調整するのが難しかったですね」

執筆前にもちろんプロットは立てる。しかし本書は描きながら、同じ悩みを抱える当事者を気遣い、展開を迷い、悩んだ。集英社ノンフィクション編集部公式サイト「よみタイ」に2022年1月から10月まで連載され、ラスト3話を加筆・修正して出版されたものだが、連載中、後半に向けて物語は大きく変わっていったという。

「描き進めていくうちに、最初に用意したプロットでは違う、と思ったのです。結局、妻側の言い分は少ししか描きませんでした。最初はもっと描こうと思っていたのですが、テーマを深掘りしていくうちに、タカシの悲しい気持ちを自分の中に吸い込みすぎちゃって、妻側の言い分を力を入れて描くと夫婦の激しい闘いの物語になっちゃうなあ、と思って。それは避けたかった。
激しくならないよう押さえて、押さえて、難しいことは削って、削って、優しい本にしたつもりです」

主人公・タカシを通して描かれている、 「子どもに会いたい」という切実な思い

『今朝もあの子の夢を見た』はコミックエッセイではなくフィクションだ。テーマは、野原氏が友人らから明かされた「子どもに会えなくてつらい」という告白から生まれた。 本書のタカシのように、離婚後、我が子に会えないつらさを抱えた友人が何人もいたのだ。 「私自身が数年前に離婚したので、友人らは心を許して打ち明けてくれるようになったのかもしれません。一般的には離婚して子どもに会わせてもらえないなんて、実はやばい人なんじゃないか、と思ってしまうかもしれませんが、学生時代からの友人なので、そんなに悪い人でないことはわかっているわけで。だから、どうしてそんなことになってしまったのか気になり、深掘りしていきました」 友人たちは会えない子どもを思い、よく眠れない日々が続いていたり、生きる意味がわからなくなったりするほど苦しんでいた。その様子は主人公・タカシを通して描かれている。 実は男性が我が子のことをこれほど愛おしく思い、切実に会いたがっているなんて、知らない女性も多いのではないか。そういう気づきを与えてくれる漫画でもある。 「悲しみを語ってくれた友人たちの、心の奥が震えているのを感じました。正直、そこまでの思いがあるとは知りませんでした」 真美の父親が、「父さんだってもっともっと抱っこしてかわいがりたかったよ」と真美に明かすシーンも、企業戦士だった父親のことを思い返す真美の姿に鼻の奥がツンとくる。 「これは私のおじの話を参考にしました。おじは新聞社勤務でほとんど家にいないほどいつも忙しく、おじの子どもたち=私にとってのいとこを私の家であずかったことがよくありました。 おじが迎えにきたとき、私が『おじさん、おじさん』と呼びかけると、いとこも父親なのに『おじさん、おじさん』と呼ぶので、おじは『悲しかった』と。そういう切実さがある。離婚して子どもに会えない父親のなかには、病んで自殺する方もいると知りました」 連載は、ちょうど国が共同親権の議論を始めたタイミングが重なった。日本で離婚後の子の親権は、両親のどちらかがもつ単独親権と定められているが、欧米などでは両親が2人で親権をもつ共同親権が主流で、日本にも共同親権を導入するべきかどうかについて、議論がなされているのだ。 しかし、『今朝もあの子の夢を見た』を描いたことに、政治的な動機はないという。 「法律の話を出したり、難しい言葉を使うと、読んでもらいにくくなると思い、むしろ、そういう色はなるべく出てないようにしました。タカシと妻と娘という、家族の小さな話にしたかったんです」

1年前