離婚後の親権どうすれば? 制度の今後は 法制審の見直し案

この弁護士には相談しないようにしましょう。

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12/16(金) 19:30配信
北海道新聞

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 離婚後の子どもの養育について検討する法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会が「親権制度見直し案」について検討を進めています。父母双方の「共同親権」を導入するかどうかについては、市民の間でも賛否が分かれています。そもそも「親権」とはどういうもので、離婚後の子どもの養育をめぐる議論には、どのような考え方や課題があるのでしょう。札幌弁護士会の酒井謙弁護士に話を聞きました。(聞き手・木崎美和)
■18歳未満の養育や財産管理 最終的には裁判で判断

 ――民法上の親権とはどんなものでしょうか。

 親権とは18歳未満の子を養育監護し、財産管理する親の権利のことです。離婚前は父母ふたりとも親権者ですが、離婚時には父か母かどちらか一方を親権者にしなければなりません。

 ――離婚時に親権を父母で争う場合、どのような手続きになりますか。

 離婚届には子の親権者を母とするか父とするか記入して提出しなければなりません。話し合いで親権者を決められなければ離婚調停を申し立てすることになります。調停の期日では第三者を交えて裁判所で話し合います。妻と夫は交互に調停室に呼ばれるため、直接会う必要はありません。調停が不成立となれば、離婚裁判を提起することになります。

 離婚裁判は裁判官がお互いの意見等を聞いて判断します。親権を争う場合は、裁判所の調査官が両方の親の考え方や養育環境等の調査をして「調査報告書」という書面を作成します。子の面談結果や家庭訪問のことも記載され、子にとってどちらが親権者としてよりよいかという結論が書かれています。最終的に親権者を決めるのは裁判官ですが、裁判官は調査報告書を必ず読んで判断します。
■子どもの意思能力の有無 10歳ぐらいから

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 ――子の意思はどの程度尊重されますか。

 赤ちゃんのように意思能力がない時には親権者の判断要素になりませんが、意思能力があれば子の意思も判断要素のひとつとされます。個人差がありますがだいたい10歳ぐらいの子には意思能力があるとされることが多いです。調査官の調査報告書には、子の様子や発言内容が記載されます。子の意思は尊重されますが調査官は両親のどちらが好きかなどのストレートな質問をしないし、子の言葉をうのみにすることはないと思います。

 ――一度決まった親権は変更することができますか。

 それなりの事情がないと変更は認められません。親権者の監護状況が悪くて、別居している親(別居親)がそれよりも良い条件で監護できるなどの事情が必要になります。

 関連する話です。夫婦の一方が他方から暴力を振るわれ「出ていけ」と言われて、やむなく子を家に置いたまま出てしまったとします。仮に、追い出されたのは妻だとします。家出の際に夫は「親権は譲らない」と言い張り、夫を親権者にした離婚届け書に署名押印せよと迫ってきました。妻は後で親権者の変更をすればよい、と考えて署名押印して離婚届け書を渡してしまったとします。そうすると夫は離婚届を提出して離婚は成立、親権者は夫になります。その後、親権者変更の裁判をして親権者の変更が認められるのは簡単ではありません。このように自分の署名押印済みの離婚届を相手に渡すことには大きなリスクがあります。

 ――お金に余裕がないと、離婚裁判を弁護士に依頼しにくいのではないですか。

 道内各地の日本司法支援センター(法テラス)を利用すると、弁護士費用を立て替えしてもらい初期費用ゼロで依頼することができます。かかった費用を無利息で分割返済するのが原則ですが、相手方から慰謝料や財産分与などがもらえる場合にはそのお金で精算することになります。

■面会交流 親ではなく子のための制度

 ――親権者が亡くなった場合はどうなりますか。  離婚後親権者が亡くなったときは未成年後見人が選任されます。別居親が当然に親権者になるわけではありません。別居親が親権者になりたければ、親権者変更の申し立てをすれば、後見人を選任すべきか、別居親を親権者に指定すべきか、家庭裁判所が判断します。  ――別居親は子どもと交流することはできますか。  子と面会交流できます。面会交流は別居親が子と会うための大切な機会という側面はありますが、あくまでも子のための制度ですから、子の福祉のために制限を受けます。例えば子が風邪をひいたら予定していた面会を延期すべき場合もあります。また思春期になれば親と一緒にいることが必ずしも楽しみではなくなるかもしれません。子が親と会いたくないと言っているのに無理やり会わせる、というのは子の福祉に反することです。  赤ちゃん、幼児などの面会には、同居しているほうの親権者の協力が必要です。親権者は、別居親のためというよりは、あくまで子のために面会交流にはできるだけ協力すべきです。そうはいっても、お互いに仕事やプライベートとの調整をしなければなりません。あらかじめ第何週の土曜日の午後何時と決めておく、都合が悪ければ何週間前には連絡するなどのルール作りが大切になります。

■共同親権議論に賛否 DVやモラハラも影響

 ――元配偶者とはお互いに顔も見たくないという事例が多いのではないですか。  親権者が、別居親との面会に積極的ではないというのはよくあることです。日時・場所の調整連絡や、子の受け渡しの際に顔を合わせることが精神的に大きな負担ならば面会交流の実施のための第三者機関を利用できます。  親権者の中には、子と別居親の面会交流を妨害して、意図的に別居親から子を遠ざけようとする人もいます。こうした場合、子に会わせてもらいたい別居親は面会交流の調停を申し立てて家庭裁判所で面会のルールを決めてもらうことができます。  他方で面会交流しないことがやむを得ない場合、子のためにも面会交流はすべきではない場合もあります。例えばひどいドメスティックバイオレンス(DV)があった場合です。よく子に対しては暴力を振るっていないから、子に会わせろという別居親がいますが、子の面前での配偶者への暴力は子に対する深刻な精神的虐待です。  ――父母双方の「共同親権」を導入するかどうかの議論では、市民の間でも賛否が分かれています。  確かに世界的には共同親権が主流です。離婚時に親権者を決める必要がなくなり裁判の長期化・泥沼化は少なくなるでしょうし、同居親が子と別居親の面会交流を妨害することは少なくなるかもしれません。  しかし一方でデメリットもあります。DVやモラルハラスメント(モラハラ)のあった夫婦が離婚後も共同親権になってしまったら離婚後もDVやモラハラから逃れられません。親権者を決める必要がなくなり離婚訴訟の長期化・泥沼化を防げたとしても家庭内の泥沼が長期化します。いずれにせよどのように法改正がなされるのか注視する必要があります。

酒井謙弁護士

 <酒井謙(さかい・けん)弁護士>1970年根室市生まれ、札幌市育ち。札幌南高、北大法学部卒。東京での法律専門学校講師を経て、2001年司法試験合格。沖縄で司法修習の後、04年に弁護士登録。07年に帰郷し札幌弁護士会登録、みなみ大通法律事務所に所属。離婚問題や借金問題、交通事故などに多く取り組んでいる。趣味は剣道。六段。

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