離婚後の共同親権で3案提示 単独親権案も併記、法制審

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2022年11月15日 19:06

法相の諮問機関である法制審議会は15日、離婚後の親権のあり方に関する中間試案をまとめた。父母双方に「共同親権」を認める3つの制度案を示しつつ、片方だけが親権を持つ現行の「単独親権」を維持する案も併記した。共同親権の導入を巡る賛否が割れている状況を考慮し、方向性を定めず複数案を提示するにとどめた。

親権は子供の世話や財産管理に関する民法上の権利・義務とされる。現行法は婚姻中であれば父母がともに親権を持つ「共同親権」で、離婚した場合はどちらか一方のみが親権を持つ「単独親権」になると規定する。

法制審は離婚後に共同親権を認める場合の制度として①原則は共同親権で一定の要件を満たせば例外として単独親権も認める②原則は単独親権で一定の要件を満たせば例外として共同親権も認める③具体的な要件を定めず個別ケースごとに単独か共同かを選択可能にする――の3案を記した。

4番目の案として現在の単独親権の法規定をそのまま維持する案も載せた。12月から2023年2月をめどに中間試案のパブリックコメント(意見公募)をかける。

共同親権を導入するには答申をまとめたうえで民法を改正する必要がある。法務省の担当者は「答申の時期は見通せていない。法改正を含め具体的な時期を示すことは困難だ」と語った。

法制審は21年から家族法制部会で共同親権を導入する是非を議論してきた。親権を持たない側が子供に会えない不満を持ったり、養育費を払わなかったりする問題が出ていた背景があった。

欧州連合(EU)の欧州議会は国際結婚が破綻した日本人配偶者が子供を連れ去る事例が相次いでいると主張し、20年に共同親権を認める法整備を求める決議を採択した。

共同親権は賛否が割れる。家族法制部会委員を務める「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」の武田典久代表は現在の単独親権制度では離婚後に金銭面などの責任を持たなくなりがちな親がいると指摘する。

「共同親権にすれば直ちに解決するわけではないが、離婚後の親の意識を変えることにはつながる」と強調する。

慎重派は離婚後も父母双方に関係があると虐待やドメスティックバイオレンス(DV)が続くと危惧する。

シングルマザーサポート団体全国協議会が6~7月に実施したひとり親を対象とするアンケート調査では8割が共同親権制度が導入されても「選択しない」「どちらかというと選択しない」と回答した。

離婚した理由として「子供への悪影響」「精神的虐待」を挙げた人はいずれも37%に上った。

同協議会の代表で家族法制部会委員を務める赤石千衣子氏は「共同親権にかじを切れば子供が危うい状況に置かれる」と訴える。赤石氏ら一部委員は11月15日に「限定的で拙速な議論が進められていることを憂慮する」との意見書を法制審に提出した。

法制審は当初、8月末に中間試案をまとめる予定だった。当初案は共同親権の導入について原則認めるか一定の要件下で認めるかの2案に単独親権維持案を併記した内容だった。

自民党の法務部会で共同親権導入の推進派から党内意見の反映などを求める主張が続出したため先送りした。個別ケースごとに共同親権か単独親権かを判断する案を追加する修正や検討経緯の説明を経て11月10日の部会で了承を得た。

厚生労働省によると日本の離婚件数は20年におよそ19万3000組で、うち11万1000組程度は未成年の子供がいる夫婦だった。家族のあり方にかかわるだけに国民的な合意を得て進めるのが望ましい。

中間試案は養育費不払いの問題を踏まえ一定額の養育費を払う義務を課す「法定養育費制度」を創設する案も盛り込んだ。親子が定期的に会う面会交流の実施を巡っては子供の意思や発達状況などの判断基準を明確にすることを提起した。

立命館大の二宮周平名誉教授は「共同親権を認めるには離婚後の養育について情報提供する講座の受講を父母に義務付け、面会交流や養育費など父母間の合意形成を促す体制が必要だ」と訴える。

海外の主要国は共同親権が一般的だ。法務省によると米国や英国、オーストラリア、韓国などが導入している。イタリアやフランスは共同親権を原則としつつ、虐待リスクなど子供の利益に反すると裁判所が判断すれば単独親権を認める。

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