https://news.yahoo.co.jp/byline/saruwatariyuki/20221006-00318345
L.A.在住映画ジャーナリスト
10/6(木) 8:39
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの争いが、次の“ジョニー・デップ対アンバー・ハード”になりつつある。今になってジョリーは、過去にピットから受けたというDVのことを、再び蒸し返してきたのだ。
この2組の間にはいくつかの共通点がある。どちらも2016年に妻側から離婚を申請されており、きっかけは夫によるDVだった。ただし、ハードがデップから日常的に暴力を受けていたとするのに対し、ジョリーがピットに暴力を受けたというのは、2016年のプライベートジェットでの出来事の1回だけだ。また、ハードも、ジョリーも、夫の飲酒を責めている(とは言え、ハードはデップが禁酒をしている時ですら、ひとりで一晩にワインを2本開けていた)。
そして、この2組は、どちらもまだ争いを続けている。デップは裁判で勝訴し、世間に真実を証明したが、ハードが控訴したため、デップも控訴。ピットとジョリーも親権争いが続いており、そこへ今年はワイナリーの権利の半分をめぐる訴訟が加わった。そこからジョリーが2016年のDVを持ち出してきたのだ。
今週、ジョリーがロサンゼルスの裁判所に提出した文書の中で、ジョリーは、当時の出来事を詳細に説明している。ジョリーによれば、言い争いの発端は、ジョリーが子供たちに甘すぎるとピットが不満を言ったこと(お父さんは絶対、という家庭で育てられたピットは、自分は子供たちのしつけにちょっと厳しすぎたかもしれないと、離婚後のインタビューで認めている)。そこからピットはジョリーや子供たちに怒鳴り始め、ジョリーの頭や肩をつかんで揺さぶり、トイレの壁に体を押し付けた。さらにピットは子供たちのひとりの首を絞め、別の子供の顔を引っ叩いたという。ピットはジョリーにビールをかけ、子供たちにも赤ワインとビールをかけたとも、ジョリーは振り返っている。
これは、当時報道された状況よりずっとひどい。当時は、プライベートジェットの中で酒を飲んでいたピットとジョリーが口論になり、止めようと間に入った長男のマードックス君にピットが触れることになってしまったとされていたのだ。この出来事については、FBIとソーシャルワーカーがジョリー、子供たち、ピットに時間をかけて聞き取りをしたが、DVはなかったということで解決し、以後、世間がピットに対してDVの疑いを持つことはなかった。この出来事からまもなく、ジョリーは離婚を申請している。
ワイン作りはピットにとって情熱のプロジェクト
今回、ジョリーは、ピットに内緒で自分が所有する権利を売ったことを正当化するためにこの話を持ち出してきている。ピットとジョリーは、カップルだった頃、南仏にあるワイナリー付きの不動産シャトー・ミラヴェルを共同で購入しており、離婚後、ジョリーが自分の分の権利を売ることにピットは承諾した。ただし、それは、売っても良いとしたにすぎず、売る相手についてはピットが許可しなければならない。にもかかわらず、ジョリーは相談なくストーリ・グループの子会社に売ってしまったのである。
ストーリ・グループは、ウォッカで知られるロシアの会社。権利の半分を大企業に持っていかれると、ピットはコントロールがきかなくなるし、イメージの問題もある。そもそも、このワイナリーは、デップがお金と努力を注ぎ込んできた情熱のプロジェクトだ。ほとんどかかわってきていないジョリーには、とくに思い入れもない。ピットにとって大切だとわかっているからこそ、嫌がらせとしてやったのだろう。
この約束違反に怒ったピットはジョリーを提訴し、この売買を無効にしようとした。そこへきて、ジョリーが、この一連の展開にはピットによるDVが関係していると言ってきたのだ。
裁判所に提出した文書で、ジョリーは、彼女が所有する半分の権利はピットが買収するということで交渉が進んでいたと述べている。しかし、ピットが、ジョリーと子供たちが受けた肉体的、感情的虐待について一切語らないと誓う書類に署名することを契約条件に入れてきたため、この契約は成立しなかった。つまり、別の人に権利が渡ったのはピット自身のせいだというのだ。
実は、ジョリーは今年春にも、匿名で、情報の自由を理由に、2016年の捜査内容の公開を求める訴訟をFBIに対して起こしている。この情報はジョリーがすでに持っているものであることから、ピットに近い人たちは、訴訟を起こすことでピットのDVがまた話題に上るようにするのがジョリーの目的だったと見ている。今回の狙いも同じかもしれない。
ピットは、ジョリーによって描写された暴力行動を完全に否定。ピットの弁護士は、「過去にやったことについてはすでに自分の責任を受け入れたが、やっていないことについての責任は取らない」と述べている。
一度解決した親権争いは振り出しに戻った
親権争いに関しても、ピットのフラストレーションは募る一方だ。50/50の共同親権を獲得できたと思ったら、すぐにまたジョリーによって奪われてしまったのである。
アメリカでは共同親権が一般的。しかもピットは子供を大事にしている良い父親として知られてきた。にもかかわらず、離婚において、ジョリーは単独親権を要求してきたのだ。愛するわが子を失うかもしれない危機に直面したピットは、酒をすっぱりやめ、不定期の飲酒検査などすべての条件を受け入れて、監視つきの面会から無しの面会へ、また頻度に関しても、少しずつ条件を向上させていった。
そしてついに念願の平等な共同親権が実現したのだが、それに不満なジョリーは、裁判を担当した判事がピットの弁護士とビジネス関係にあったことを見つけ出し、判決を無効にすることに成功したのである。ピットはカリフォルニア州の最高裁に上告するも、あえなく棄却され、親権争いは振り出しに戻ってしまった。
それ以前にも、ジョリーはピットに辛く当たってきている。ジョリーの態度があまりに攻撃的、かつ理不尽な要求が多いせいで、ハリウッドきっての離婚弁護士も愛想をつかして彼女の弁護をやめたほどだ。たとえば、2018年には、ピットが十分な養育費を払っていないとして、裁判所に苦情を申し立てた。しかし、実際には、ピットは2年の間に養育費として130万ドルを払ったほか、ジョリーが借りている家を買い取れるように800万ドルを貸してあげている。また、昨年は、「The Guardian」に対し、ハーベイ・ワインスタインが自分にセクハラをしたのを知っているのに、夫であるピットがワインスタインと仕事をすることに心を傷つけられたと語った。逆に、ピットがジョリーについての悪口を公に言ったことはない。
父母の争いが続く中、主にジョリーと生活をすることで、子供たちとピットの関係は、ますます複雑になってきたようである。もともと母との絆が強い長男マードックス君(21)はとくに父と疎遠にしており、大学進学についてもピットは話し合いに入れてもらえなかった。長女ザハラちゃん(17)も、この秋から大学生。一番下の双子も、もう14歳だ。その成長を、ピットは間近に見ることができないでいる。
カップルだった頃、ジョリーは、ピットがいかに理想的な父親か、誇らしげにインタビューで語っていた。そんな相手は、なぜ、離婚しただけでは気が済まない、憎くてたまらない存在になってしまったのか。そう思いをめぐらす間にも、貴重な時間はどんどん過ぎていく。昔のように、ピットが子供たちに囲まれて幸せなひとときを過ごせる日は、再び訪れるのだろうか。