離婚後の共同親権を考える 子育て六法その3

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2022年09月06日 14時13分 更新

手をつないで歩く親子の影=新見市憩いとふれあいの公園

大山知康さん

 離婚後の共同親権の導入について検討している法制審議会が先月30日に予定していた中間試案の取りまとめが延期されたという報道を見て驚きましたので、今回は、子育て六法の第3回目として離婚後の共同親権の導入について考えてみたいです。(中間試案の延期については「大型サイド」離婚後共同親権 政治「横やり」突然の延期 法制審、異例の試案再検討=さんデジ会員限定記事)

 法律から子育てを考えるのが子育て六法の流儀なので条文を見てみますと、親権について民法818条1項で「成年に達しない子は、父母の親権に服する」、同条3項で「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う」と婚姻中は父母の共同親権が定められています。

 父母の共同親権が定められているのは、父母のどちらか1人が決めるのではなく2人で話し合って決めることが、父母それぞれの個性や考えの違いを生かせて「子の利益のために」なると考えられたからです。また、旧民法で父親の単独親権が原則とされていたことから、共同親権としたことは男女平等の観点もあるとされています。

 親権の内容としては、民法820条で「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」とされており、親権は「子の利益のため」のものであることが明記されています。

 このことから、「親『権』」と定められていますが、親の「権利」の側面より、親の子に対する「義務」の側面を中心に考えられています。

 そうすると、離婚後の親権についても「子の利益のため」になるかを中心に考えるべきです。現在の日本では、民法819条1項で「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない」とされています。このため離婚後の共同親権を選択することはできません。これは、子の共同親権を受ける利益を奪ってしまっていることになるのではないでしょうか。

 もちろん、家庭内暴力が行われていたり、父母間で子どもに関して意思疎通や情報共有を行うことが極めて難しかったりする場合などは単独親権の方が共同親権より適切な場合はあると思います。一方で、離婚後も父母間で、子どもとの意思疎通や情報共有は可能で、子も父母の両方に親権を持ってもらいたいと思っているケースなどでは共同親権が適切な場合も少なくないはずです。

 民法が、離婚後は単独親権とした趣旨は、離婚後は別居となるので、別居している父母間で親権行使のための話し合いや情報共有を行うことが難しいからとされています。これは、民法で単独親権が定められた戦後の電話が各家庭にない状況であれば多くの父母にあてはまったことかもしれません。しかし一人が1台携帯電話を持つ今の時代は、音声電話だけでなく、TV電話も個人で気軽に使え、メールなどの文字でもコミュニケーションが瞬時にできます。別居していても共同親権のための子どもに関して意思疎通や情報共有が可能な父母は多くいると思います。

 ですので一律に、離婚後の単独親権を定めるのではなく、共同親権も選択できる制度にすることが「子の利益のため」になりますし、コミュニケーション手段が発達した現代に合っていると考えます。

 私の経験でも、離婚の相談に来られた方から「親権者をどちらかに決めないといけないのでしょうか」とか「共同親権ってまだ駄目なのでしょうか。」など、共同親権が選択できるなら検討したいと言われる方も多くいます。男女としての関係は冷めていてもお互いに親としては認め合っている父母も少なくない印象を受けています。

 共同親権という選択肢があれば、相談者のうち3分の1か4分の1くらいは、共同親権を選択肢に入れると思います。何らかの問題があって弁護士のところまで相談に来られた方でもこの割合なので、当事者間だけで話し合って協議離婚した父母であればより多くの方が共同親権を選択肢に入れられるのではないでしょうか。

 夫婦関係の解消である離婚が、親子関係である親権にダイレクトに影響するという点が「離婚」に重きを置きすぎていると感じています。離婚は夫婦関係の解消であるのに、それが単独親権へ必ずつながる現在の状況は、離婚の意思決定の当事者ではない子どもに大きな影響を与える結果になり、離婚に重い効果を負わせ過ぎていると考えます。「子の利益のために」親子関係をできるだけ維持しつつ離婚ができる共同親権を選択できることは重要と考えます。

 単独親権と共同親権のどちらが優れているかは一概にはいえません。親子関係や父母の関係など様々な事情を考慮して、どちらが適しているか父母が子どもの意見を聞きながら話し合って選択すること。さらに父母だけで決められない場合には調停や審判などで裁判所や弁護士が関与して子の意見を尊重しながらどちらかを選択すること。これらを「子の利益のために」なるのかという視点を中心に決める制度が良いと考えます。

 法律で、1つの選択肢に決めて、国が管理をしやすくして、市民は選ぶことができないという状況は、離婚後の単独親権についてだけでなく、夫婦別姓や同性婚を認めていない状況にもあてはまると考えます。また、制度を変えるとこのような不都合があるから制度を変えない方が良いと、社会の安定性を個人の人権より優先する主張も離婚後の共同親権や夫婦別姓などの反対意見として同じように目にします。

 現在のように、多くの情報を集めることが容易で、経験者や専門家に気軽に相談もできる状況においては、人生の重要な局面の意思決定について、国が一律に定めるのではなく、市民が自分(たち)で情報を集めて適切だと思う選択肢を自由な意思(話し合って)で選ぶことが重要と考えます。

 これが、離婚後の親権については、離婚後も共同親権を選択することが「子の利益のために」なるのであれば共同親権を選択することを認めることだと考えます。共同親権を選択できるようになって生じる不都合は社会の側が1つずつ解決していきましょう。

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大山知康(おおやま・ともやす)2006年から弁護士活動を始め、岡山弁護士会副会長など歴任し、17年4月から同会環境保全・災害対策委員長を務める。新見市で唯一の弁護士としても活動。市民の寄付を基にNPOなどの活動を支援する公益財団法人「みんなでつくる財団おかやま」代表理事を令和2年まで4年間務めた(現在は同財団監事)。19年1月からは防災士にも登録。趣味はサッカーで、岡山湯郷ベルやファジアーノ岡山のサポーター。青山学院大国際政治経済学部卒。玉野市出身。1977年生まれ。

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