東京新聞 別紙2022年8月19日朝刊記事19頁「親権を考える」の記事を掲載した中日新聞社に対し、著しい偏見及び事実誤認があり、社会の誤解を助長し、子どもに会えず、連れ去りに遭っている被害者を一層苦しめるものがあるとして、上野晃弁護士及び本田聡弁護士から、抗議及び謝罪と訂正記事の掲載を求める抗議文が令和4年8月30日付で送付されました。
株式会社中日新聞社
大島宇一郎 殿
抗議文
貴社、東京新聞 別紙2022年8月19日朝刊記事19頁「親権を考える」の記事(以下、「本記事」といいます。)について、以下の通り、著しい偏見及び事実誤認があり、社会の誤解を助長し、子どもに会えず、連れ去りに遭っている被害者を一層苦しめるものがあるので、ここに抗議し、謝罪と、訂正記事の掲載を求めます。
1.本記事では、「共同親権が主流だった欧米では近年、DVや虐待被害を重視し、共同養育から子どもの安全を優先する方向で法制度を見直す動きが広がっている。」と主張するが、このような事実は存在しません。小川富之氏という方が、オーストラリアの2011年の法及び運用改正を捉えて、「欧米では共同親権の見直しが行われている」と、盛んに吹聴しているようですが、同国の行政機関やジャーナリストから、同氏が主張する事実が否定されています。貴社が、共同親権の見直しが行われているといういかなる根拠をもって記事としたのか、誤りがあるので謝罪と、訂正記事の掲載を求めます。
2.また、本記事では、別居親がDVや虐待の加害者である場合に、同居親が、「加害者から逃げられない」などと、述べる者の発言を抜粋して掲載していますが、子やその他家族に対するDVや虐待があれば、これを防止保護するのが当然のことであるうえに、一人親から虐待されている子の数が、二人の親から虐待されている子の数の実に4倍近いという事実への事実誤認及び取材不足による誤導が見られる誤った記事であり、謝罪と、訂正記事の掲載を求めます。
実際に、心中以外の児童虐待死事例が生じた世帯のうちひとり親世帯は27.3%であり、子がいる全世帯のうちひとり親世帯の割合が約7%であることを考えると明らかに高く、4倍近い数字です(※1)。
3.さらに、本記事では、「別居親が家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てた場合、特別の事情がない限り、実施が認められる」などと、現在でも面会交流が行われていると、誤導する内容が記載されていますが、現在の日本における面会交流は、月1回2時間だけというのが一般的で、実の親が、子の友人や、学校の先生、塾の先生などよりも、極めて短時間しか会えないという運用が為されていることを、殊更に看過して、あたかも、十分な面会が行われていると誤導する悪質な記事です。共同親権とは、すでに、婚姻中の親が子に対して有するのが共同親権であって、それは、両親が平等であるという原則に従うことです。月1回2時間の親子の関係が、平等な親子の関係とは到底言えません。そして、共同で養育するという概念と程遠い内容でしかありません。それを、誤解させる誤った記事であって、謝罪と、訂正記事の掲載を求めます。
4.なお、最後に、「子の最善の利益とはー」などと結論のない、まとまりのない記事になっていますが、子の利益は、子どもの権利条約や、ハーグ条約(※2)の趣旨を見れば明らかなように、「子どもが親から虐待や暴力などを受けずに、愛されて暮らすことであること」であることは世界的にも常識になっています。そのため、子どもの権利条約では、「父母はその意に反して子から分離されない」と明確に規定しています。これを論評せずに、極めて限られた論者の取材に依存して誤った記事にすること自体がその社会的影響からして間違っているので、謝罪と、訂正記事の掲載を求めます。
以 上
※1 厚生労働省『子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について~ 社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会 第 17 次報告』(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000825392.pdf)。
なお、心中以外の虐待死事例に含まれる再婚世帯の割合は4.4%。主たる加害者の7.0%(2.6%)が「実母の交際相手」、1.8%(0.3%)が「継父」、0.7%が「継母」である。注:( )内の数字は実母も主たる加害者である割合
※2 「児童の権利に関する条約」「第7条1 児童は、(中略)できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」「第9条1 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。(後略)」