当たり障りのない意見
https://kahoku.news/articles/20220828khn000003.html
2022年8月28日 10:00
離婚後の子どもの養育に関して検討する法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会が、親権制度の見直し案のたたき台を示した。
どちらかの親が持つ現行の「単独親権」を維持する案と、法改正して父母双方の「共同親権」を選択できる案を併記した。30日に中間試案を示す予定だが、方向性は打ち出さない見通しだ。
見直しに当たり、子どもの利益が最優先なのは言うまでもない。そのためには何が最善なのかという視点に立った制度設計が求められる。子どもの意見を制度に反映させる仕組みも考えるべきだろう。
親権は、親が未成年の子の身の回りの世話や教育をする権利と義務で、住む場所の指定や財産の管理などを担う。
共同親権を導入すれば、両親が子育てに関われるほか、離婚の際の親権争いを回避できる。養育費の支払いや親子の面会交流がスムーズに行われるなどのメリットを指摘する声もある。
一方、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待の恐れがある場合、共同親権を認めると、子どもの安全を守れない懸念がある。さらに、進学などで合意に時間がかかり、子どもが板挟みになる可能性もあることなどから反対意見も少なくない。
たたき台では、単独親権と共同親権を選択できる場合、どちらを原則、どちらを例外とするかで案が分かれる。女性の社会進出や父親の育児に対する意識の高まりから養育の在り方も多様化していることを踏まえれば、原則、例外を定めずに、柔軟に選択できるようにすることも選択肢に加えるべきではないか。
海外では、共同親権を認める国は多いが、運用や範囲は国ごとに異なる。
親権の捉え方が日本とは異なることにも留意しなければならない。
日本は家父長制の下で親の強い権限を認めた戦前の民法の規定が戦後も残った。親権を子の利益のために行使することが明記されたのは10年ほど前に過ぎず、親が強い権限を持つかのような意識は根強い。
親権は子どものために果たすべき権利、義務であることを、社会の共通認識として定着させることが必要だ。
養育費の支払いや面会交流については離婚の際の協議で定めることになっているが、どちらも実施状況は低調に推移している。
そのため、たたき台では、(1)必要な取り決めを義務付ける(2)父母間の協議がなくても一定額の養育費の請求権が自動的に発生する-などの新たな仕組みを提案した。
養育費は親権のある、なしにかかわらず、親が負う義務だ。新たな仕組みのほか、養育費の取り立て制度の充実や、兵庫県明石市が行っている養育費の立て替えを国の制度として全国に広げることなども検討すべきではないか。