【木村草太の憲法の新手】(182)共同親権の中間試案 養育費と交流に区別必要 非親権者にも扶養義務

進める会では、沖縄タイムスに対抗言論を求めました。

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1011209

2022年8月21日 13:27有料

 前回に続き、離婚後共同親権に関する法制審の中間試案と7月26日の本紙社説について論じたい。

 離婚後共同親権は養育費の支払い状況を改善する、との「解説」を目にすることが多い。本紙社説も「親権を持たないことは養育費の支払いにも影響」との「指摘」を紹介している。

 しかし、離婚で非親権者となっても法律上の親子関係は続き、直系血族には扶養義務がある(民法877条)。「養育費支払い」が「子との交流」の対価であるかのような発想は、あまりにも無責任だ。

 また、共同親権は別居親との面会交流を増やし、養育費の支払いを促すと主張する人もいる。しかし、現在の民法は、面会交流の方法や頻度は、「子の利益を最も優先して」決定すると定める(民法766条・771条)。この条文を、〈子の利益を害してでも共同親権者と面会交流させる〉とでも変更すれば、面会交流の頻度は増えるかもしれない。しかし、それでは子の利益が犠牲になる。法制審もそんな提案はしていない。

 養育費の支払い確保に必要なのは、養育費取決の義務化、弁護士費用の援助、国・自治体による立替払い、支払い義務者の所得や資産を裁判所が調査できる制度などだ。2020年12月24日、法務省の養育費不払い解消に向けた検討会議も、そうした取りまとめを発表している。

 さらに、「海外では共同親権を認める国が多い」という言い方にも問題がある。

 「共同親権」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、子との触れ合い(話す、世話を焼く、同じ経験を共有する等)のことだろう。これは「監護」の問題だ。何度も指摘しているように、日本法では、親権をどちらが持つかにかかわらず、別居親との面会交流は父母の協議・裁判所の審判で決定する。この点では、日本でも、海外の共同親権に相当する制度は導入されている。

 他方、「親権=重要事項の決定」の共同行使を導入するなら、同居親・別居親双方のサインがそろわない限り子の重要事項を決定できないことになる。引っ越しや医療、進学で父母の意見が対立した場合に、安価・手軽・迅速に裁判所に調整を求める仕組みが必要になる。

 海外では、父母の調整にあたる相談役や裁判官が日本よりもはるかに多くいたり、公費で弁護士に相談できたりする制度もある。「海外では」というなら、親権の部分だけでなく、そうした制度も比較せねばならない。

 最後に、欧州議会が「子どもの連れ去り」を問題視している、という指摘も注意が必要だ。欧州議会は、裁判所のように当事者双方の話を公平に聞いて裁断する機関ではない。「連れ去られた」と主張する側の話しか聞けていない可能性もある。甚大な負担を負ってまで子連れ別居するに至った背景にどんな事情があるのか。個別の紛争事案については、他方当事者の事情も調査した上で、丁寧に分析すべきだろう。

 離婚後共同親権をめぐる報道には、視聴者・読者をミスリードする意図があるとしか思えないもの、そうした意図をもつ者にミスリードされたりしたものが多い。まずは、正確な情報発信から始めねばならない。

(東京都立大教授、憲法学者)

=第1、第3日曜日に掲載します。

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