【木村草太の憲法の新手】(181)離婚後共同親権の導入案 面会交流 現行法でも規定 「メリット」主張は誤り

進める会では、沖縄タイムスに対抗言論を求めました。

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1004178

2022年8月7日 14:15有料

 法制審議会(法制審)で、離婚後の親権制度について検討されている。離婚後に共同親権にすることによるメリットとして主張されていることは、全て誤った理解に基づくものだ。にもかかわらず、法制審は、離婚後共同親権の導入案を、現行法維持案と併記してパブリックコメントにかける予定だという。誤りに基づく主張を排斥できなかったとは、専門家の集まる審議会として情けない事態だ。

 これを正すのはメディアの責任だが、虚偽の主張に誤導されたかのような報道が続く。本紙7月26日の社説もその一例だ。改善への期待を込めて、指摘しておこう。

 「親権」とは、(1)子どもの居所や進学先、財産管理などの重要事項を決定する権利と、(2)子どもと同居して世話をしたり、面会交流したりする監護の権利からなる。

 このうち、(2)監護については、現行法でも、父母のどちらが親権を持つかにかかわらず、父母の協議で決定し、協議が整わなければ、裁判所が子の最善の利益を基準に決定する。父母あるいは裁判所がベストと考えれば、「親権は父が持ち、子は1月ごとに父と母の家を行き来する」といった監護もできる(民法766条・771条)。逆に、仮に「共同親権」でも、父母が別居すれば、子が父母のどちらと同居すべきか指定せざるを得ない。つまり、監護に関するルールが現行法と変わるわけではない。

 現在、法制審が議論する離婚後共同親権とは、(1)重要事項決定権の部分だ。これを踏まえると、「離婚後共同親権に利点がある」という主張の虚偽が分かる。

 まず、本紙社説は「親権を持たない親の多くが、子どもと交流していない」として、共同親権にすれば、別居親と子の交流時間が増えるかのような指摘をしている。しかし、面会交流は(2)監護権に関する部分であり、現行法でも、別居親と子が面会交流する規定と手続きがある(民法766条・771条)。

 別居親と子が会っていない場合、それは、A:父母が法的手続きをとっていない、B:法的手続きを通じて、裁判所が面会交流をさせるべきでないと判断した、C:裁判所の面会交流命令にもかかわらず、同居親または別居親が履行を拒否した、のいずれかだ。いずれも、共同親権にしたからといって、会えるようになるわけではない。

 面会交流を増やしたいなら、共同親権ではなく、安全安心な面会場の確保や、面会交流の引き渡しなどを支援する機関の充実が必要だ。

 次に、離婚後共同親権を導入すれば別居親と子の面会交流が増えるという主張は、既に面会交流の規定があることを隠蔽(いんぺい)している。メディアが責任ある報道をしようとするなら、そうした不誠実な主張を無批判に紹介すべきではない。

 しかし、本紙社説は、現行法に面会交流の規定や手続きがあること、現行法の下で面会交流ができないのはどのような場合か、について説明していない。読者に「離婚すると子どもに会えない」との誤解を招きかねないもので、今後、気を付けてほしい。

 次回は、「親の責任」・「養育費」と親権との関係を検討した上で、離婚後共同親権導入による弊害を指摘したい。

(東京都立大教授、憲法学者)

=第1、第3日曜日に掲載します。

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