2019年のTHLの統計では、93%の場合で共同親権が認められている。残りの割合は、6%が母親、1%が父親だ。普段は母親と一緒にいる子どもが、週末や長期休みの時だけは父親のもとで過ごしたり、習い事の送り迎えは別れたパートナーが担当したり、はたまた1週間ごとに父親と母親の場所を行ったり来たりするなど、やり方はそれぞれだ。
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6/20(月) 15:02配信
プレジデントオンライン
※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Paul Bradbury
北欧フィンランドは、父親の子と接する時間が母親より長い唯一の国だ。ライターの堀内都喜子さんは「フィンランドには『イクメン』という言葉はない。なぜならフィンランドの父親にとって、子育ては『手伝う』ものではなく、主体的に行うものだからだ」という――。(第3回)
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※本稿は、堀内都喜子『フィンランド 幸せのメソッド』(集英社新書)の一部を再編集したものです。
■フィンランドの「父親休暇」
男性の家事・育児への参加を促すことも重要だ。フィンランドでも日本の産休にあたる母親休暇の終了後に、それとは別で育児のための「親休暇」を設けて、母親でも父親でも取得可能としている。だが、授乳の必要など様々な事情から取得者の9割以上は母親である。
そこで、父親だけが取得可能な最大約9週間の「父親休暇」が別個に設けられている(2022年秋以降変更)。これは2種類あり、①母親が休暇中でも取れるものと、②母親の復職後に取れるものがある。典型的な父親休暇取得のパターンは、①を出産直後に約3週間、②を母親が仕事復帰した後に他の休みとあわせて約2カ月利用する、というものだ。
フィンランドは里帰り出産の習慣がなく、出産時の入院期間も短い。出産後わずか1~2泊で帰宅するケースも多く、父親もいち早く自宅で赤ちゃんと向き合っていく。こうした事情から、赤ちゃんの世話だけでなく家事全般において男性の役割は大きい。
私の周囲の男性は、子どもが生まれるとすぐに上司に電話して「生まれたので、今日から3週間休みます!」と伝え、「おめでとう!」と周りから祝福されていた。もちろん、この時に初めて休みを申請したのではなく、妻の妊娠がわかった時点で上司と相談し、事前に周りと仕事の調整をしている。妊娠がわかってから予定日までは何カ月も準備期間があるので、父親休暇の取得には今やほぼ障害がない。
■休暇を取っても職場で誰も文句を言う人はいない
妊婦健診や両親学級を通じても、早いうちから赤ちゃんの世話に慣れ、父親と子どもがコミュニケーションを取り、新しい家族の形や絆をつくることが推奨されている。
②の母親が職場復帰してから取れる父親休暇の取得率は、2016年の段階ではまだ45%とそれほど高くない。しかし、利用数は毎年確実に増加していて、取得した人は平均で約7週間ほど休んでいる。
教育レベルの高い家族は取得率がより高い。私の友人たちも何人かこの時期に休暇を取っているが、子どもの母親からは「職場復帰したばかりで体力的にも精神的にも大変な時期に、夫が家事や赤ちゃんの面倒を一手に引き受けてくれて助かった」「子どもにとっても父親がまだ自宅にいられてよかった」という声が聞かれる。
父親本人はどうかというと、「想像以上に大変でストレスがたまった。仕事をしている方が楽だと思った」という意見に続いて、「だからこそ、これまで1人で頑張ってきた妻を尊敬する気持ちが生まれた」「子どもの日々の成長を間近で見られてとても楽しかった」「子どもとの関係がより深くなった」という声も私の周りではよく聞かれる。
気になるのは、職場の上司の反応だろう。ある友人男性が2カ月の休みを申請した時は「長い人生の中で、子どもの成長はあっという間。ぜひそうした方がいい」と男性上司が言ってくれたそうだ。もちろん「上司が何と言おうと、これは親の権利。僕の権利として保障されているのだから、いずれにしても取ろうと思っていたけど」という友人もいた。
■「父親の権利を奪わないでほしい」
育休の一部を父親が取得してもよくなったのは1971年。父親だけが取ることのできる休暇が誕生したのは1991年で、当初その期間はわずか6日だった。その後、日数が徐々に延び、何回かに分けて取得可能にするなど、より利用しやすく制度が改定されていった。ちなみに1997年には、①と②のどちらか、あるいは両方の父親休暇の取得率は合計で43%。その約10年後の2008年には70%、現在は約80%になっている。
なぜここまで利用者が増えたのか。理由はいくつかあるが、一つは休暇日数が長くなり、柔軟性が高くなって取りやすくなったこと。もう一つは、1998年に当時の首相が自ら父親休暇を取り、2000年代前半には多くの閣僚も取得するなど、政治家が率先してロールモデルとなったことが挙げられる。
様々なメディアが、父親休暇を取ることは子どもと父親の関係づくり、そして良好な夫婦関係にも有効であるといろいろな場で強調し、社会の認識が変わったことも大きい。
今の30~40代の、私の周りの男性たちは「僕だって子どもの人生に関わりたい」「母親と同じぐらいの存在感を持っていたい」「父親の権利を奪わないでほしい」「子どもと一緒にいたい」と口にする。
■フィンランドには「イクメン」という言葉は存在しない
フィンランドにはイクメンという言葉はなく、今や、男性が子育てをするのは当然だとされている。女性を「手伝う」のではなく、父親として主体的に子育てをすることが普通になっているのだ。ヘルシンキ市のアンケート調査でも最近は、子育てはパートナーと半々で平等に分担したいと願う父親が増えている。
近年では、父親休暇を取った世代が管理職になっていることもあり、休暇取得は当たり前で、逆に取らない場合は、周りから不思議に思われるほどだ。もはや父親休暇がキャリアに影響することもない。
だが、それでもスウェーデンなど一部の北欧諸国と比べると、父親の育児休暇取得率はやや低い。特に長期間の休暇はまだまだ少ない。ノルウェーやスウェーデンは「パパクウォータ制」があり、父親が休暇を取らないと母親の休暇期間も減らされてしまう。対して、フィンランドは今のところ父親休暇の利用を義務としておらず、取らなくても何のペナルティもない。
自営業や不安定な職にある人、さらにパートナーの給与が十分でなかったりする場合には父親休暇が取りづらいこともある。今以上に取得率を増やすには、取得条件を緩和し柔軟性をもたせて取りやすくすることと、さらなる上司の理解が不可欠だ。国立保健福祉研究所(THL)の報告書は、部下が長期で休暇を取った際に職場内の仕事をどう調整するか、といったことから、管理職の教育が必要だと述べている。
■生後約14カ月まで夫婦が交代で休みを取ることもできる
さらに現政権は、父親が取れる休暇の期間が母親より短いのは不平等だとして、期間を等しくする目標を掲げた。フィンランドでは育児休暇のことを母親休暇、父親休暇、両親のどちらでも取れる両親休暇と呼んでいたが、今度は家族休暇という名称となり、「1+7+7モデル」を採用した。
最初の1カ月は従来的な出産前の産休にあたるものを用意し、出産後には母親と父親が7カ月ずつ交代で休みを取り、最大で生後約14カ月まで育児休暇を取得できるようにする、という仕組みだ。そしてシングルマザーの場合は両方を1人で取ることができ、14カ月後には今まで通り在宅保育をすることも可能だ。
2022年9月からこの新たな制度の運用が始まる。この変化により、父親と母親がより平等になり、父親がさらに休暇を取りやすくなって子育てに主体的に関われるようになると期待されている。
■体調を崩した子の面倒を見るのは母親に限ったことではない
フィンランドでは、10歳以下の子どもが急病になった場合には4日間まで看護休暇が取得できるが、こちらの取得率は男女で大きな差はない。意外に思われるかもしれないが、フィンランドには病児・病後児保育施設はほとんどなく、子どもが体調を崩した時に世話をするのは親の責任だと考えられている。しかし、その時に面倒を見るのは母親に限ったことではなく、共にフルタイムで働く2人がそれぞれの予定や仕事に合わせて、どちらか取りやすい方が休暇を取って対応している。
ちなみに、両親以外に頼るのは1割で、そこにはベビーシッターや親戚、友人、自治体のファミリーワーカーなどが含まれる。
私が知る男性たちもよく、「子どもが熱を出したから」「子どもを病院に連れていかないといけないから」と言って突然休んだり、早退したりする。そんな時、周りは「大変だね。お大事に」とさらっと受け流す。決して、「奥さんは?」という人はいない。
■子どもと接する時間は母親より父親のほうが長い
現在フィンランドの男性が子どもと過ごす時間は1日あたり平均で4時間14分。2017年にOECDが発表した、親が子どもの育児に積極的に関わる時間についての調査では、フィンランドは父親の方が母親よりも1日あたり平均で8分長かった。父親の方が長い国はフィンランドのみだ。
また、日本企業が2018年に発表した、日本、インドネシア、中国、フィンランドを比較した調査によると、平日に父親が帰宅する時間は、フィンランドの場合は16時台が最多である一方、日本は22~0時が最多となっている。平日に父親が子どもと過ごす時間については、フィンランドでは3~5時間未満が46.6%だが、日本ではその割合は15.5%に過ぎず、1時間未満が35.5%もいる(ベネッセ教育総合研究所「幼児期の家庭教育国際調査」)。
■有給取得や定時帰宅があってこそ主体的な子育てができる
フィンランドで父親がこれだけ子どもと時間を過ごせるのは、ワークライフバランスが整っているからこそだ。定時に帰り、有給休暇もしっかり取るから、フィンランドでは父親も積極的に家事や育児ができる。さらに、テレワークやフレックスタイムが普及し、柔軟な働き方が可能になっていることで、女性も男性も家庭と仕事の両立がしやすくなっている。
現在フィンランドでは、フレックスタイムが9割の企業で採用されていて、新型コロナウイルスの感染拡大以前から週一度以上の在宅勤務が3割に達していた。管理職に至っては6割が在宅勤務をしていたという。
2020年春の感染拡大時は、緊急事態宣言後すぐに約6割が在宅勤務に移行した。これは欧州のどの国よりも多い数字だ。これだけ在宅への移行がスムーズだった理由としては、もともとデジタル化やIT利用が進んでいたこと、柔軟な働き方への理解や知識が広く共有されていたこと、管理主義ではないマネージメントスタイルや、仕事内容や目標がはっきりしたジョブ型雇用が当たり前で在宅に適していたことなどが挙げられる。
このような環境も、父親も母親も子どもに関する責任を等しく負い、仕事と家庭が両立しやすい状況につながっている。
■フィンランドでは離婚後も共同親権が認められている
さらに、フィンランドは離婚やパートナーとの別れが非常に多いのだが、たとえ離婚・別居しても、親権を共同で持つことが多く、元パートナーと可能な限り協力しながら子育てを行い親の責任を果たすことが奨励されている。
もちろん、子どもに危害を及ぼす危険性がある場合などは共同親権は認められないが、2019年のTHLの統計では、93%の場合で共同親権が認められている。残りの割合は、6%が母親、1%が父親だ。普段は母親と一緒にいる子どもが、週末や長期休みの時だけは父親のもとで過ごしたり、習い事の送り迎えは別れたパートナーが担当したり、はたまた1週間ごとに父親と母親の場所を行ったり来たりするなど、やり方はそれぞれだ。
友人たちを見ていても、1週間ごとに独身生活が楽しめていいと言っていたり、父親の中には以前より密に子どもと関われるようになったと、共同親権を前向きに捉えている人もいる。
逆に、どんなに元夫婦の関係にわだかまりがあるからといって、片方の親が子どもを独り占めすることはできない。父親にも母親にも同等に子どもと関わる権利がある。それは別れた当人たちにとって悩ましい状況を生む場合もあるが、どちらもできるだけ割り切って大人であろうとする。
■元夫と現在の夫が仲良く子育てに参加するのも珍しくない
また、親が離婚したからといって親戚との関係が疎遠になるわけではなく、これまでの関係もできるだけ大切にしていく。みんなが心穏やかであるわけではないだろうが、先日もフィンランドで友人のパーティーに出かけたら、ある女性の元夫と現在の夫が同席していて、その2人で仲良く話をしている姿に驚いた。
3人はいずれも出張が多い仕事についていたそうで、子どもが小さかった時はそれぞれ協力し合って3人で子どもの面倒を見ていたという。子どもを中心とした輪と考えれば皆が同席していても不思議はないが、日本ではあまり見慣れない光景なので少しドキッとしたのは事実だ。
ちなみに離婚した夫婦が養育費の取り決めをした場合、万が一支払いが滞ったら、国が養育手当を支給する。
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堀内 都喜子(ほりうち・ときこ)
ライター
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』(集英社新書)など。
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ライター 堀内 都喜子