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2022年05月22日
子供はどこに(他の写真を見る)
増えるトラブル
「共同親権」とは、子どもの親権を父親と母親の双方が共同で行使しなければならないことをいう(父親または母親のいずれか一方のみが親権を行使しているように見える場合であっても、他方の親がそれに同意し、許容していることが必要である)。もちろん婚姻中の親権は両親にあるが、日本の場合、離婚すると、親権はどちらか一方にしか認めないという、単独親権制が採用されている。このため、離婚裁判では、親権をめぐる争いが頻繁に行われるのだが、今、この制度を巡って永田町でも「共同親権制度導入を」という議論が活発に行われている。4月22日には、超党派で構成されている議連「共同養育支援議員連盟」(代表:柴山昌彦元文科相)が、共同親権を認める制度の導入を求める提言書を古川禎久法務大臣に提出したばかりだ。
【写真】子の連れ去り被害を訴えるフランス人男性
社会部記者が言う。
「こうした動きが活発になっている背景には、実は先進主要国のほとんどが、離婚後の共同親権を選択肢として認めていることがあります。日本人と、共同親権を認めている国の国民が結婚し子供が生まれ、その後離婚した場合、日本人が子供を連れて日本に帰国すると、共同親権を認めている国の側からは、誘拐犯として扱われてしまいます。国際結婚が増える中、こういうトラブルは少なくないのです」
日本人の夫婦間でも
実は、この問題、なにも国際離婚だけに限ったものではないという。単独親権制を背景にしたトラブルは、日本人の夫婦間でも起きているのだ。
「いわゆる『連れ去り事件』です。子供がいる夫婦が別居した場合、どちらかが子供を連れて行ってしまうと、もう一方の親は、相手の許可なく子供に会うことができません。もし、連れ去られた側が別居中の子供を連れ戻したら、それは誘拐と判断され、逮捕されることも。なので、離婚したいと思っている側が子を連れ去って別居し、子供への面会を盾に、離婚調停を有利に進めようとするケースが後を絶たないのです」(同)
日本においても、夫婦の一方が他方の同意なく子供を連れ去ることは、刑法上の未成年者略取誘拐罪にあたる。しかし、日本においては「連れ去り」については、これを「誘拐」とは判断せず、逆に「連れ戻し」については即座に「誘拐」と判断するという不合理な実態が存在する。
こうした取り扱いの違いを逆手に取り、子供を連れ去り、子供の単独監護状態を先に手に入れ、裁判所に先行している単独監護の事実状態を追認させるというケースが後を絶たず、いわゆる「連れ去り勝ち」と呼ばれる実態があるのだ。
あまりに突然のことで……
都内に住む老夫婦も、可愛い初孫の真央ちゃん(仮名)が2年前のある日、前触れもなく、突然母親と共に姿を消してしまったという。
※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。
「あまりに突然のことで、本当に何が起こったのか、いまだにわかりません。まるで突然違う世界に放り込まれた気分です。毎日初孫の真央ちゃんのことを考えて、涙を流しています。どうしてこんなことになってしまったのか」
こう語るのは、都内近郊に住む70代女性の喜代美さん(仮名)。
「近所に住む共働きで忙しい息子夫婦に代わって、保育園への朝夕の送り迎え、夕食のお世話を、ほとんど毎日私がやってきました。もちろん、こちらが押しかけて行った訳ではなく、息子のお嫁さんも同意の上で、です。なんせ私にとって初の孫ですし、そこには何の不満もないどころか、楽しくやらせてもらっていました。当たり前のように真央ちゃんと暮らしていました」
真央ちゃんはすくすく育ち、都内にある私立の小学校に入学。
「いわゆるお受験をしたのですが、塾への送り迎えも私がメインでした。真央ちゃんも頑張ったと思いますし、息子夫婦ももちろん頑張ったと思います。本当によかったと、みんなで喜んでいたのですが」
異変が起こったのは、真央ちゃんが1年生になった年の秋のある日だった。
「真央ちゃんが小学生になってからは、毎週金曜日の放課後は、自宅ではなく、私たちの家に寄り、夜ご飯を食べてから帰るというパターンでした。もちろんお母さんも公認です。その日も金曜日で、夕方になると、真央ちゃんの分まで準備していたんです。ところが、いつまでたっても来ない。今日はなにか用事できて、直接自宅に帰ったのかと思って、夫におかずを持って行ってもらったんです。そしたら……」
自宅にも真央ちゃんの姿はなく、それどころか、衣服や学校用の道具一式も、なくなっていたという。
「綾子さん(真央ちゃんの母親・仮名)のものも全部なくなっていて。ただ、テーブルには息子宛の置き手紙が置いてあり、離婚をしたい旨が書かれていました。ただその時は、息子と夫婦喧嘩でもして、その勢いで家出したんだろう、と思い、息子に“あんた何したの”と問い詰めたんです。ところが、喧嘩なんてしてない、ましてやDVもないと、不思議がっている。しかも、この間も3人で旅行に行ったばっかりだというんですよ」
日頃から綾子さんとも連絡を取り合っていた喜代美さん。すぐに何があったのか、LINEで連絡をとったところ、
「『会いたいです』って返事がありました。それで、連絡を取り合い、1ヶ月後、久々に綾子さんと真央ちゃんが我が家にやってきたんです。でも、どこに住んでいるのかも、どんな生活をしているのかも、教えてはくれませんでした。真央ちゃんは、『やっと帰って来られたよ、急に別のところに住むことになって、怖かったよ』と安心した様子でした。その日からしばらくは、週末に我が家にやってくるという生活が続いたのですが、それもひと月くらいで終わりましたね」
そして、昨年7月、ついに綾子さんとの連絡が途絶え、音信不通に。
パパのお家に帰ったらいけないの?
「向こうの弁護士さんが厳しく制限をかけてきて、結局今はどこでどんな生活をしているのか、ちゃんと学校に通えているのか、全くわからない状態です。あまりにも心配で、何か手がかりはないかと、息子と一緒に、綾子さんのご実家にも伺ったのですが、チャイムを押すも返事がなく、それどころか警察がやってきて、それ以上は何もできませんでした」
と悲嘆に暮れる喜代美さん。
「息子と綾子さんの間に何があったのか、それは二人の問題ですので、私が口を挟むべきではないし、二人で解決すべきことだとは思います。ただ、真央ちゃんには真央ちゃんの生活、人生があったわけで、それを大人の都合で、突然ぐちゃぐちゃに変えてしまうことが、果たしていいことなのか。最後にあった時に、『なんで(綾子さんと住む家に)帰らないといけないの?パパのお家に帰ったらいけないの?』と聞いてきた真央ちゃんの顔が、忘れられません」
このケースでも、仮に喜代美さんの息子が、妻子の居場所を突き止めて真央ちゃんを連れ戻せば、「誘拐」と判断される危険性がある。
なお、「連れ戻し」のみを「誘拐」として判断する不合理な取扱いについては、「共同養育支援議員連盟」においても問題視され、2月3日の議連総会において柴山昌彦議員が警察庁に確認をしたところ、警察庁は「子の連れ去り」であるか、「子の連れ戻し」であるかを問わず、未成年者略取誘拐罪にあたることを明言し、2月21日付け「配偶者間における子の養育等を巡る事案に対する適切な対応について」と題する事務連絡を発出し、全国の警察に適切な取り扱いを徹底するよう連絡がなされるなど、改善の動きは出てきているが、問題の解決には至っていない。
共同親権制導入の可否とともに、こうした案件についても、法の適切な執行の徹底や関連問題についての法整備を含めた議論が待たれる。
デイリー新潮編集部