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2/27(日) 14:01配信
東洋経済オンライン
今、ブラッド・ピットが窮地に立たされている(写真:共同通信)
■泥沼離婚のピット&ジョリー
突然の離婚申請から、ほぼ5年半。ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの醜い争いは、今も続いている。親権の決着もつかない中、今月には、南仏のワイナリー「シャトー・ミラヴァル」をめぐり、ピットがジョリーに対する訴訟を起こした。
ふたりがこの不動産を2840万ドルで購入したのは、2008年のこと。以後、ピットはこのワイナリーでロゼワインの生産に力を入れてきたが、ジョリーはほとんど手を出していない。
なのに彼女は、昨年、ピットに相談なく、自分の分の所有権を、ウォッカなどを販売するロシアの会社に売ってしまったのだ。自分がお金も努力も注ぎ込んだビジネスの半分を、何もせずに見ていただけの元妻がライバルに当たる会社に売ってしまい、ビジネスをコントロールできなくなってしまったとあれば、激怒するのも当然。ピットは、この売買を無効とすることと、損害賠償の支払いを要求している。
こんなふうに、彼らについての泥沼の話を聞くたび、どうしてこんなことになってしまったのかとため息をつかずにはいられない。熱愛の結果、困難を乗り越えて結ばれ、一緒にいる間は公にもお互いを褒めちぎっていたあのふたりがこうなるとは、まるで予測できなかった。
すでにご存じの通り、ふたりをめぐり合わせたのは2005年の映画『Mr.&Mrs.スミス』だ。ダグ・リーマンが監督するこのアクションコメディの主役は、最初、ピットとニコール・キッドマンに決まっていた。だが、別の映画の撮影が長引いてキッドマンが出られなくなり、ジョリーが代わりのオファーを受けて、運命の出会いとなったのである。
それは、ジョリーが2番目の夫ビリー・ボブ・ソーントンと離婚してまもない頃。彼女はカンボジアから養子に取ったマードックス君をシングルマザーとして育てていた。かたやピットは、2000年にジェニファー・アニストンと結婚したものの、彼女が映画女優として成功したいという野心でいっぱいなため、子どもをもつ夢が叶わないでいた。その頃の結婚生活について、ピットは「退屈だった」と、振り返っている。
そんなところへ、この魅力的な女性が現れたのだ。妻より6歳若いジョリーは、すでにオスカーも受賞し、「トゥームレイダー」など大作の主演も務めるなど、女優としても断然上。キャリアにカツカツしているふうもなく、飛行機を操縦するというかっこいい趣味ももっている。慈善活動にも熱心で、ギャラの半分を毎回寄付するともいう。さらに、すばらしい母親でもあるのだ。そんな彼女は、彼の目になんと刺激的に映ったことか。
ジョリーも、このセクシーな男性がそう感じていることを知っていた。幼いマードックス君がピットに「あなたは僕のパパなの?」と言ったのも、彼女がそう仕向けたのではないかと思われる。だが、心が通じ合っていると感じていても、ベッドシーンの撮影中、撮影用の下着を脱いで挑発するなどしても、父の不倫のせいで母が苦しむのを見て育ったジョリーは、「既婚者とは付き合わない」という自分のルールを崩さなかった。
それはつまり、ピットに決断を迫ったということ。そして、じらされるのに耐えられなくなったピットは、ついにアニストンとの破局を決めるのだ。そのニュースが世界を駆け回るやいなや、ジョリーはさっさと彼の子どもをお腹の中に宿らせた。彼がずっと切望してきた、自分の子ども。それを与えてあげたジョリーは、これにて完全な勝者となったのである。
その後、カップルには養子と実子がさらに加わり、8人の大家族として世界中を飛び回るようになった。アニストンと結婚していた頃には、取材でプライベートについて語るのを嫌がっていたピットは、いつも余裕たっぷりのジョリーに影響を受けてか、家族への愛を堂々と語るようになる。ジョリーはピットを「最高の父親」と呼んだし、ピットは、「飛び回る生活をこなせるのも、ママがいつもきっちりと準備をしてくれるおかげ」と語っていた。
■ジョリーがブラピに抱いた「不満」
しかし、家の中では意見の相違もあったらしい。ミズーリ州の一般家庭に育ったピットは、子どもたちに、自分と同じように決まった学校に通い、安定した生活を送らせたいと考えていた。逆にジョリーは、世界のあちこちを訪れる生活を送るほうが子どもたちの教育に良いと譲らなかった。
破局後、ピットは、自分が「強いお父さん」でいたことを後悔しているとも述べている。「お父さんは絶対」というのは昔の家庭ではよくあったことだが、そんな彼の子育ての姿勢にジョリーは不満だったようだ。
そんな中でも、子どもたちの願いもあり、禁断の恋に落ちて10年経つ2014年にふたりは結婚。式場は、今回の訴訟の焦点であるシャトー・ミラヴァルだ。なのに、それからわずか2年後、ジョリーは離婚を申請するのである。
その前からいろいろ溜まっていたのは間違いないが、背中を押したのは、プライベートジェットの中で口論になり、アクシデントとはいえ、ピットがマードックス君に触れてしまったこと。
その時、酒に酔っていたことを認めるピットは、親権を失うリスクに直面し、酒をキッパリやめた。だがそんなピットの努力にもジョリーは冷たく、一貫して単独親権を主張し続ける。共同親権が一般的なアメリカで、それは珍しいこと。そのせいで、ピットは、しばらく愛する子どもたちに面会するにも苦労したが、昨年5月、ようやく共同親権を取り付けることができたのだった。
と思ったら、10月にまたあっけなく覆されてしまったのである。ふたりの離婚の件を担当していた判事がはずされたせいで、その判事が下した共同親権の判決が無効になったのだ。なんとしても単独親権を死守したいジョリーが、この判事がピットの弁護士とビジネス関係にあることを指摘し、判事の交代を願い出た結果のこと。やっと終わったと思った戦いは、ここで振り出しに戻ってしまった。
■愛する子どもたちはどうなる?
そこへきて、今度はシャトー・ミラヴァルをめぐる訴訟である。このトラブルが今後、どんな展開を迎えるにしろ、ふたりは、結婚していた期間よりずっと長い期間を争いのために費やすことになるだろう。
それにしても、「最高の父親」と褒めていた元夫が子どもたちの父親であり続けることを、ジョリーはどうしてそこまで嫌がるのか。それ以前に、アニストンの大勢のファンから嫌われるのも覚悟で略奪した男は、なぜそこまで憎い存在になってしまったのか。
一番複雑な思いを抱いているのは、ふたりの親のはざまにいる子どもたちだ。長男マードックス君は、プライベートジェットの一件以来、ピットとの連絡を絶っているとのこと。
「あなたは僕のパパなの?」と言い、ピットの心をくすぐったマードックス君は、現在、韓国の大学に通う。ピットにとっての初めての息子は、物理的にも、精神的にも、とても遠いところに行ってしまった。
長い戦いの間にも、子どもたちは育っていく。「最高の父親」と呼んだ男が子どもたちを抱きしめるのをジョリーが許す日は来るのだろうか。
猿渡 由紀 :L.A.在住映画ジャーナリスト