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子どものいる離婚48 前編
著者
上條 まゆみ
プロフィール
ライター
Yahoo! Japanが2021年7月に実施した2000人アンケートで、「離婚したいと思ったことがある」と答えた既婚者は6割を超えた。しかし、実際に離婚すべく行動を起こしている人は少ない。その境目は、結局夫婦として好きな思いがあると気づいたことや、コミュニケーションをとるよう努力したこと、子どものためにと思い直した、などと様々な理由がある。
結婚したら離婚をするのはいけないということでは決してない。互いに健やかに人生を送るための離婚は、大切な選択肢の一つではある。しかし、もしかすると互いへの思いやりがあれば、そのすれ違いは回避できる可能性もあることを、アンケートは示している。
しかし、自分がいざ当事者になると、つい客観的に見られず、被害者意識をもってしまうことも多い。そんな時、体験談を聞くことは客観的に見る指標となる。
相手の立場を考えることができずにいたために離婚に至ったということを、離婚後5年目にして感じているという男性に、ライターの上條まゆみさんが話を聞いた。
上條まゆみさん連載「子どものいる離婚」今までの記事はこちら
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結婚して6年目、不倫も借金もDVもないのに…
「元妻にとっては、子どもと一緒に暮らすというプラスの面より、嫌いな夫と暮らすというマイナスの面のほうが上回ったわけです。頭おかしいんじゃないかと思いましたよ」
4年前に元妻が子どもを置いて家を出て行き、シングルファザーとして10歳の子どもを育てる志田隼人さん(仮名・36歳)は、5年前の悪夢を話し始めた。
「正月、三が日も明けないうちに、元妻からいきなり離婚を切り出されたんです」
家族で出かけた親戚まわりから帰ってきて、家でくつろいでいるときのことだった。子どもは寝てしまい、リビングには夫婦だけ。隼人さんが「今年の連休はどこに行く?」と元妻に話しかけたら、聞こえているはずなのに無視された。「なんだよ!」と声を荒げたら、急に「離婚したいです」と言ってきた。
Photo by iStock
それほど仲のいい夫婦ではなかった。結婚して6年目。正直、元妻への恋心はとうに冷めていたし、元妻もそうだっただろう。が、家は買ったばかりだし、何より子どもがいる。当時、5歳で、まだ手のかかる年ごろだ。不貞も借金もDVもないのに離婚だなんて、まるで現実的ではない。
「好きな人でもいるの? と元妻に聞いたら、そんな人はいない、と」
単身赴任で完全なる妻のワンオペに
ひとつ思い当たるのは、間もなく隼人さんの単身赴任が終わることだった。その時点まで隼人さんは約2年間、単身赴任をしていた。自宅から2時間程度の距離なので、週末ごとに帰っていたのだが。
「元妻としては、もう一緒に暮らしたくないということだったんでしょう。でも、突然、言われても困る、とりあえず僕は別れるつもりはないよ、と言い、後日あらためて話し合うことになりました」
元妻とは中学時代の同級生で、成人してから付き合い、25歳で結婚した。可愛らしく社交的な元妻は、お酒も強く、隼人さんの会社の集まりに連れていくと、年配の上司ともうまく調子を合わせて飲みに付き合う。「いい子だな」と評判もよく、隼人さんには自慢の妻だった。
会社の集まりに連れて行っても上手にその場を取り持ってくれる自慢の妻だった
26歳で子どもが生まれ、子どもが1歳になる前に元妻は職場復帰。共働きを続けることに夫婦とも迷いはなかった。比較的若いうちに結婚したのでお金がなかったし、元妻は仕事が好きだった。
「子どもが3歳のとき、僕が転勤になったんです。異動先は都内ですが、住んでいる場所からは通勤時間が2時間近くかかることになり、残業が多い仕事柄、それは厳しい。引っ越そうと言ったのですが、そこで子どもが保育園に入れるかどうかわからないと妻に反対されて、やむなく僕が単身赴任をすることになりました」
元妻自身が望んだこととはいえ、3歳の子どもの面倒を一人で見ながらフルタイムで働くのは、どんなに大変だっただろう。シングルファザーとなったいまになって、それがよくわかる、と隼人さんは言う。
「自分の方が大変だ」と思っていた
でも、当時、隼人さんは元妻を思いやれていなかった。
「僕は転勤したばかりで、新しい職場に慣れるのに苦労していたし、社内試験を受けるための勉強にも追われていました。そんな僕に元妻は、だからってえらそうにしないでよ、という態度。要は2人とも、自分のほうが大変だ、自分のほうが頑張っているって、マウントを取り合っていたんです」
夫婦の気持ちはすれ違うばかり。土日に家に帰っても、正直、楽しくなかった。子どもを連れて買い物やレジャーなどに出かけ、家族らしく過ごしていたが、夫婦で話すことはなかったような気がする。
週末に帰ると子どもを連れて外出はしていたのだが…Photo by iStock
それでも、隼人さんはどうしても離婚を避けたかった。
「元妻が好きとか子どもがめちゃくちゃかわいいとかそういうのではなく、『家族』を手放したくなかったんです」
隼人さんはもともと、とくに欲しいものがあるとか、やりたいことがあるタイプではなかった。働く意味を見失いがちななか、「家族のために」という理由があれば頑張れると思い、早めの結婚をしたのだと言う。友だちと濃い付き合いもしていなかったので、唯一の絆が家族だった。だから、離婚して家族を失ってしまうと、働く意味も生きている意味もなくなると思った。
「親権は母親が有利だし、僕は単身赴任もしているから、親権を取ることはまず、無理でしょう。そうなったら、人生終わりだな、と」
自分なりに妻に歩み寄った
隼人さんは元妻との話し合いに向けて、自分の悪いところを書き出してみた。
「片づけが苦手でだらしなかった、お金に雑だった、そもそも子どもをつくるのはもう少し後にしようと言っていたのに計画どおりにしなかった……。考えてみると、いろいろありました」
部屋が散らかっていてもそのまま…Photo by iStock
隼人さんはそれを元妻に見せ、悪いところは直すから離婚は考え直してくれ、と言った。そして、家事と育児と仕事とでストレスが溜まっているのだろうと思い、土日は自分が家事と育児を全部するから、自由に過ごしてくれとも伝えた。
「元妻は『もう無理です』と、素っ気なかった。でも、理由もなく片方の意志だけで離婚はできないし、とりあえずそのまま暮らしていたんです」
宣言どおり、隼人さんは土日の家事と育児はすべて請け負った。妻は、朝早くから出かけて夜遅く帰るようになった。一緒に食事をとることもなくなった。
そんな生活が数ヵ月続くうちに、隼人さんは「おかしいな」と思い始めた。元妻は、朝から晩まで、どこで過ごしているのだろう。実家に行っている気配もないし、よく見ると、前より化粧が濃くなり、靴のヒールも高くなってきている。
◇元妻の絶対的拒絶を前に、隼人さんはどのような行動をとったのか。そして今思うことは……後編「元妻を憎んでいたけれど…36歳男性がシングルファザーになり気づいた「妻の立場」」で詳しくお伝えする。
後編「元妻を憎んでいたけれど…36歳男性がシングルファザーになり気づいた「妻の立場」」を読む