法制審の長谷川文書の根拠
民法の親権制度について話し合う、法制審家族法制部会第7回(2021年9月21日)会議にて原田直子委員より2点資料の提出がありました。
①長谷川京子 「エビデンスは「共同」から安全へ、養育法制の目標の転換を支持している ~英国司法省報告に関する文献レビューから~」
『戸籍』令和3年8第999号
②英国司法省報告に関する文献レビュー
日本弁護士連合会 両性の平等に関する委員会 仮訳
②の資料は、2021年6月にAssesing risk of harm to children and parents in private law children cases (通称 ハームレポート)という資料と共にイギリス司法省から発表されたものです。原田委員は、そのうち、「Domestic abuse and private law children cases A literature review DVと子どもをめぐる家族法についての文献レビュー」から抄訳を提出しました。
①の長谷川京子氏文書はこのイギリスの資料を根拠に、イギリスでは「離婚後共同親権制」だと、DVをする親が子どもに関わることが危険だと認識されたので、共同養育や双方責任をもつことは現在見直されている。日本での面会交流論は慎重になるべきだという主張をし、原田委員も、それを支持する発言をしています。(法制審議会 家族法制部会 第7回議事録 6ページ)
しかし、この資料は「DVする親」が、もう一方の親や子供に関わることの危険性を例示する文献レビューに過ぎないものであり、「イギリスが離別後の親子の交流の見直しを現在しているから、日本も安易に離婚後共同養育、双方責任をもたせることは慎重にならなくてはいけない」という主張の根拠にはまったくなりえません。
悪意ある意訳
提出された資料①と②において、原田委員提出資料の日本語のタイトルは、『面会交流等離別後の子の養育に関する裁判の評価報告書~子どもと親の安全・安心の観点から~』と書かれておりますが、原題は”Domestic abuse and private law children cases A literature review ”です。
直訳すると、『DVとこどもをめぐる家族法 文献レビュー』になりますので、同文書は「共同親権の危険性を指摘する」主旨のものではなく、悪意ある意訳をしていると言わざるを得ません。
ハームレポートの5ヶ月後の、2020年11月発表のイギリス司法当局による”What about me? Reframing support for Families following Parental separating ”条文 No.7においても、「安全上の懸念がなければ、子どもは両方の親と親密な関係は築くことができるし、一方の親がそれを止める権限がない」ことが明記されております。
実際のところ、イギリスの運用ではDVのあるケースを法的に扱う前に、初期にふるい分けすることが重要視されていて、DV問題を抱えていないケースでは離婚後も親子は直接交流をするのが前提です。
小川富之氏の主張も否定される
さらに、大阪経済法科大学教授 小川富之氏は、東京新聞朝刊(2021年7月1日)、法制審第5回(2021年7月21日)に参考人としての発言(40~47ページ)、朝日新聞朝刊(2021年11月17日)で、イギリスとオーストラリアではDV被害を重視し、共同親権・共同養育法制度の見直す動きがあると主張しました。
しかし、豪紙The Sydney Morning Herald (2021年12月14日付け)は、オーストラリア家族研究所による2011年の法改正のレビューを参照して、子どもの権利を重視することを「ほんの少し」修正して、「子どもを危害から守る必要性」を重視するようになったのであって、「共同親権・共同養育自体を見直すものではない」ことを指摘しており、小川氏の主張は、彼を名指して完全に否定されています。
共同養育に反対する方々が英語圏での「見直し」や「転換」とする主張は、一部の修正を全面的な転換としてすり替え、日本語圏の国内に意図的に伝える捏造です。
同居親が非同居親のDVを一方的に言い立てると警察や裁判所による合理的なDVの審査が全くなされません。
配偶者のDVのために親子で緊急避難をすることがあったとしても、1週間以内に捜査権を含む強制力のある司法のマターとすることや、また、DVの存在について刑事的に精査するなど、「民法改正を中心として、システムを整備すること」が、子供に対する正当な養育のためにも急務です。(2021.12.26)