https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/874258
【木村草太の憲法の新手】(165)離婚と親権(上) 「連れ去り勝ち」論に誤り 報道は双方の取材必要
2021年12月5日 12:00有料
離婚や夫婦関係の破綻について、法的観点から問題のある報道が絶えない。何に注意すべきか検討しよう。
未成年の子のいる夫婦の離婚・破綻の場合、夫婦いずれかが子を連れて家を出ることも多い。こうした事例について、(1)「連れ去り勝ちだ」、「誘拐なのに裁判所は何もしてくれない」、「日本法は親子断絶法だ」などと報じられることがある。また、これに絡めて、(2)「離婚後に単独親権とする日本法に問題がある」、「海外では離婚後も共同親権だ」などと、共同親権の導入が主張されたりする。さらに、(3)「国境を越えた連れ去りなら、ハーグ条約で親子断絶を防止されるのに、国内では連れ去りが許されるのはおかしい」などと言われる。
しかし、こうした報道には大きな問題がある。まず、(1)連れ去り勝ち論について。不当に子連れ別居がなされるケースは確かにあり、それを是正するため、監護者指定や子の引き渡し手続きがある。例えば、これまで子どもの世話をしておらず、監護能力に欠ける親や、虐待を繰り返す親が子どもを連れ去った場合、もう一方の親が監護者指定の調停・審判の手続きをとれば、裁判所はそちらを監護者として指定し、子を引き渡すように命じるだろう。
また、監護者に指定されなかった親も、面会交流の申し立てができる。虐待の危険があるなど、面会交流によって子どもの利益が害されるような事情がない限り、面会交流は継続できる。いつ・どこで・どのように面会交流するかは、子どもの利益を最優先に、個別に決められる。
こうしてみると、「(元)妻/夫に連れ去られて子に会えない」と報じられる事例は、面会交流等の手続きをとっていないか、手続きをとったにもかかわらず、何らかの理由でそれが認められなかったか、である可能性が高い(裁判所の定めた面会交流を同居親が拒否するケースも時にはあるが、それは裁判所に間接強制を求めることなどによって解消できる)。
そうした事例で、「連れ去られた側」の主張を一方的に報道するのは極めて危険だ。例えば、監護者指定審判の中で、深刻なDVや虐待が認定されているのに、それを無視して、「実子誘拐の被害者」などと報じれば、子連れ別居を選択せざるを得なかった親への深刻な名誉毀損(きそん)となる。また、「連れ去られた側」が、子どもの顔写真や名前、小学校での様子などを公開したがる場合もあり、それをそのまま報じれば、取り返しのつかないプライバシー侵害になることもある。
とすれば、「連れ去り」が主張された事例では、報道機関やライターは、まず、その別居親に、裁判所で監護者指定や面会交流の手続きをとったかを確認すべきだ。
また、当然のことながら、裁判所の審判内容やもう一方当事者の言い分も必ず取材しなければならない。それを怠れば、DVや虐待の加害者に加担する危険があるし、日本には監護者指定審判や面会交流審判の制度などが存在しないかのような誤解を与えることになる。
次回は、実際に名誉毀損が認定された報道の一例を紹介するとともに、(2)共同親権導入論と(3)ハーグ条約類推論の問題を指摘したい。(東京都立大教授、憲法学者)