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2021/10/12 05:00
夫婦が争った子を巡る裁判で、親権者・監護者を母親とする司法判断が大半を占めている。福岡市では育児に問題のなかった父親に対し、別居中の母親に子を引き渡すよう命じたケースもある。専門家は「裁判所には母親優先の考えが根強い」と指摘。社会状況の変化も踏まえ、法制審議会(法相の諮問機関)では親権のあり方などについて議論が進んでいる。
司法統計によると、離婚時の家裁での調停や審判で2020年度、「親権者」を母親とした割合は93・8%。このうち、身の回りの世話や教育を行う「監護者」も母親としたのは99・8%にのぼる。00年度もそれぞれ89・9%、99・9%と、20年間にわたりほぼ同じ状況だ。
かつては父親が外で働き、家事・育児を担う母親が子と長い時間を過ごすケースが多かったため、裁判所は離婚後も現状を変えないことが子の福祉にかなうと考え、母親寄りの判断を下してきた。ある元裁判官は「裁判所には『子は母に』の考え方が浸透していた」、別の元裁判官も「本来はケースに応じて判断するべきだが、そうではなかった恐れはある」と言う。
厚生労働省によると育児に参加する父親は増えているとみられ、20年度の育児休業取得率は12・65%と過去最高になった。こうした中、法制審は今年3月から、離婚後の子の適切な養育を目的に、離婚制度の見直しなどを議論。法務省によるときっかけの一つは「親権者や監護者が母親に偏重している」との批判で、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」の導入などが検討課題となっている。
立命館大の二宮周平教授(家族法)は「男性の育児参加が一般的である現在、父親が養育に関わっている場合は、親権の有無や親の性別にとらわれず、家庭環境や子の希望などに配慮したうえで、子の福祉にかなった判断をすべきだ」と指摘する。
◇問題ない父でも引き渡し命令
福岡市のケースでは、父親(38)が今年3月、一緒に暮らす娘(7)を母親に引き渡すよう命じられた。
娘を巡っては父親は監護者指定を、母親は引き渡しを求めて昨年11月、福岡家裁に裁判を起こした。
家裁の認定では、夫婦は事実婚だった2014年に娘が生まれ、親権は母親が持った。父親は不仲から16年に家を出た。娘は父親宅に泊まる日数が増え、19年8月から父娘で暮らした。娘が通った保育園職員は「父親は育児熱心だった」と話す。
一方、母親は前夫との間に生まれた長男、長女と暮らし、娘との関係に問題はなかった。昨年8月の長男の事故死後に体調を崩し、無職に。生活保護を受給し、心療内科に通院している。
家裁は「父親の監護状況に問題はない」と認定したうえで「母親は日常生活におおむね問題はなく、娘を引き渡しても子の福祉に反しない」と判断した。福岡高裁も今年7月、同様の判断で父親の即時抗告を棄却。現在は最高裁で争われている。