「当事者」岩崎夏海さんインタビュー #3
2021年07月23日 06:00
牧野 佐千子
ジャーナリスト
岩崎夏海さんのインタビュー3回目。モラハラの連鎖を繰り返さないために
単独親権を支持する人たちは「洗脳」状態。悪人から離れるしかない
悪人との戦い方は学校で教えないが、合法的に指弾してボロを出させる
夫婦関係の破綻に際して年間数万件起きているとも言われる子の連れ去り。その当事者の一人が、ベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(通称「もしドラ」)の原作者として知られる小説家・岩崎夏海さんだ。#1、#2に続き、自身の経験、この問題の社会的背景を語る。(3回シリーズ3回目)
Zoomでインタビューに答える岩崎さん
もっと感情的に、子どもには逃げ道を
――親から子へ、モラハラの連鎖を断ち切るには、どんなところに打開策があると思われますか?
【岩崎】きわめて難易度が高いが、もっと「感情的」になることです。なぜなら、モラハラの一番の特徴が「感情を押し殺すことによって相手を支配する」ことだからです。もちろん、感情的になりすぎてもいけませんが、感情を殺すと今お話ししたようにモラハラになってしまうので、「適度に出していく」しかないのです。「そのバランスを教えてくれよ」と言われるかもしれませんが、これは各人が経験し、失敗する中で見つけていくしかありません。そもそも難しいことなのです。でもその難しいことをやっていくしかない。
そこで忘れてはならないのが、常に子どもに逃げ道を用意しておく、ということです。例えば、僕は今運良く再婚できて、これも運良く2歳になる子どもに恵まれたのですが、子どもがいたずらをして嫌な気持ちになったときは、冷静に諭すのではなく、意識して感情的に怒るようにします。そうすると、面白いもので子どももそれに反発し、ぼくを殴ってきたりするのですが、これはまさに「子どもに逃げ道が用意されている」という状態です。ぼくは、子どもに殴られることで、自分の感情の出し方のバランスを確認しています。もし子どもが本当に支配されていたら、こちらを殴ってくることはできませんからね。
そういうふうに、子どもが自分の感情を爆発させることのできる関係性を築くようにしています。実は、これをできている親も多いと思います。スーパーなどに行っても、子どもと喧嘩しているお母さんはよく見ますし、だだをこねて寝っ転がったりしている子などもよく見かけます。実は、あれこそが「親子が上手くいっている」という証なのです。
その逆に、子どもが親に対して反抗できない状態は、「洗脳」を疑った方がいいです。本当にいい子である場合は少なく、感情を押し殺している可能性が高いです。そして、感情を押し殺すことがいかに危険かを、できるだけ多くの人に知ってほしい。誰かの感情を押し殺すことは、本当に気をつけていないと、誰でもしてしまうことがあるのです。そのことの危険性を学びながら、皆が誰の感情も支配しない世の中にしていきたいです。
洗脳からは離れるしかない
――単独親権を支持する人たちは、共同親権は危険と思い込まされて一種の洗脳状態にあると思います。
【岩崎】単独親権支持の活動家たちは、まさに「支配」に対して歯止めが効かなくなっています。彼らの他人を支配するやり方は、麻原彰晃やヒトラーとそっくりです。アメリカの精神科医であるM・スコット・ペックが書いた『平気でうそをつく人たち』という本があるのですが、ここには無名の悪人たちもたくさん出てきます。彼は、病人を治療するうちに平気で嘘をつく人たち(この本では「平気で嘘をつく人」を悪人と定義しています)が、患者になっている場合と、患者の近くにいる場合とがあることを発見します。この本によると、悪人は絶対に直らない。直った例がない。だから、離れるしかないと書いてある。家族が悪人だとしたら、縁を切るしかないということです。
――悪人はどこからが悪人なんでしょう?
【岩崎】特徴は、2つ。1つは心が弱い。楽な法に逃げるということです。もう1つは利己性。強烈な利己心を持っている。他人を利用することにためらいを感じない。これは、単独親権支持の活動家たちに共通していますね。彼らは、実は他人のことを全く考えていないんです。だから、「DVをしていない夫もいる」と言っても「妻も被害者になっている」と言っても、蚊に刺されたほどもこたえないですね、馬耳東風。そもそもが彼らが助けている振りをしているシングルマザーも、実は本心ではどうでもいいと思っている。助けたいなんて言う気持ちはこれっぽちもない。自分のために利用しているだけです。
この先、もし法律が変わって時代が共同親権になったら、彼らはころっと転向し、単独親権をしている親たちを攻撃し始めますよ。彼らを支持する人たちは、それを知っておいたほうがいい。彼らを変えることはできないから、なるべく離れることです。彼ら自身ではなく、彼らに洗脳されている人たちを、まず救出する。まずは標的になっているシングルマザーたちを丁寧に救っていくしかない。
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親権問題の夜明けは近い
――表向き耳当たりの良い彼らの言葉に、どんどん洗脳されて、ものすごいスピードで広まっていますが、取り返しのつかない段階まで行く前に引き戻すにはどうすれば良いでしょう…?
【岩崎】中心となっている人物にボロを出させるのが、洗脳を解くカギ。それには本人を合法的に指弾していくしかないです。本人を指弾して、反撃を待つ。彼らへの指弾で一番効くのは、彼らが普段口にしている言葉を言うこと。例えば、「シングルマザーを守る」と言っている人には、「あなたこそシングルマザーの敵だ」と言う。そうすると、逆上してボロが出る。
また、彼らはよく「DV」という言葉をキーワードにしていますが、これに対しても、「あなた方こそDVの加害者だ」と言っていきたい。なぜなら、彼らは「DV」という言葉を実に自分に都合よく、定義をあやふやに使っているのですが、そのあやふやな定義だと、彼もまたDV加害者に当てはまるという矛盾があるのです。この矛盾を突くと、彼らもまともには反論できません。そういうみっともない姿を見て、洗脳が解ける人というのはいるでしょう。
そういう悪人との戦い方は、学校では教えてくれないので、難しいところがあります。しかし諦めることなく、あくまでも合法的に彼らを指弾していくしかない。今の日本は、ナチスに支配されているドイツみたいな状態だと思います。圧倒的なマジョリティがあちら側で、しかもモラハラだから反論しにくい。だから、まずはモラハラの正体を周知することです。そして、彼らの利己心を暴いていく。粘り強くやっていくしかない。
――今それをやろうとしているのが別居親の当事者たちですが、やればやるほどあちら側からDVと言われてしまって、なかなか精神的にも持たない部分はあります。
【岩崎】配偶者が虚偽DVを訴えてきたら、こちらも「相手にもDVはあった」と訴えるべきです。同じ方法で対抗する。それが、虚偽DVを無効化する最善の方法です。まともに戦うのは、逆に相手の思うつぼです。「DVはなかった」というのは悪魔の証明でできないわけですから、まずは「DVがあった」と、相手を同じ土俵に立たせること。話はそれからです。
僕は、はじめの結婚で連れ去りにあったので、2回目は「もし子供が生まれても、連れ去りはしない」という約束をして結婚しました。これから結婚する方には、これ以上の連れ去りを防ぐためにも、そういう約束を最初に交わしておく、ということをおすすめしたいですね。
この問題は、今は暗闇の中にありますが、夜明けは近いと思います。実際、向こうはやりすぎました。おかげで、多くの人がおかしいと気づき始めた。私たちの社会は、これは変えていかなければならないことではありますが、オウムのおかしさにも、地下鉄サリンのような大きな事件がないと、なかなか気づけません。今の親権をめぐる状況は、それと似た状況だと思います。このまま放置すると、もっと大きな事件につながる。それを防ぐためにも、一人でも多くの方の支持と協力をいただきたいですね。
――なるほど、きょうは貴重なとてもお話をありがとうございました。(おわり)