なぜ国内メディアは実子誘拐されたヴィンセント氏のハンストを取り上げられないか

なぜ国内メディアは実子誘拐されたヴィンセント氏のハンストを取り上げられないか

朝日新聞社『論座』が記事の公開を停止した理由

子供を配偶者に連れ去られた(実子誘拐された)フランス人のヴィンセント氏が7月10日にハンガーストライキを開始してから、一週間余りが経過しました。そして、このハンストを記事で取り上げていた数少ない国内メディアの一つ、朝日新聞社の「論座」が、16日に記事の公開を停止しました。

朝日新聞社『論座』に掲載された「おわび」

それまで記事が公開されていたページには、「双方の主張が異なる事実を伝える際には、より慎重な配慮が必要でした」との説明がされています(右画像)。公開が停止される前の記事の内容はこちら(PDF)です。

おそらく、この記事の著者である栗田路子氏は、「子供の連れ去りが誘拐という刑事犯罪であり、児童虐待でもある」との考えから、「ヴィンセント氏の配偶者の意見の掲載は不要である」と考えてこの記事を書いたのでしょう。ヴィンセント氏は現実に子供に会えていないわけですから、これは全く正しい考え方です。誘拐の記事を書く際に、逃げた誘拐犯の言い分を聞いて掲載する必要はありません。

一方で朝日新聞社は「離婚する夫婦という私人の間の民事上の争いに過ぎないから、その内容を記事にして公開するには両論併記が必要である」と判断したようです。

子供の立場・権利に対する理解が不足?

夫婦が離婚する際の一方の親による実子誘拐には、誘拐という刑事の側面と、離婚という民事の側面があります。言うまでもなく重要なのは、前者の刑事の側面です。しかし、子の連れ去り(誘拐)という刑事事件の最大の被害者は、声を上げられない子供であるため、多くの場合は刑事の側面は軽んじられ、夫婦間の争いにばかり関心が向けられがちです。そうすると、実子誘拐も、「単なる夫婦間の争い」と片付けられ、両論併記が記事掲載の前提条件になってしまいます。

記事の公開を停止するという判断に至った朝日新聞社は、突然誘拐され、親と会えなくなった子供の立場や権利に対して十分に配慮をしたうえで、判断を下したのでしょうか。この問題を報じることに躊躇する国内メディアが多いのだとすれば、その多くは子供の立場・権利に対する理解が不足しているのではないかと考えられます。

朝日新聞社は掲載撤回の判断を下すにあたって、顧問弁護士に相談した可能性も高いでしょう。残念ながら弁護士の多くは、実子誘拐や、親子の引き離しという児童虐待、子供の人権問題に対する認識が希薄です。そのような弁護士に「子供の連れ去りは誘拐であり、児童虐待である」と説明できなければ、メディアの役割を果たしているとは言えません。

なお言うまでもありませんが、親による実子誘拐も未成年者略取誘拐罪の適用対象です。国もそのような見解を既に明確にしています(下記参照)。

「未成年者略取及び誘拐罪(刑法224条)は、行為の主体が親権者であるからといってその適用が排除されるものではない(最高裁平成17年12月6日第二小法廷決定、刑集59巻10号1901ページ参照)。」

子の連れ去り違憲訴訟」令和2年7月20日付被告(国)準備書面(1) 6ページ11行目

「記事を公開したら刑事告訴する」という露木肇子弁護士の脅し

露木肇子 つゆき はつこ 弁護士
脅迫を繰り返すヴィンセント氏の元妻の代理人の露木肇子(つゆき はつこ)弁護士

なお、ヴィンセント氏のハンガーストライキについては、本サイトでも既に記事を掲載していますが、記事を公開した7月14日には、ヴィンセント氏の妻側代理人である露木肇子弁護士(写真右)から「記事を公開したら刑事告訴する」との脅しを受けました(この脅しとは関係なく予定通り記事を公開しました)。もしかすると、朝日新聞社も同様の脅迫を受けたのかもしれません。訴訟負担を考えるメディアは、この手の脅しに脆弱です。

ヴィンセント氏も、露木肇子弁護士から「暴力を認めなければ、子供に会わせない」という違法な脅迫を受けたと訴えていることは、既に報じた通りです。露木肇子氏のように、暴力の代わりに法律を使うことを躊躇しないような、職業上の倫理観に欠けている弁護士は少なくありません。

ですから、同様の脅しを避けるためには、当面は実子誘拐について報道する場合、可能な範囲で相手方も取材し、その主張を掲載する(取材拒否の場合はその旨を記載する)といった現実的な対策が必要なのかもしれません。本来は必要がないはずのことですが、世間で実子誘拐に関する理解が深まるまでの間は、やむを得ないことであると考えられます。連れ去り弁護士は、露木肇子弁護士のように取材拒否をしたり、ノーコメントだと逃げたりせず、取材に応じてもらいたいと思います。

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3年前