DV対応として「単独親権」は必要?…日本の離婚のリアル

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共同親権が日本を救う【第4回】

共同親権が日本を救う

愛する家族と交流できる当たり前の社会を目指して。

毎年約12万人の親が親権をはく奪され、その多くが子どもと生き別れになるという、世界に類を見ないガラパゴス社会・日本―――。

なぜ自分の子どもに会うことすらできないのか。

離婚後の養育の在り方や現行制度の課題を提言。
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DV対応として「単独親権」は必要?…日本の離婚のリアル

本記事は、高橋孝和氏の書籍『共同親権が日本を救う 離婚後単独親権と実子誘拐の闇』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
DV対応

単独親権論者が共同親権に反対する際、必ず持ち出す論点の一つが、「DV対応として単独親権は必要」というものです。

しかし、「DV対応」は「DV防止法」やその運用体制等の拡充で行っていくものであって、単独親権を一律に強制する立法趣旨が「DV対応」であるなどということは、そもそも法律論として成立し得ません。

現在、単独親権に関する違憲訴訟が3件(いわゆる「共同親権訴訟」「作花国家賠償訴訟」、他1件)係争中ですが、さすがに国(法務省)も、「単独親権制度の立法趣旨はDV対応である」などという主張はしていません。巷の単独親権論者が、勝手に親権問題とDV問題をリンクさせようとしている、という事実があるだけです。

従って、本来であればDVについて、これ以上取り上げる必要はないのですが、残念ながら数多くの単独親権論者が声高に主張するという現実がある以上、もう少し掘り下げて見ていきます。

前項で述べた通り、離婚時に自分が親権者になろうと思えば、子どもを連れ去って、自分の元で暮らすようにすることが必要不可欠であると言って過言ではありません。この際、仮に虚偽であったとしても「DV」を併せて申告することは、連れ去ったものにとって強力な武器となります。具体的には、DV防止法などに基づく主な措置として、以下の2つがあります。

•保護命令(接近禁止命令)

•支援措置(住所非開示措置)

このうち、「保護命令(接近禁止命令)」についても様々な問題点はありますが、そうは言っても何の証拠もなしに命令がなされることは基本的になく、比較的「まし」な運用がなされていると言えます。より問題が大きいのは、「支援措置(住所非開示措置)」です。

住所非開示措置の申立に必要となるのは、「警察または配偶者暴力防止センターへ相談した」という事実のみです。「相談」さえすれば、それだけでほぼ間違いなく「支援相当」の意見書を取得できます。そして自治体の長は、その意見書さえ確認できれば、まず間違いなく、実際に「住所非開示措置」を取ります。

意見書さえ確認できれば、判断について事後的に責任が問われることが基本的にない一方で、措置を取らずに万が一何かあった場合は、責任問題になってしまうからです。さらに、一度措置がなされれば、原則的に一年ごと、何度でも更新できます。

これに対し、DVを申し立てられた側は、どのような対抗手段があるのでしょうか。驚くべきことに、「制度は存在するものの、実態としてはほぼ何もないに近い」というのが答えになります。

2020年3月の愛知県半田市における事例は、虚偽DVで加害者とされた側の申立によって、住所非開示措置が取消に至ったほぼ唯一のケースと思われますが、これは「支援要請が、暴力被害防止以外の目的であったことを知っていながら、同市が支援措置を行った」という事実認定があったことが大きな要因となっています。支援措置を受けるのは自己申告のみで可能であるにもかかわらず、このような事実が立証可能であるケースは非常に稀であると言えます。

しかも、最終的には和解で解決しているため、判決として確立されたものは何もありません。

こうして住居非開示措置が取られてしまうと、仮に面会交流調停の申立を行ったとしても、最終的には「間接交流(定期的に子どもの写真などが送られてくるだけ)」にさせられる可能性がかなり高くなってしまいます(実際には、DV申立がなくても間接交流にさせられるケースも決して少なくないようです)。

認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏は、「「子どもと会えない」ことを理由にする(共同親権)推進派の人もいますが、(中略)子どもが望む限りにおいて、かつDV等の問題がなければ、単独親権でも家庭裁判所に申し出れば面会交流はできるのです。逆にいえば面会交流ができないのは単独親権だからではなく、別居親に何か問題があるからだと考えるべきなのです」(駒崎(2019))と述べていますが、もちろんこれは極めて不正確な主張です。

正しくは「「『面会交流はできるというのは、親権者の意向次第で定期的に子どもの写真などが送られてくるだけ』でも面会交流を実施したことになる」という意味を含んでいる」と言うべきでしょう。

また、「別居親に何か問題があるからだと考えるべき」という決め付けは単なる差別であり、「自己申告だけでDV防止法等に基づく措置は可能である」という事実を全く踏まえていません。

ここで、単独親権論者の主張について、もう少し詳細に見てみましょう。以下は、弁護士の長谷川京子氏によるものです(長谷川(2019))。

「DV・虐待は、(中略)物理的客観的な証拠が残って提出できる割合は少ないから、(中略)裁判官が「あった」と積極的に認定することは難しい場合が少なくない。しかし、証拠の有無にかかわらず(中略)子どもの福祉を守るなら、監護裁判はむしろ予防原則に立って、安全リスクのある親の関わりを排除できなければならない」

ここでは、「科学的に証明されていなくても、予防的に規制する」ことを意味する「予防原則」が主張されており、弁護士の吉田容子氏も基本的に同様の主張をしています(吉田(2019))。

しかし、少し考えれば分かることですが、「予防原則に立つ」というのは、客観的な証拠がなくてもDVを積極的に認定するということですから、虚偽DVが大いにあり得るということを、当然に意味しています。ところが、「では、虚偽DVの存在を認めた上で、予防原則の観点からその必要性を肯定するということですね」と質問すると、今度は躍起になって、虚偽DVの存在を否定します。斉藤(2019)を見てみましょう。

「そもそもDV被害を受けていないのに、DVを受けたと主張する当事者がいるのであろうか。まず、筆者(注:斉藤氏)が知る限り、そのような調査が行われたことはない。実務上散見するのは、客観的にみてDV被害を受けているとみられるのに、被害者にDV被害の自覚がないケースである。その逆は経験がない。あるのは、自分はDV加害者でないのに、DV加害者呼ばわりされたという一方当事者の声である」

離婚裁判でDVの有無が問題になった場合、判決で「DVの存在は認められない」とされることはあっても、「DVの主張は虚偽である」とまで認定されることは、原則的にありません。

いくら審理を尽くしても、「虚偽ではなく証拠不十分」である論理的可能性が消滅することがない中で、そのような認定を行う必要性が存在しないからです。従って、「「DV被害を受けていない」という立証がされた事案」というのは基本的に存在しないのが当然なのであって、「そのような調査が存在しない」などということは何の根拠にもなりません。

また、虚偽DVで加害者とされた側が、虚偽DVの存在をはなから否定する弁護士に依頼しないのは当然のことであって、同氏が「経験がない」などと言うことは、何の根拠にもなりません。

最後に、離婚後の面会交流において、DV・虐待が問題となっているケースがどの程度あるのか、データを確認してみましょう。厚生労働省(2017)によると、母子世帯全体のうち、面会交流をしない理由として「相手に暴力などの問題行動がある」と回答したのは約1.2%に過ぎません。これが、この問題を考える上で一番信頼性が高いデータであると言えます。

これに対し、例えば可児(2020)は「DVに起因し離婚に至る事例は相当数存在する。(中略)家庭裁判所が関与する離婚でDVの割合は2割を超えている」と述べていますが、前述の通り、離婚争いの渦中においては争いを有利に進めるため、事実の如何にかかわらず相手のDVを主張するインセンティブが明らかに存在しますので、こうしたデータには全く客観性がありません。
※本記事は、2021年5月刊行の書籍『共同親権が日本を救う 離婚後単独親権と実子誘拐の闇』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

3年前