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4/21(水) 11:49配信
日経xwoman
2021年の年明けから、「選択的夫婦別姓」をめぐる動きが活発化。ビジネス界、法曹界から法制化を求める声が上がり、署名活動の輪が広がっています。一連の活動を支援するキーパーソン、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田奈穂さんに、…
2021年の年明けから、「選択的夫婦別姓」をめぐる動きが活発化しています。きっかけは、2020年12月に閣議決定された「第5次男女共同参画基本計画」。2021年度以降、5年間のジェンダー平等に関する目標や施策をまとめた同計画から「選択的夫婦別姓」の記述が削除され、物議を醸しました。ビジネス界、法曹界から法制化を求める声が上がり、署名活動の輪が広がっています。一連の活動を支援するキーパーソンで「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田奈穂さんに、活動の内容と賛同者の輪を広げる巻き込み術を聞きました。
【関連画像】2020年2月に「『自分のまま』でも名字を変えても結婚できる選択的夫婦別姓を一緒に実現しませんか?」と支援を呼びかけたクラウドファンディングでは、約2カ月で1124人から730万円超の支援金が集まった
―― 2021年4月1日、サイボウズ社長の青野慶久さん、ドワンゴ社長の夏野剛さんを共同代表とする「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」が発足しました。どのような組織なのでしょうか。
井田奈穂さん(以下、敬称略) 選択的夫婦別姓(氏)制度の法制化に賛同するビジネスリーダーによる、有志の会です。ディー・エヌ・エーの南場智子会長、日本オラクルの藤森義明会長、フューチャーの金丸恭文会長ら19人のビジネスリーダーが共同呼びかけ人に名を連ねています。4月25日までに1000人以上のビジネスリーダーの賛同者を集めて、菅義偉首相への手交を目指しています。
こうした動きは、法曹界でもあります。4月9日、丸川珠代男女共同参画担当相に、慶応大学の犬伏由子名誉教授から「法学者・法曹による選択的夫婦別氏制度に関する共同声明」を手渡しました。こちらでは、選択的夫婦別姓の早期実現を求め、法律の専門家1094人の署名を集めました。
―― なぜ今、このような動きが活発化しているのですか。
井田 選択的夫婦別姓制度は、婚姻後に夫婦がそれぞれの氏を称することを認める制度です。改姓を希望しない人はもともとの自分の姓を名乗ることができ、希望する人は今までと同じように改姓できます。
今から25年前、1996年に法制審議会答申「民法の一部を改正する法律案要綱」に制度の導入が明記されたにもかかわらず、いまだに法改正に至っていません。一方で、新聞社などの世論調査で約7割以上が法改正を支持しています。日本経済新聞が今年3月29日に発表した世論調査では、結婚世代にあたる18~39歳で賛成が84%を占めました。
足踏み状態が続く中で、昨年末に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画で「選択的夫婦別姓」の記述が削除され、多くの人たちが危機感を持ったというのが実情ではないでしょうか。
2018年、Twitterでのつぶやきから始まった活動
―― ビジネス界、法曹界、いずれの署名活動でも、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」が関わっています。どのような団体なのでしょうか。
井田 2018年1月、サイボウズの青野社長が選択的夫婦別姓訴訟を起こして注目を集めました。それを見て、自分も何か行動しようと決め、同年に立ち上げました。私自身が再婚で改姓したときに感じた疑問を、Twitterで発信することから始めました。
―― Twitterのつぶやきから、どのように広がっていったのでしょうか。
井田 もともと日本では、選択的夫婦別姓をめぐる運動の歴史が長く、約40年続いています。でも私はそうした市民活動の経験がなかったので、すべて手探りでした。Twitterで、どうしたらいいのか意見を募ったところ、候補は2つ挙がりました。1つは青野社長のように訴訟を起こすこと。もう1つは議員への陳情です。
そこで、私の地元、東京都の政治家で自民党・松本文明衆院議員を訪ねて、陳情の方法を教えてもらったのです。政治家は有権者の話を聞くのが仕事だからと、すぐ面会してもらえました。その後、後に自民党の「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」を立ち上げる議員さんたち、さらに野田聖子衆院議員にも会うことができ、どうやったら法改正の合意に向かえるか、アドバイスをもらいました。
●ビジネスリーダーを巻き込み、約3カ月で有志の会を発足
―― その後、どのように活動を広げていったのですか。
井田 多くの自民党議員の方に、企業や経済団体に働きかけることを勧められました。自民党はビジネスリーダーからの声は、無視できないとのことで。
そしてアプローチしたのが、サイボウズの青野社長や、夫婦別姓について積極的に発信していたドワンゴの夏野社長でした。夏野社長にはTwitterで連絡を取り、趣旨を説明して賛同してもらいました。そこから賛同者の輪が広がっていき、「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」が、この4月に発足したのです。
実は法改正は、ビジネスシーンでこそ必要とされています。海外渡航、登記、投資、保険、納税、各種資格、特許、学会での論文発表などで、法的根拠のない旧姓の通称使用ができない場面が多い。2つ以上の氏名を使い分けることにより、混乱が生じているのです(詳細は後述)。
一方で、企業などに所属する弁護士で構成する日本組織内弁護士協会(JILA)の榊原美紀理事長に相談し、勉強会などを通して、企業の経営者の方々と人脈をつくるバックアップをしてもらいました。
Zoom、クラウドファンディング…ネットをフル活用
―― 選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのメンバーは、どうやって集めたのですか。
井田 一緒に活動する仲間は、2018年11月に公式ウェブサイトを作り、そこで募集しました。約440人の申し込みがあり、Zoomを使ってオンラインミーティングをして、その中から260人にコアメンバーになってもらいました。後で「こんなはずでは……」とならないよう、あらかじめ考え方や活動について話し合う時間を取ったのです。
コアメンバーは女性が7割、男性が3割。年齢は18歳から80代まで幅広くいます。一番多いのは、改姓をしたことで不利益を被ったり、傷ついたりした経験のある女性たちです。男性では、自分のパートナーと対等な立場で結婚がしたいという人や、娘や孫のために熱心に活動する70代以上の男性もいます。
―― 井田さんは本業の傍ら、活動をしていますが、活動資金はどうしているのでしょうか。
井田 クラウドファンディングで支援を募りました。人も資金もインターネットを最大限活用して集めています。誰でも当事者とつながり、声を上げることができる……これは今だからこそできる方法で、ネットのない時代なら大変な苦労だったと思います。
改姓によって負担などが生じる理由
【1】改姓には煩雑な事務手続き、出費を強いられる。
【2】個人的な信用やネットワークの一部が引き継がれず、不利益を被る場合がある。96%は女性が改姓しており、男女間で平等な状態にない。
【3】戸籍姓の使用が必須となる研究者や特許保持者、人命に関わる医療職、公文書を扱う法律職などで自己同一性の証明に多大な手間が必要になる。
【4】旧姓の通称使用を認める企業は内閣府2016年調べで半数以下。認める範囲も限定されており、各種免許証や健康保険証、登記簿、一部国家資格などでは旧姓の使用が認められていない。
【5】法的根拠のない旧姓と、戸籍姓との煩雑な使い分け、いわゆる二重氏使いは本人のみならず、人事・法務・経理・総務などにおける手間とコストの増大を招いている。
【6】改姓した側だけが、仕事先など必要のない範囲にまで婚姻状態を知らしめることになる旧姓の通称使用および旧姓併記は、プライバシーの侵害となる。
【7】事実婚では正式な配偶者とみなされず、共同名義の不動産が持てない、パートナーの入院・手術・死亡時の手続きができない、生命保険の受取人になれないといった不利益が生じる可能性がある。さらに子どもの共同親権がない、財産を相続できない、配偶者控除や相続税非課税枠、配偶者ビザの対象外であるなど、法律婚に比べて圧倒的に保護が薄い、もしくは除外されている。
【8】子連れ再婚では、同氏同戸籍の原則により、本人のみならず家族まで望まない改姓による苦痛を強いられることが多い。
出典:「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」事務局の資料から一部を抜粋
取材・文/阿部祐子