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新型コロナウイルス拡大が収束しない中、離婚相談の現場では、昨年に引き続き、今年も「コロナ離婚」という言葉を聞くことが増えています。
法律相談の席でも、「昨年、コロナ離婚したんですよ〜」などと、違和感なく「コロナ離婚」と言われる方が増えてきました。
本当にコロナが原因で離婚に至ったかは、実際のところ、真相はよくわかりません。
コロナ以前から問題があった夫婦が、コロナ禍のステイホームによって、問題が浮き彫りになったと思われるケースも多いからです。
ただ、離婚相談はますます増えてきたように感じますし、相談内容も多岐に渡ってまいりました。
そんな中で、最近特に目につくのがペットの問題です。今回は、ペットの養育費と面会交流のことをご説明いたします。
1「離婚してもペットへの愛情は変わらない」……増加する離婚時のペット問題
先日、自宅でフラワーアレンジメントを教えている玲子さん(仮名/40代)から「夫と離婚することは全く問題ないけど、絶対にようすけちゃんの養育費は払ってもらいたいんです!」という相談を受けました。
当然です。未成年者がいる場合には、親権を持つ側は持たない側に対し、養育費を払わなくてはなりません。
ただ、その後、玲子さんからよくよく事情をお聴きすると、ようすけちゃんというのはペットのワンちゃんの名前でした。
つまり、ご相談内容はワンちゃんの養育費のことだったのです。
その後、玲子さんは離婚をする際の条件としてようすけちゃんの養育費を正式に請求し、夫も離婚に応じてくれるならばと、渋々支払いをすることに同意したそうです。
また、あるご夫婦は、婚姻費用(簡単に言えば、離婚する前の生活費のことです)のことで、揉めに揉めて、裁判所に婚姻費用分担調停を申立てたのですが、「妻には一銭も生活費を払いたくないが、エミリ(ワンちゃんの名前)のためなら支払ってもいい」と夫側が譲歩し、最終的には、妻に高額の婚姻費用が支払われることになったケースもあります。
飼っていた愛猫との面会交流(親子間で定期的に交流する権利)を求めて、ご相談に来られた方もいらっしゃいます。
ペットを飼っている方ならわかってくださると思いますが、長年生活をともにしてきたペットはもはや家族の一員で大切な子供なのです。
特にコロナ禍で家で過ごすことになったご夫婦の癒しの源として、ペットの存在が大きくなってきています。
離婚を考えるとき、未成年者の親権が問題となるのと同じ程度に、ペットの親権(所有権)をどうするかは重要な争点となり得るのです。
離婚を扱う弁護士としては、ペットは実の子供と同じように、親権や養育費をどうするのかを、クライアントに寄り添い真剣に考えていく必要があります。
では、ペットの親権や養育費は、法律的にはどのような位置づけになるのでしょうか?
2ペットは婚姻費用や養育費の対象にならない!
日本の法律では、ペットはあくまで「物」とみなされます。
ですので、子供と同じ様にペットをかわいがっていても、親権の対象にはなりませんし、婚姻費用や養育費の対象にもなりません。
ただ、不動産や動産と同じように、財産分与の対象になるだけです。
ですから、ペットに関する費用のすべては、所有者となった側が負担するのが基本的な考え方となります。
例えば、離婚して財産分与で不動産を取得したとします。不動産には固定資産税が毎年発生しますが、これを相手に請求することができないのと同じことなのです。
ですので、本来、ようすけちゃんやエミリの養育費や婚姻費用は、法律的には発生いたしません。
では、なぜ、玲子さんはようすけちゃんの養育費をもらうことができたのでしょうか?エミリを飼育していた妻も、夫から高額な婚姻費用を支払ってもらっています。
それは、やはり人は感情で動く生き物であり、ペットはわが子と同じという情の部分が大きいからと言わざるを得ません。
つまり、ペットを含めた婚姻費用やペットの養育費は、法律的には発生せず、夫婦の話し合いで決まるのですが、その際にペットの婚姻費用や養育費は法的には認められない分、飼い主としての責任や愛情が大きく反映した結果だといえましょう。
3夫婦双方ともペットを引き取りたい場合はどうする?
ペットはあくまで生き物ですので、通常の財産分与のように、折半して取得することはできません。
車と同じように、夫婦のいずれかがペットを引き取るか、第三者に譲り渡すかを決めなければいけません。
どちらかが連れてきたペットの場合は、連れてきた方が引き取ることになるでしょう。
夫婦一方のみが引き取りを望んでいる場合も、それほど問題にはなりません。
では、夫婦双方がペットの引き取りを望んでいる場合は、どのように決めればいいのでしょうか?
これはあくまでひとつの基準ですが、以下の点を考慮して、どちらがペットを飼育するのが適切かを考えてみてはいかがでしょうか。
これらの点は未成年者の親権者を決める際にも考慮される要素です。
個人的には、ペットの幸せを第一に決めるという姿勢が大切だと思います。
□これまでの飼育状況(どちらが主にペットの世話をしていたのか)
□現在の飼育状況(現在、どちらが主にペットの世話をしているか)
□夫婦が別居している場合は、ペットがどちらと暮らしているか
□今後の飼育環境の整備(ペットを飼育できる経済状況、ペットの世話ができる環境、ペットと暮らすことのできる家に住める等)
□ペットはどちらによりなついているか
□動物病院の診察券の名義や、予防接種の登録名義人など、実質的にペットを飼育していたのはどちらか
4夫婦のどちらかがペットを引き取った場合の財産分与の方法とは?
前述の通り、ペットは財産分与の対象となります。
財産分与における処理の仕方も、通常の財産分与と同様の考え方となります。
⑴ペットが夫婦共有財産である場合
夫婦が婚姻期間中に、夫婦の共有の財産からお金を出してペットを購入した場合は、ペットは夫婦の共有財産となります。
ペットの時価(市場で売却するときの評価額)を算出し、ペットを引き取った方が評価額の2分の1を支払うことになります。
⑵ペットが夫婦の一方の固有の財産である場合
夫婦の一方が結婚前にペットを購入していた場合、ペットは一方の固有の財産となりますので、通常は購入していた側が引き取ることになるでしょう。
その場合、相手に何かする必要はありません。
稀に、一方の連れてきたペットを他方が引き取る場合がありますが、引き取った方がペットの時価を払うということになります。
ただ、ペットの市場価値(時価額)ですが、通常の犬や猫であれば、1歳程度を超えると市場での評価額はほぼ無価値となりますので、ペットを引き取ったからと言って実際に金員を支払ったケースをあまり見かけることはありません。
実際に金員を支払うケースが少ないのは、ペットが「物」ではなく、家族の一員として扱われていることも理由の一つでしょう。
5まとめ
ペットを飼っていた夫婦が離婚する場合、夫婦の一方または双方が転居したり、転職したりするなど、ペットを取り巻くライフスタイルは大きく変わります。
その際、今後ペットを飼育していく経済力があるか、ペット可の住宅に入居が可能か、本当にペットの世話ができるかを具体的にシュミレーションしながら、よく検討してみてください。
アメリカでは、離婚の際にペットの共同親権を設定し、離婚後のペットとの面会交流やペットにかかる費用の負担割合を決める夫婦も多いとか。
日本でも、ペットのために、離婚する際に今後の飼育にまつわる条件をできるかぎり細かく決めておいた方が良いでしょう。
法的には親権、養育費、面会交流などの考え方はありませんが、双方で協議し合意すれば、離婚協議書に折り込むことは十分可能です。
その際にどのような合意をするにせよ、一度飼ったペットに対しては最後まで責任をもって、ご自身もペットも幸せになるような解決策を探していただきたいと思います。
なお、合意内容は、後々紛争にならないよう書面に残しておくことをお勧めいたします。
私が扱った事案でも、妻がペットを引き取り、夫がペット存命中の養育費を毎月支払うことを条件に、月に4回の面会交流(ワンちゃんの散歩)を離婚協議書に盛り込み、公正証書とした事例もあります。
ペットの親権(所有権)問題はこれから益々増えてくると思われます。
愛するペットの気持ちを最優先に、話し合いを尽くして、スムーズに解決したいものです。