2021年4月1日 06時00分
法制審議会(法相の諮問機関)は3月30日、家族法制部会の初会合を開いた。今後、離婚後に父母の双方が子の親権を持つ「共同親権」の導入の是非も議論される。共同親権は子に対する責任が明確になるメリットの一方、父母間の対立が長引いたり、進学など子に関する意思決定が難しくなったりするといった指摘もある。家族法に詳しい立命館大の二宮周平教授に親権を巡る論点を聞いた。(木谷孝洋)
―親権に関する法律の規定はどうなっているのか。
「民法では子を監護・教育し、子の財産を管理する親の権利と義務が定められている。子どもには成長、発達する権利があり、それを支えるための親の権利であり、義務という理解だ」
―日本は民法で、離婚した夫婦の一方を子の親権者とする単独親権制度を定めるが、海外の状況は。
「欧米や中国、韓国などの東アジアでは共同親権を原則としたり、選択できるようになっていたりする。日本も1994年に批准した『子どもの権利条約』では、子はできる限り父母の養育を受ける権利があると明記されている。父母の婚姻関係の有無とは関係がないため、多くの国が法改正し、離婚後の共同親権を認めるようになってきた」
―背景にあるのは。
「一つは男女の役割分業の変化だ。女性の職場進出に伴い、男性が家事や育児を積極的に担うケースも増えてきた。子育てに関わる以上、離婚後も子に関わりたいという希望を持つことは当然だ。父親たちの運動もあって海外では共同親権が広がってきたが、日本は男女の役割分業の意識が根強く、単独親権のままだ」
―日本では養育費の支払い率が低く、離婚時に子と別居親の面会交流の取り決めをする割合も少ない。
「無責任な協議離婚制度が原因の一つだ。日本では面会交流や養育費の分担などを相談したり、合意したりしなくても役所に書類を1枚出せば離婚できてしまう。海外では裁判離婚が主流で、子の養育に関する取り決めについて裁判所がチェックする仕組みになっている。日本も共同親権を導入する場合は、父母が子の養育について話し合い、計画を立てる必要がある。家庭裁判所などが当事者にガイダンスや情報提供を行うなど支援も欠かせない」
―共同親権を認めると、相手がドメスティックバイオレンス(DV)加害者でも縁を切れず、被害が継続するなどの指摘もある。
「今の制度だから、DV被害者は自分の生活を守れるという主張はある。だが海外に比べ、日本には被害者の保護や加害者の更生プログラムが乏しいことも原因だ。DVはDVの問題として対応しなくてはいけない。親権の問題は、子どもの利益は何かという観点から考えるべきだ」
◆親の離婚、年間20万人の子が経験親権見直し、法制審が議論開始
共同親権を含む家族法制の見直しは、上川陽子法相が2月に法制審に諮問。親が離婚しても子が健全に成長できる環境を整えるため、養育費の不払い解消など多様な論点が議論される。
厚生労働省の統計によると、2019年の離婚件数は約20万8000件で、親の離婚を経験する子どもは年間約20万6000人だった。当事者同士の話し合いで離婚する協議離婚が88%を占め、母親が親権を持つケースが84%に上る。
離婚後、子と同居しない親が支払う養育費の受給率は母子世帯で24%にとどまり、ひとり親世帯の貧困の要因になっている。また、同居しない親と子の面会交流の取り決めをする割合も低く、父親が疎外感を持つ原因となっている。
法務省が未成年時に両親の離婚・別居を経験した20~30代の1000人を対象とした調査では、40.5%が両親の別居後に経済的に苦しくなったと答えた。
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