法学館憲法研究所の「今週の一言」離婚後単独親権訴訟 

http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20210301.html

2021年3月1日

作花知志さん(弁護士)

1 離婚後単独親権訴訟は,妻(母)との離婚裁判で,離婚後の子の親権者が妻(母)に指定された結果,子に対する親権を失った夫(父)が,国を被告として東京地裁に提起した,国会(国会議員)の立法不作為に基づく国家賠償請求訴訟です。

2 訴訟は,平成31年(2019年)3月26日に東京地裁に提訴。令和元年6月19日に第1回期日。9月18日に第2回期日。12月18日に第3回期日。令和2年3月18日に第4回期日。11月11日に第5回期日(結審)。判決が令和3年2月17日に言い渡されました。

3 訴訟のこれまでの日程等の経緯や,原告と被告国がそれぞれ提出した主張書面などの情報は,原告の方が作成してくださったHP(https://www.oyako-time.com/)に記載されています。

4 訴訟における原告の主な主張は,以下のとおりです。

[1]親の子に対する親権は,親の基本的人権である。

[2]離婚は,あくまでも夫婦関係を解消する制度にすぎない。離婚は親子関係を解消する制度ではない。それにも拘わらず,現在の民法819条2項は,離婚に際して一方の親の子に対する親権を無条件かつ全面的に奪うものであり,それは親の子に対する親権という基本的人権に対する必要な限度を超えた制限である。仮に,親の親権行使に何等かの問題がある場合には,民法は834条で親権喪失の制度を,834条の2で親権停止の制度を,835条で管理権喪失の制度をそれぞれ設けているのであるから,それらを用いれば不都合には対応できるのである。特に,平成23年の民法改正により,民法834条の2で親権停止の制度が導入された後は,離婚に際して一方親の親権を無条件かつ全面的に奪う必要性は失われていた。

[3]被告国は,訴訟において,「離婚後共同親権制度にすると,離婚して関係が悪化している元夫婦である両親の間で,子の親権行使について意見が対立して,子の不利益となる。」と主張するが,離婚前の共同親権の状態においても,両親の間で子の親権行使について意見が対立することはあり,そのような場合のために諸外国では解決手続を設けているのに,日本法はそれを設けていない。それを学者は「法の欠缺」と指摘しているのであるから,それは離婚後共同親権制度を採用することを否定する理由とはならない。

5 訴訟における被告国の主張は,以下のとおりです。

[1]親の子に対する親権は,基本的人権ではない。よって,離婚後単独親権制度を採用するか,それとも離婚後共同親権制度を採用するかは国会の立法裁量の問題である。

[2]離婚後共同親権制度にすると,離婚して関係が悪化している元夫婦である両親の間で,子の親権行使について意見が対立して,子の不利益となる。

6 東京地裁の判決の内容は,以下のとおりです。

[1]原告の請求を棄却する。

[2]原告による憲法13条違反の主張について

(1) 裁判上の離婚をした父母の一方の親権を失わせる民法819条2項は,幸福追求権などを保障した憲法13条に違反するか。

(2) 親権は,あくまでも子のための利他的な権限であり,その行使をするか否かについての自由がない特殊な法的な権限であるといわざるを得ず,憲法が定める他の人権,とりわけいわゆる精神的自由権とは本質を異にするというべきである。

(3) 親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け,又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。慮るに,当該人格的な利益が損なわれる事態が生じるのは,離婚に伴って父又は母の一方が親権者に指定されることによるのではなく,むしろ,父と母との間,又は父若しくは母と子の間に共に養育をする,又は養育を受けるだけの良好な人間関係が維持されなくなることにより生じるものではないかと考えられる。そうすると,親及び子が,親による子の養育についてそれぞれ上記の人格的な利益を有し,親権の帰属及び行使がそれに関連しているからといって,親権が憲法13条で保障されていると解することが甚だ困難であるという判断を左右するものではない。

(4) 離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,親及び子がそれぞれ有する上記の人格的な利益に対する一定の範囲での制約については,当該人格的な利益が,憲法が予定する家族の根幹に関わる人格的な利益であると解されるから,我が国の憲法上の解釈としては,憲法24条2項の「婚姻及び家族に関するその他の事項」に当たる,親権制度に関する具体的な法律制度を構築する際に考慮されるべき要素の一つとなり,国会に与えられた裁量権の限界を画するものと位置づけるのが相当である。

[3]原告による憲法14条1項違反の主張について

(1) 裁判上の離婚をした父母の一方の親権を失わせる民法819条2項は法の下の平等を保障した憲法14条1項に違反するか。

(2) 裁判上の離婚をした父母の一方の親権を失わせる民法819条2項が,国会に与えられた裁量権を考慮しても,なおその事柄の性質に照らし,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又は同立法目的と区別の具体的な内容との間に合理的な関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な根拠に基づかない差別として憲法14条1項に違反すると解される。

(3) 子の父母が離婚をするに至った場合には,通常,父母が別居し,また,当該父母の人間関係も必ずしも良好なものではない状況となることが想定され,別居後の父母が共同で親権を行使し,子の監護及び教育に関する事項を決することとしたときは,父母の間で適時に意思の疎通,的確な検討を踏まえた適切な合意の形成がされず,子の監護及び教育に関する事項についての適切な決定ができない結果,子の利益を損なうという事態が生じる実際論は,離婚をするに至る夫婦の一般的な状況として,今日に至るもこれを是認することができる。このような事態を回避するため,父母のうち相対的に適格性がある者を司法機関である裁判所において子の利益の観点から判断し,親権者に指定するという民法819条2項の内容は,実効的な親権の行使による子の利益の確保という立法目的との関係で合理的な関連性を有すと認められる。民法819条2項が離婚をした父又は母の一方の親権を失わせ,親権者に指定されなかった父又は母及び子のそれぞれの人格的利益を損なうことがあり得るとしても,一般的に考えられる子の利益の観点からすれば,そのことはなおやむを得ないものと評価せざるを得ない。

(4) 離婚をする夫婦にいわゆる共同親権を選択することができることとすることが立法政策としてあり得るところと解され,認定事実のとおり,それを含めた検討が始められている様子もうかがわれる。しかし,このような立法政策を実現するためには,共同親権を認めることとした場合に離婚後の父及び母による子への養育に及ぼす実際の効果を,それを認めた場合に生じ得る障害に照らし,子の利益の観点から見極める必要があると解されるところ,本件証拠関係をもってしては,現段階において,国会,政府はもちろん,国民一般においても,その見極め等がされている状況にあるとは認められない。離婚後の子に対する共同親権を,又は共同親権の選択を認めるか否かについては,国家機関による親子関係への後見的な助力の在り方を含め,これを国会による合理的な裁量権の行使に委ね,その行使を待つ段階にとどまると言わざるを得ない。

[4]原告による憲法24条2項違反の主張について

(1) 裁判上の離婚をした父母の一方の親権を失わせる民法819条2項は,家族についての法律が,個人の尊厳と両性の本質的平等に即して法の下の平等に立脚して制定されなければならないと規定した憲法24条2項に違反するか。

(2) 民法819条2項の内容及びその趣旨並びに単独親権制度を採用していることにより生ずる影響等からすると,民法819条2項が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるとは認められない。

7 私は,現在3つの,親子の法律に関係する憲法訴訟を担当させていただいています。離婚後単独親権制度違憲訴訟,子の連れ去り違憲訴訟,そして自由面会交流権訴訟です。いずれも東京地裁に提訴がされています。その3つの訴訟を通して思いますのは,3つの問題は互いに密接に関係しているということ,そして,その全ての問題の根源は,民法が規定する離婚後単独親権制度にあるということです。
 現在の民法が採用している離婚後単独親権制度のため,本来なら離婚は夫婦関係の解消であって,親子関係の解消ではないにも拘わらず,一方の親は子に対する親権を無条件かつ全面的に失うのです。
 そして,現在の家裁の実務では,親権を失った親は子との面会交流を月に1回程度,数時間程度しかできないのです。
 そのため,子と会う機会を確保しようとする親は,つまり子と離れたくないと願う親は,親権を失わないことが必要となり,それが離婚に伴い激しい親権争いを生んでいると言えます。
 さらに,現在の家裁の実務では,子を連れ去ることは違法ではないとされています。また,子の監護時間が多い親が親権者になりやすいのです。そのため,子の親権者になることを希望する親による子の連れ去りが横行し,さらに連れ去った後には,連れ去られた親と子の面会を拒否することで,子の監護時間に差をつけようとするのです。
 そのような事態は,子の側からしても,子が望んでいないのに連れ去られ,他方親との面会もできなくなる結果を生んでいます。そして離婚後単独親権制度は,子の側からすると,自分には何も責任がなく,自らの意思や努力ではどうしようもないにも拘わらず,2人いた親権者が1人になってしまうことをも意味します。
 付言すると,調査により,離婚後に子の単独親権者となった者が新しいパートナーと同居したり,再婚したりした後で,その新しいパートナーから子に対して虐待行為が行われる割合が高い,と指摘されています。離婚後共同親権制度の導入は,そのような場合に離婚後も親権者である親が子を救済できる手段を与えることを意味します。
 さらに,現在の離婚後単独親権制度は,離婚後における親権が継続することを保障する必要性の点から,子の福祉を害する制度です。
 離婚後に子の単独親権者となった者が,死亡したり,親権喪失・親権停止になったり,管理権を失ったとしても,離婚に際して子の親権を失った実親の親権は回復しないのです(実務上は,後見が開始するとされている(民法838条)。離婚に際して子の親権を失った実親は,親権者変更の申立ができると実務ではされています(民法819条6項)。当然に親権者となれること(親権者としての地位が復活すること)は法律上保障されていないのです。)。
 子について親権者がいなくなった後,後見が開始されるまでの間,さらに離婚に際して子の親権を失った実親による親権者変更の申立が認められるまでの間,子は自らについて親権を行使する者がいない状態となります。それは,子の福祉の保護の理念に反することです。それは,離婚後単独親権制度には,子の福祉の保護の観点から,「欠陥」があることを意味しています。
 加えて,離婚後単独親権制度は,日本の国が,離婚する親の間で,子の親権をめぐり争うことを強いている,ということもできます。弁護士として離婚訴訟を担当して多く感じてきたことは,夫婦間では離婚の合意ができているのに,子の親権だけが争われて最高裁まで訴訟が続き,紛争が続く,ということです。そして訴訟は当然主張の応酬となりますので,当事者双方から,相手は子の親権者としてふさわしくないという,いわば悪口が書かれた主張書面が飛び交うことになります。それは当然両親の関係を不必要に悪化させて,その結果子のストレスを増加させているのです。離婚後共同親権制度を導入することは,そのような無意味な争いが消えることになります。
 さらには,離婚後単独親権制度は,離婚により親権者が1人になった子について「1人親」という言葉を生んでいます。「1人親」である子は,結婚や就職で差別を受けているという指摘がされています。
 心理学者の研究によって,親が離婚や別居している子に調査した結果,別居親と面会ができている子ほど,自己肯定感が高く,人とのコミュニケーション能力も高いという結果が判明しています。
 これらの意味において,離婚後単独親権制度は親と子のそれぞれの基本的人権を侵害する制度であることは明白です。国会(国会議員)には,この親と子の基本的人権を侵害している現在の民法の離婚後単独親権制度を早期に改正し,離婚後も親と子との共同親権が続くように,子の福祉が保護されるようにするべき義務があることは明白だと考えます。

8 なお,東京地裁令和3年2月17日判決は,上でもご紹介したように,以下のように判示しました。この判示内容は,離婚前後を通して,親による子の養育は親自身の人格的な利益であり,「当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」のでありますから,離婚前後を通して,親と子は共同養育こそが原則であり,離婚後に単独親権制度を民法が採用しているのは,いわば離婚後の子についての法的決定についての例外的規定である,ということを意味します。この判示は,これまで「民法が離婚後単独親権制度を採用しているのだから,子の養育も単独養育が原則である。」とされがちであった裁判所での実務を大きく変える内容だと思います。さらには,この判示は,近時指摘されている心理学者による研究結果としての,「親が別居した後,子が別居親と面会交流を行っている回数が多ければ多いほど,子は自己肯定感が高く,また他者とのコミュニケーション能力も高い。」という結果を踏まえた子の養育のあり方をも指向するものです(野口康彦他「離婚後の面会交流のあり方と子どもの心理的健康に関する質問紙とPACK分析による研究」)。

東京地裁令和3年2月17日判決
 「親である父又は母による子の養育は,子にとってはもちろん,親にとっても,子に対する単なる養育義務の反射的な効果ではなく,独自の意義を有すものということができ,そのような意味で,子が親から養育を受け,又はこれをすることについてそれぞれ人格的な利益を有すということができる。しかし,これらの人格的な利益と親権との関係についてみると,これらの人格的な利益は,離婚に伴う親権者の指定によって親権を失い,子の監護及び教育をする権利等を失うことにより,当該人格的な利益が一定の範囲で制約され得ることになり,その範囲で親権の帰属及びその行使と関連するものの,親である父と母が離婚をし,その一方が親権者とされた場合であっても,他方の親(非親権者)と子の間も親子であることに変わりがなく,当該人格的な利益は,他方の親(非親権者)にとっても,子にとっても,当然に失われるものではなく,また,失われるべきものでもない。」

9 東京地裁令和3年2月17日判決を受けて,東京高裁への控訴が予定されています。

控訴審では,上でご紹介した東京地裁の判決の問題点を指摘する主張を展開することになります。現段階では以下のような主張を考えています。

[1]親権が精神的自由権とは異なる義務としての側面を有する権利だとしても,それは選挙権も同じではないか。選挙権が基本的人権であることに争いはないのであるから,親権も同様に基本的人権として認められるべきである。

[2]親権が基本的人権であるとされれば,基本的人権は合理的な理由なく制限できないこと,さらには民法834条以下で親権喪失・親権停止・管理権喪失の各制度が設けられているのであるから,離婚後共同親権制度を採用した上で問題が生じた場合には親権停止などの措置を採れば足りる。離婚に際して一方親の親権を当然に全面的に失わせる合理的な理由はない。

[3]親権は基本的人権ではない,と解釈することは,同様に離婚後単独親権制度を採用していたドイツやルクセンブルクで,それぞれ違憲判決が出されていることと矛盾する。基本的人権は,人が人であることで当然に有する権利であり,国が与えたものでも,憲法が与えたものでもない。憲法は,人が人として当然に有する基本的人権を確認したにすぎない。すると,基本的人権が人が人であることで当然に有する権利である以上,それは国という存在を超えて普遍的な性質であるはずである。

[4]親権が基本的人権である以上,夫婦関係の解消にすぎない裁判離婚に際して,一方配偶者の子に対する親権を当然に全面的に失わせる民法819条2項は,憲法13条に違反するだけでなく,離婚に際して子の親権者となる他方配偶者との関係で憲法14条1項及び憲法24条2項にも違反するものである。

[5]仮に,親権が基本的人権でないとされたとしても,それが「人格的利益」に含まれることは明白である。すると,夫婦別姓訴訟についての最高裁大法廷平成27年12月16日判決が判示したように,憲法24条2項の法の下の平等の問題が,基本的人権だけでなく,基本的人権ではないが「人格的利益」に含まれる権利については適用されるのであるから,夫婦関係の解消にすぎない裁判離婚に際して,一方配偶者の子に対する親権を当然に全面的に失わせる民法819条2項が,離婚に際して子の親権者となる他方親との関係において,個人の尊厳と両性の本質的平等が許容しない不合理な差別を与えていることは明白である。

10 ご存じのとおり,上川法務大臣は,令和3年2月10日に,養育費,離婚後共同親権,面会交流についての法改正を検討することを,法制審議会に諮問しました。私達の訴訟は今後東京高裁での控訴審や最高裁での上告審へと続いていく予定です。法制審議会において,離婚後共同親権制度の法改正が採用されるように,そのような重要な影響を与えることができるような訴訟活動を続けて参りたいと考えています。

◆作花知志(さっか ともし)さんのプロフィール

最終学歴:東京大学大学院
2002年(平成14年)司法試験合格
2004年(平成16年)弁護士登録
2012年(平成24年)作花法律事務所開設 現在に至る。
所属委員会:日弁連国際人権問題委員会など。

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