「DV・モラハラ夫に仕立てられた」離婚で親権を奪われた男性の後悔

https://news.yahoo.co.jp/articles/e5cb693f7a93330e16c8769ec0b6ec8bc0ed0a3a?page=1

3/5(金) 15:47配信
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女子SPA!

(女子SPA!)

【ぼくたちの離婚 Vol.19 嘘つきと酔いどれ #2】

 先進国で唯一、「単独親権」を採用している日本。離婚後は片方の親しか親権を取得することができないため、離婚の際には子の激しい奪い合いが起こり、ときに子の「連れ去り」などの強行手段に出ることが問題視されている。

 都内の光学機器製造会社に勤める岩間俊次さん(仮名/44歳)も、妻に子を連れ去られた一人だ。

【前回のあらすじ】
俊次さんは36歳のときに妻・結衣さん(仮名/当時32歳)と同棲を開始。結衣さんの精神不安定ときつい仕事でストレスをため、酒浸りになる。同棲3年目に娘が誕生するが、ある日の深夜、結衣さんと取っ組み合いの喧嘩になり、彼女に警察を呼ばれてしまう――。
首を締めたことになっていた

「結衣は『配偶者による暴力』を主張していましたが、正直、ほんとかよ、という感じで……。たしかに僕は酔っていて言動が不安定だったかもしれませんが、手を上げた記憶はない」

 正直、筆者には判断がつかない。

「暴れる結衣をちょっと押さえつけたことが、『首を締められた』ことになっていました。取っ組み合いの際、彼女がたまたま僕の足に踏まれる体勢になったり、もみ合いで床に頭をぶつけて怪我をさせたりしたかもしれませんが、それを言ったら、僕だって頭を強打してコブができたし、口の中も切りましたからね」

 岩間さんによれば、結衣さんが後に裁判所に提出した資料には、顔面に痛々しいアザのついた結衣さんの写真が添えられていたという。しかし、岩間さんはその写真を信じていない。

「アザを“描いた”のかもしれません。そもそもこの写真、取っ組み合いをしてから警察が届くまでの間に自撮りしてるんですが、あまりにも用意周到すぎると思うんですよね」
「金庫のお金も勝手に使われた」

 すべて計画の上での行動だった、と?

「証拠保全というやつですね。事前に弁護士や友人のアドバイスがあったのではないかと踏んでいます」

 結衣さんに対する岩間さんの不信感が、堰(せき)を切ったようにあふれ出す。

「結衣は障害者手帳を持っていましたが、詐病(さびょう)の可能性もあります。根拠ですか? パニック障害に悩まされていた時期、通院して薬を処方してもらってたんですが、ある時、しれっと薬を飲まなくなったんですよ。障害者手帳の更新も一時さぼっていたけど、特に困っている様子もなかった」

 通院や手帳の更新が滞ったからといって、詐病と決めつけるのは早計ではないだろうか。しかし岩間さんは続ける。

「同棲中、僕が金庫に入れていたお金を勝手に使われたことがあります。問いただしたら、専門学校時代に学費を払うためにした借金の返済にあてたと。そんなこと初耳でしたし、証拠の書類も見せてもらっていない。本当かどうか、わかりゃしません。結局うやむやにされて、お金は返ってきませんでした」

 なんとも……言えない。

「前夫にDVを受けていたというのも、絶対、嘘ですからね。結衣は平気で嘘をつく人間なんです」

「同じ夫が2度目の問題を起こした」

 移送された警察署では、岩間さんが酩酊していることが大きく不利に働いた。

「警察からすれば、酔っ払ってるオッサンが何を言ったところで信じません。DV野郎だと決めつけられ、とにかく家に戻るなと言われました。担当警官からは『戻ったらどうなるかわかってるな?』という無言の脅しを受けて、仕方なく、その後はしばらくビジネスホテルと友人の家を転々としました」

 2週間後、裁判所から「申立書」が届く。申立人は結衣さん。配偶者から暴力をふるわれる可能性があるということで、岩間さんは結衣さんの住居(無論、岩間さんの住まいでもある)に近づけなくなった。いわゆる接近禁止令である。岩間さんは当然抗告したが、あえなく棄却。それには理由があった。

「実は子供が生まれてすぐ、結衣が大声でわめき始めたので、もう家にいられないと思って一旦家を出ようとしたことがありました。すると玄関を出たところで、結衣が『待てこの野郎!』と僕に追いすがってきて、その拍子に階段の所で勝手に転んだんです。僕はそのまま去り、しばらくして家に戻ったんですが、結衣と娘はいませんでした。

結衣は僕がいない間に、警察に『身の危険を感じる』と連絡して、一時保護されていました。僕はすぐ迎えに行きましたが、そこで警官に『もうこんなことはするな』と釘を刺されまして……。階段で転んだ怪我が、僕のせいにされていたんです」

 この件が所轄の警察署に記録されていたので、警察としても裁判所としても「同じ夫が2度目の問題を起こした」と判断したのである。
“我々”は皆、「モラハラ夫」

「僕がいくら妻に手を上げてないと声高に叫んでも、周りの見方は違います。毎日のように酒を飲んで帰ってくる夫が、障害者手帳を持っている弱い妻に暴力をふるっていた。夫は疑り深く、妻の言うことを信じない。妻は疲弊し、外部に助けを求めた。それが一番、腹落ちする構図なんですから。ねえ?」

 そう言って、岩間さんはこちらを一瞥した。

「我々は彼女のことをメンヘラだと思っていますが、メンヘラ妻からすれば、我々は皆、モラハラ夫ですからね」

 岩間さんは、なぜか一人称を「僕」ではなく「我々」と言った。

日本の親権は「連れ去り得」

 結衣さんの手際は良かった。岩間さんのもとに離婚調停を希望する旨の連絡があり、婚費(婚姻費用)の請求と子供との面会交流が設定される。

 依然として自宅に戻れない岩間さんは、約4ヶ月もの間、ビジネスホテルと友人の家を往復しながら会社通いを続けた。娘さんは結衣さんのもとにいるので、当然会えない。それは、離婚した場合の親権取得が絶望的であることを意味した。

「別居中に子の面倒を見ている親が“監護者”になりますから、いわゆる『継続性の原則』によって、その親が親権を取れる確率が圧倒的に高くなります。つまり、どういうズルい手段であれ、とにかく子供を連れ去った方が親権を取れる。日本の現行法制下では連れ去り得、やったもん勝ち。結衣に、見事にハメられました」

 岩間さんは弁護士とともに、もし自分が娘を引き取った場合、どのように監護できるかの計画を綿密に立案する。結衣さんと同居中、自分がどれだけ娘の面倒を見ていたかを示す資料も、大量に準備した。

「沐浴なども積極的に行っていましたし、どんなに深夜に帰っても、翌朝は娘のミルクを作っていました。保育園に行き始めてからは、送り迎えも毎日です。休日は娘にべったり。結衣のほうは、保育園が決まった途端に仕事を辞めましたから、『仕事をしている結衣の代わりに僕がやっていた』ということではありません」
親権より、実(じつ)を取った

 しかし岩間さんは弁護士から、親権取得は難しいと最初にしっかり釘を刺された。結局1年ほどで調停離婚が成立。弁護士の言葉どおり、親権は結衣さんへ。裁判には持ち込まなかった。

「僕は、長く親権を争っている方に批判されると思います。なんで諦めるんだ、裁判に持ち込んででも戦うべきではないかと」

 でも、と岩間さんは肩を落とす。

「現実的に考えて、今の日本では、僕がどれだけ頑張っても親権を取れません。離婚を引き伸ばしている間は共同親権者ですが、だからと言って受けられる恩恵はない。その間に子供はどんどん成長していきます。だったら僕は実(じつ)を取ろうと思いました」

1円でも娘に回したい

 岩間さんは婚費と養育費の算定表を出して、説明してくれた。

「僕の年収からして、離婚しないでいると結衣に毎月10万円の婚費を支払う必要がありますが、離婚して養育費になると毎月7万円になるんです。だったら、差額の3万円は娘の学資保険として成人まで積み立てたい」

 しかも、もし裁判となって争いが引き伸ばされれば、弁護士費用の負担も重くのしかかる。その分を1円でも娘に回したいんですと、岩間さんは言った。

「娘とは今、毎月1回、2時間だけ面会できます。決して多いとは言えないし、結衣はなんやかやと理由をつけて面会を妨害してくる。本当は24時間でも一緒にいたい。自分の娘なのに月に2時間しか会えないことについては、正直納得も整理もできていないですね」
子供は親を選べない

 現在の岩間さんの生活に、経済的余裕はない。離婚成立後は少しでも生活費を節約するため、それまでよりも家賃の安い物件に引っ越した。再婚を希望するかと聞くと、今は子供のことが最優先なのでと話を遮られた。

「子供って、親を選べないじゃないですか。うちの両親は悪い人じゃなかったと思いますけど、僕と妹が大事な時期に、僕らの面倒を見てくれなかった。それで……というとすごく酷なんですが、僕はこんなんだし、妹はアル中で死にました。ダメだと思うんです、こういうのは」

 少しの間のあと、岩間さんは続けた。

「ああそうだ、結衣を擁護するみたいになるから、さっきは言わなかったんですけどね。結衣が両親から勘当された理由は最後まで聞けずじまいでしたが、彼女の父親については、まだ付き合う前に少しだけ聞いたことがあります。そこそこ名の知れた伝統工芸品の職人さんで、すごく厳しい人だったそうです。その父親に、結衣は日常的に手を出されていて……まあ、暴力をふるわれていたと」
生き延びるために、必要なアイテム

 父親からのDVが、結衣さんの生きづらさに関係しているのだと、岩間さんは言いたげだった。

「結衣が平気で嘘をつく人間だというのを、僕は許すことができません。僕は被害者だし、そんなに立派な人間でもないので。ただ、彼女がこの世界で生き延びるためには、嘘をついてでも他人を利用せざるをえなかった、とは思います。彼女は、自然体で他人を利用する。僕からも、前の夫からもDVを受けたと言う。言わざるをえなかった」

 それでも、「元妻を擁護はしたくない、できるだけフェアな立ち位置で分析したい」と、岩間さんは注意深い。

「僕の酒癖がそんなに嫌なら、子供なんて作ろうとする必要はなかったと思うんですよ。夫婦仲も最悪でしたし。子供ができる前から、僕は結衣にとって決して良い夫ではありませんでした。なのに、彼女は子供を求めた」

 なぜ?

「この世界で生き延びるために、必要なアイテムだったから」

 岩間さんは、あえてトゲトゲしさを際立たせるように言った。「アイテム」と。

普通の家庭を知らずに大人になった2人

「結衣はいわゆる“家庭”を持ちたかったわけではないと思います。その点については、僕も同じですから、よくわかるんですよ。僕も、おそらく結衣も、普通の家庭というもののロールモデルを見たことがないまま、大人になってしまったから」

 「子供は親を選べない」の意味が見えてきた。

「こういうのは、僕らの代で断ち切らなきゃ。親の不具合に子供を巻き込んではいけないんです。僕にできるのは、養育費と学資の積み立てと人生のいくばくかの時間を、娘に割き続けることくらい。その作業を結衣と共同でやるつもりが、まったくないというだけで」

 昼下がりに始まった取材だったが、いつの間にか夕方になっていた。コーヒーだけで何時間も話し続けてくれた岩間さんに、メニューにあった安いワインを勧めると、「大丈夫です」と手のひらをこちらに向けられた。

<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>

【稲田豊史】
編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。

【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga

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