子育てに関わる大人は多いにこしたことはない…「3人で親になった」僕たちが経験した“妊活”とは〈「世界一受けたい授業」で話題〉

共同親権になったらややこしい手続きはすっきりするのでしょうか。

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2/28(日) 16:12配信

文春オンライン

トランスジェンダーの僕とパートナー、ゲイの親友。なぜ「3人で親になる」ことを選んだのか〈「世界一受けたい授業」で話題〉 から続く

【画像】女子高生だったころの杉山さん

 2月27日の「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)に杉山文野さんが登場。話題の著書『 元女子高生、パパになる 』(文藝春秋)を入り口に、トランスジェンダーとして生きてきた自身の体験や活動を通じてマイノリティの人々がおかれている現状などについて“授業”を行った。「 週刊文春WOMAN 」(2020秋号)に掲載された杉山さんの文章を再公開する。日付、年齢、肩書きなどは掲載時のまま。

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14年前、著書『ダブルハッピネス』でトランスジェンダーであることを告白した杉山文野さんは、今年2歳になる娘の父親になった。子供の親は、パパとママだけという決まりはない。杉山さんが模索する家族のかたちとは?(全2回の2回/ 1回目 を読む)

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子育てに関わる大人は多いにこしたことはない

3人で親。文野さん(真ん中)とゴンちゃん(右)、パートナー(左)で協力して子育てをする

 3人で子育てをすると決めた僕らがまず訪れたのは、LGBTQの事情に詳しく、かつ子供の人権をご専門のひとつにしている山下敏雅弁護士の事務所。現状の日本社会で3人子育てをするには、どんなハードルがあるのか。生まれてくる子供を一番いい形で育てるにはどんな方法があるのかを知っておきたかったのだ。

 まず聞いたのは、親権について。実は、僕は乳房を切除しホルモン投与で生理を止めているものの、子宮と卵巣を摘出する性別適合手術については必要を感じず受けていない。そのため、戸籍上の性別は“女性”のまま。パートナーとは法律上は“女性同士”のカップルになり、結婚することができない。また、日本の制度では婚姻関係のないもの同士で共同親権をもつこともできない。

 だが、彼女がシングルマザーとして出生届を出し、ゴンちゃんがその子供を認知、さらに僕が子供と養子縁組を結べば3人とも法的に親になれる可能性があるという。これは直接妊活に関われない僕にとってちょっと嬉しい情報だった。

 山下先生のアドバイスを受けながら、特に話し合ったのは、最悪の事態が起きた場合のこと。

 もし誰かが仲違いしたら? もし意見が割れて子供の取り合いになってしまったら?

 さまざまなケースを想定したうえで決めたのは、万が一の時の子供についての最終親権は彼女が持つということ。それ以外は常に3人で協議して決めていく。

 なんとなくだけど未来の方針が見えたこと。そして山下先生の「子育てに関わる大人の数が多すぎて困ることはないですよ」というひとことに大きな安心感を得て、僕らは本格的な妊活を始めることにした。

身体的に妊活に関われないもどかしさ

 まず行ったのは、友人のレズビアンカップルに教えてもらったシリンジ法。針のない注射器で精子を直接送り込むという方法で、病院に行かずに実践できる。

 フィジカル的に妊活に関われない僕が唯一できたのが、この精子を注入する作業。とはいえ、他の男性の体液を彼女に入れることに抵抗がなかったわけではない。理解はしていたけど、今思い返しても複雑な気持ちになるほどだった……。

 シリンジ法を約1年続けた後、次のステップである体外受精へ。2回目の治療で妊娠することができた。

 僕らはもちろん、「孫の顔が見られるとは思ってもみなかった!」と両親たちも大喜び。みんなをジジババにしてあげられてよかったとホッとする一方で、僕の中には不安もあった。
何をもって家族といえるのか

 それは生まれてくる子供が血の繋がりのない僕に懐いてくれなかったらどうしよう? ということ。

 しかし、その不安は全くの杞憂だった。娘はそれがごく当然であるかのように、僕に懐いてくれている。

 一方で、一緒に暮らす僕や彼女と違い、月に数日しか育児に関われないゴンちゃんの顔を見ると泣いて逃げてしまう。

 僕と彼女はゴンちゃんにももっと育児に関わってほしいと思ったが、彼は彼で迷いを抱えていた。それは僕と彼女の暮らしに踏み込むことへの遠慮と、「どんな関わり方をすれば父親と言えるのかがわからない」という娘に対する自身のあり方。

 ゴンちゃんは紛れもない娘の親だし、3人がいるから娘の存在がある。親子のあり方とは何だろう? そして僕たちは、何をもって家族といえるのだろうか?
パパやママという役割に縛られない育児を

 この夏、NHKのドキュメンタリー番組『カラフルファミリー』で娘の誕生から現在に至るまでの日常を取り上げてもらった。その過程で本当に少しだけど、僕たちらしい家族のカタチが見えてきたような気がしている。

 番組を通じて感じたのは、それぞれが育った家族像に縛られていたのかもしれないということ。「うちの父はこう、母はこうだった」という思い出と無意識のうちに比べてしまう。たぶん、それが良くなかったのだ。

 パパママという役割や性別にとらわれず、それぞれの子育てをすればいい。そんな空気ができてから、前よりも子育てがうまくいくようになったし、互いの距離もまた少し近づいた。

 もちろん娘との距離も例にもれず、僕や彼女に対するやんちゃぶりは日ごとに勢いを増す一方だ。ゴンちゃんとは以前より回数を増やし、定期的に会うようになったことで娘も安心したらしく、今では彼と公園に遊びに行く日をとても楽しみにしている。

 いいことも悪いことも逃げずに向き合って、共に乗り越えてきたからこそ、僕らの関係は簡単には崩れないという自信がある。

 いつかLGBTQの親を持つ娘が自分のアイデンティティに迷う日が来るかもしれない。その時のためにも僕は、LGBTQを含むすべての子供たちが辛い思いをしない世の中づくりのために力を尽くしていきたいと思う。

 そして彼女が愛されながら生まれ、大切な存在であることを常に実感できるような家族であり続けたい。

text:Lemon Mizushima

杉山文野 Fumino Sugiyama
1981年東京都生まれ。早稲田大学大学院にてジェンダー論を学び、その研究内容とトランスジェンダーである自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』(講談社)を出版。東京レインボープライド共同代表理事。フェンシング元女子日本代表。

杉山 文野/週刊文春WOMAN 2020 秋号

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