離婚率と結婚満足度どちらも高いフィンランドの「パートナーシップ」とは

https://news.yahoo.co.jp/articles/6796a85fb9dd14ae7203731a06033dce9d0ba058?page=1

2/28(日) 11:02配信

現代ビジネス

写真:現代ビジネス

 約13年間のOL生活に終止符を打ち、2014年にライターに転身。2020年のデンマーク留学を期に、活動拠点を北欧に移した小林香織さんの連載。小林さんが暮らすフィンランドでは、既婚者の80%が幸せを実感しているデータがあるという。そこで、離婚を経て2度目の結婚をした現地人女性にインタビューを試み「満足度の高いパートナーシップ」の築き方を探るべく、話を伺った。

既婚者80%が「幸せ」と回答。フィンランドの夫婦関係のヒミツ

 リクルートブライダル総研の「夫婦関係調査2019(※1)」によれば、日本人の20代~60代の既婚者のうち、68.4%が「夫婦関係に非常に満足、または、やや満足している」と答えた。一方、フィンランドで数十年にわたりセクシャリティや人間関係の研究を行う社会学者のOsmo Kontula氏は(※2)、「フィンランド人の既婚者は、5人に4人が幸せか、やや幸せと答えている」と話す。これは既婚者の80%に当たる。

 両国間の結婚の制度や価値観にはいくつかの違いが見られるが、何がパートナーシップの満足度を高めているのか。同国で1度の離婚を得て幸せな結婚生活を手に入れたフィンランド人、Varpuさんにフィンランド人の結婚の価値観、幸せなパートナーシップの築き方を聞いた。

 ※1 https://souken.zexy.net/research_news/couple.html

 ※2 https://yle.fi/uutiset/osasto/news/90_of_married_people_in_finland_happy_in_their_relationship/9459557
片方の意思で離婚できるフィンランド

フィンランド北部・ラップランドで撮影したVarpuさんのウェディングフォト。結婚式はフィンランド人にとっても特別なイベントだ Photo by Miika Hämäläinen

 前提の共有として、フィンランドの結婚・離婚のシステムと離婚率の状況について触れておきたい。フィンランドでは、以下3つの婚姻制度が存在する。

 1、異性間の結婚制度(法律婚)
2、同性間のパートナーシップ制度
3、異性、または同性間の共同生活(事実婚)制度

 1の法律婚と2のパートナシップ制度では、姓の選択や養子の受け入れ、財産分与などの法律が関わってくる。3の事実婚は届けを提出せず同棲を始めるケースも多く、20代のカップルは約7割が事実婚を選ぶと言われている。

 離婚についても大きくシステムが異なり、どちらか一方の意思のみで離婚が成立する。夫婦の片方が離婚申請をした後、6ヵ月の再考期間が与えられ、その後、再び離婚申請をすると離婚が成立する。ただし、離婚申請以前に2年間以上の別居期間があれば、再考期間を待たずに離婚ができる。

 総務局統計局が発表する1000人あたりの離婚率(※3)は、日本の1.7人に対してフィンランドは2.5人(いずれも2018年時点)。日本では1年間の離婚件数を婚姻件数で割った数字を参照して、3組に1組が離婚するとも言われる。フィンランドの統計局の発表(※4)では、1989年に入籍した夫婦のこれまでの離婚率は42.1%、1990年~1993年に入籍した夫婦も40%を超えており、日本に比べ離婚率が高い。

 デンマークやスウェーデンなどの近隣国も同様に離婚率が高いことから、女性が経済的に自立しやすい高福祉の社会システムが離婚率の高さに影響しているかもしれない。

 生涯未婚率に関しては、総務省統計局「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」によると(※5)、日本もフィンランドも同様に上昇が続いている状態だ。

 ※3 https://www.fi.emb-japan.go.jp/files/100093583.pdf

 ※4 https://www.stat.fi/til/ssaaty/2019/02/ssaaty_2019_02_2020-11-12_tie_001_en.html#:~:text=Correspondingly%2C%201.7%20per%20cent%20of,relatively%20big%2C%2029%20per%20cent

 ※5 https://www8.cao.go.jp/kourei/kihon-kentoukai/k_1/pdf/s5-2.pdf

離婚後に出会った今の夫が最高のソウルメイト

フィンランドで生まれ育ち、2018年からブロガーやフィンランド語のコーチとして活動する34歳のVarpuさん 写真/Varpuさん提供

 彼女は2度の結婚を経験している。1度目は27歳のとき。6年間の交際を経てフィンランド人男性と結婚、一緒に暮らし始めた。

 「フィンランドでは法律婚をせずに子どもを持つ人も一定数いて、それは個人の意思に委ねられています。子どもを授かる前に結婚する人のほうが多いですが、子どもを持ちたいから、適齢期だから結婚するというより、純粋に愛し合っているから結婚する人が多いような気がします。私も彼を愛していたから結婚しました」

 しかし、時が経つにつれ2人の関係性は悪化。「このままではお互いに幸せになれない」と判断し、離婚にいたったという。2人の間に子どもはいなかった。ほどなくしてVarpuさんは現在の夫と出会い、再婚を決めた。

 「現在の夫と知り合って、彼がソウルメイトだと気づきました。元夫への愛情もありましたが、彼への愛情はその何倍も大きなものだったんです。お互いに強く愛し合っていたので、私たちの関係性を正式なものにするため、2人の絆を尊重するために法律婚を選びました」

 2020年の秋に結婚したばかりの2人には、すでに3歳になる娘がいる。しばらくは事実婚の状態で子どもを育てていたわけだが、これについて同国でネガティブなイメージはないという。現在35歳のフィンランドのサンナ・マリン首相も、娘が2歳のときに結婚している。
性の話題も否定的な感情もオープンに話す

「夫は毎日私を幸せにしてくれる。彼以上のパートナーはいないと思っています」とVarpuさん 写真/Varpuさん提供

 夫は誰よりも気が合うパートナー。しかし、Varpuさんは「いくらフィーリングが合う2人でも、良い人間関係は自然には築けない。育ててこそ手に入れられるもの」と主張する。

 彼女が恋愛関係を育てるうえで大事にしているのは、ニューヨーク・タイムズのベストセラー『The 5 Love Languages(5つの愛の言語)』に書かれているコンセプト。愛情は、言葉、行動、プレゼント、共有する時間、触れ合いの5つで表現できる。ただし、愛情表現には個人差があるため、「お互いが好む愛情表現」を知ることが2人の関係性をサポートすると考えられている。

 「私たちも互いの愛情表現に違いがあり、夫は触れ合うことで深い愛情を示しますが、私は一緒に時間を過ごしコミュニケーションをとることがいちばんの愛情の証。2人の間に違いがあっても、お互いの愛情表現を理解しているから相手の愛情を感じ取れるし、喜びを与え合うこともできます」

 とはいえ、お互いに疲れていると相手を思いやれない日もある。2人も会話がよからぬ方向へヒートアップすることはあるという。

 「キッカケはささいなことばかりですが、お互いに頑固なので折れることがありません。そんなときは『私たちはどちらも部分的には正しい』と認めて、会話を終わらせると決めています。自分の正義を押し通すより、どちらも正しいという結論にしたほうが幸せになれると思っています」

 2人はまた、性の話題やネガティブな感情もオープンに話すよう心がけているそうだ。

 「例えばセックスについて不満があれば、彼に率直に話します。恋愛関係において性の話題は重要であり、お互いが望むこと、されたくないことはきちんと共有するべきだと考えます。私は彼とだけセックスをすると約束しているし、性はとても特別なことだから。おそらく多くのフィンランド人カップルも、性についてオープンに対話すると思います」

離婚率と結婚満足度どちらも高いフィンランドの「パートナーシップ」とは

2/28(日) 11:02配信
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1週間ごとに子育て、ブレンドファミリーの生活

2人の子どもたちは、Varpuさんと夫の間に生まれた3歳の娘と仲良く遊んでいるという 写真/Varpuさん提供

 Varpuさんの夫も離婚を経験しており、元妻との間に2人の子どもがいる。フィンランドでは離婚後も父母2人で子どもを育てる共同親権が多く、子どもたちは父と母の家を行き来しながら暮らすという。彼女の夫もまた同様だ。

 「このような家族をブレンドファミリーと呼び、フィンランドではよくある家族のスタイルです。私自身も14歳のとき両親が離婚したため、父と母の家を行き来しながら暮らしました」

 Varpuさんが夫と娘と暮らす家には、1週間ごとに夫の子どもたちがやってきて、その週は家族5人暮らしとなる。彼女にとって、ブレンドファミリーの子どもたちはどのような存在なのだろうか。

 「夫の子どもたちは私にとっても、とても大切な存在で、私たちは仲良く暮らしています。親同士の仲も良好で、彼の元パートナーとスキー板を貸し借りしたり、子どもの学校の先生に一緒にプレゼントを買ったりしています。彼女にはボーイフレンドがいて、それぞれ新しいパートナーと人生を歩んでいます」

 
ブレンドファミリーとして共同生活を始める前、Varpuさんと夫は2人の子どもたちに「今後、どのような生活を送り、どのように両親と時間を過ごしたいか」を、本人に尋ねたという。現在のライフスタイルは子どもたち自身の選択なのだ。

 「私自身は、両親に新しいパートナーがいたとしても両親からの愛情を感じることができたし、14歳という多感な時期に両親が私専用の部屋を用意してくれたことにも満足していました。フィンランド人は常に誰かといるよりも、自分の時間やスペースを大事にする人が多いことも影響しているかもしれません」
抵抗感は強いが、1度の浮気で離婚はしない

「たとえ彼が浮気をしても、他の女性が彼のソウルメイトになれるとは思えません」とVarpuさん Photo by Miika Hämäläinen

 上述した社会学者のOsmo Kontula氏の2009年の論文「BETWEEN SEXUAL DESIRE AND REALITY(※6)」で、フィンランド人の結婚関係にまつわる興味深い事実がある。その他のヨーロッパ諸国と比べて、浮気(配偶者以外と性的な関係を持つこと)への抵抗感が著しく強いという。

 30歳~34歳の「配偶者以外に性的な関係を持つことを受け入れる人の割合」の研究では、イタリア50%、スペイン約38%、ノルウェー20%に対して、フィンランドは約3%。調査結果が出ている20歳~49歳の全年代で、他国よりも受け入れる割合が大幅に少なかった。

 これに関して、Varpuさんは同意を示した。

 「ほとんどの夫婦は、ロマンチックなやり取りや性的な関係は夫婦間のみの特権だと考えていると思います。一部、ポリアモリーのようにパートナー以外との性的な関係を認めている夫婦もいるでしょうし、すべての浮気が悪とは思いません。お互いが納得していることが大事です」

 では、もし夫が自分以外の女性と性的な関係をもったとしたら……。彼女は、「関係を修復しようと努める」と語った。

 「私たちの関係性は良好なので想像しがたいのですが、もし彼が浮気をしても、それで信頼がすべて失われるわけではないし、私たちの愛はセックスよりもっと大きなものだと信じています。その浮気は愛ではなく、ただのセックスだと考える。ただ個人差が大きな問題なので、一度の浮気でも関係性は戻らないと拒絶する女性もいるでしょう」

 フィンランドでは既婚者の80%がパートナーに満足しているという結果もある。この調査についても、彼女は理解する姿勢を示した。

 「ここでは自由な選択が基本で、いつ結婚してもいいし、いつ離れてもいい。結婚生活を送るのは愛し合っているから、感謝しているからであり、そうしなければならないからではない。これが幸せにつながる大きな要因だと思います。一人ひとりが選択する権利を持つことで、できるだけ有意義な人生、愛と喜びに満ちた人生にする権利を推進しているのでしょう」

 世間体や年齢に左右されづらく、純粋に相手と末永く一緒にいたいと思ったタイミングで結婚し、いざとなれば片方の意思で離婚が成立するフィンランド。日本で結婚を考えるとき、相手を好きだという感情がベースにあるのは前提として、妊娠・出産のタイミングを考慮して、あるいは経済的なメリットのためといった、純粋な愛情以外の理由を検討材料に含めるカップルは少なくないだろう。

 とはいえ、個人差の大きなトピックであり、日本の結婚システムを変えるべきかについては別視点の議論も求められるはずだ。ただ、あくまで個人の感想だが、深く愛し合っているから結婚したと言いきれたら、たとえ将来離婚したとしても満足度が高いパートナシップが築けるのかもしれないと感じた。

 ※6

 https://www.vaestoliitto.fi/uploads/2020/12/3fd15898-between-sexual-desire-and-reality.pdf

 編集/大森奈奈

小林 香織(ライター)

4年前