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2/23(火) 20:20配信
VOGUE JAPAN
昨年末に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画から「選択的夫婦別姓」の文言が削除されたというニュースに、心から落胆した人は少なくないはずだ。連載第20弾は、選択的夫婦別姓が導入されるまでは事実婚でいいと考える30代の女性が、親からかけられた衝撃の一言について。
Illustration: Sheina Szlamka
パートナーと将来について話し合う中で、「選択的夫婦別姓が制度化されたら、籍を入れたい」と事実婚を提案したのは私だ。自分の姓にとりたてて愛着もないし、戸籍上の姓が変わったからといって特に不利益が生じるような仕事でもない。事実婚にした理由は、単純に改姓手続きが面倒な上、時間もお金もかかるからだ。
彼は「手続きは自分がするし、姓を変えるのに抵抗もないから、私があなたの籍に入ってもいい」と言ってくれたが、私はどちらか一方にだけ負担があることに抵抗がある。同棲を始めた頃から家事もできる限り半々で分担し、不公平にならないように気をつけてきた。ただでさえ二人とも仕事で忙しいのに、彼が改姓手続きなどに時間をとられるくらいなら、その分一緒にゆっくり過ごしたいと思う。
事実婚も婚姻に準ずる関係だ!
こうした話し合いの上で、結婚記念日は去年の1月某日に決めた。母にパートナーと事実婚したことを報告したところ、「あっそうなんだ」とあっさりした反応だった。だが、その半年後に実家を訪ねたとき、入籍している弟夫婦と私たちを比較した母に、衝撃的な言葉を投げかけられた。
「事実婚のあなたたちは格下だね」
私はただただ唖然とした。法律に認められ、同じ姓となった夫婦の方が結束が強いと思ったのか、はたまた子どもが生まれたときに生じるかもしれない不都合を心配しての言葉なのか。当惑し、言葉を失った私は母に真意を聞くことができなかった。近々パートナーと共に改めて実家に挨拶に行こうと考えていたが、母が彼に何か失礼なことを言いはしないかと心配になってきたので、当面は会わせないと決心した。
母は以前から、私のパートナーの所得に対して不満をもらしてもいた。「なぜもっと稼げる男を選ばないのか」「そんな相手だから共働きをしなければならないのだ」──母は結婚後、経済的に苦労をしたので、親心から娘である私の結婚相手につい「稼ぐ力」を求めてしまうのかもしれない。心配する気持ちはありがたいが、私は、自分とパートナーがそれぞれ仕事を持ちながらともに暮らす今の生活が心地よく、充足を感じている。母には母の結婚のあるべき姿があるのだろうが、私とは価値観がまったく違っている。
法制化されなければ、転出も視野に。
Photo: 123RF
一方で、いま現在は事実婚でいることに何らデメリットを感じていないものの、もしこのままずっと選択的夫婦別姓が法制化されなければ……と想像すると、不安もある。たとえば、法的に家族と認められていない現状では、どちらかが突然の事故などで手術や入院の必要が出た時に、代理で同意書にサインできなかったり面会できない病院もあるという。また、将来子どもが生まれても共同親権を持てなかったり、税制上配偶者控除などが受けられない。もし何か必要が生じても、会社の福利厚生などの制度が利用できない可能性もある。法制化の見通しが立たない中、私たちは、パートナーシップ制度のある地域に転出することも検討しはじめている。
その後も母が放ったひと言について話し合うことはなかったが、選択的夫婦別姓の文言が第5次男女共同参画基本計画から削除された背景を考えると、日本社会には、母と同じように籍を入れない結婚自体があり得ないと考える人が少なくないのだろう。伝統的な結婚観は、事実婚を不完全な関係とみなすアンコンシャスバイアスを生む。それを取り除くのには、まだまだ時間がかかるだろう。私が両親にパートナーを紹介するのも、もう少し先のことになりそうだ。
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