婚姻中も事実上単独親権なんだから、そんなの無理でしょ、とか言われたりして。
https://news.yahoo.co.jp/articles/00ead032050091df7dedf6d85019b0f2f2c318d6?page=1
2/22(月) 11:32配信
AERA dot.
離婚した後も父母の双方が子の親権を持つ「共同親権」制度は、日本でも認められるのか。
2月10日、上川陽子法相は親が離婚した子の養育等に関する法制度の見直しを法制審議会に諮問した。議論の焦点の一つが、この共同親権導入の是非だ。父母のどちらかしか親権を持てない現行の「単独親権」制度は、離れて暮らす親(別居親)と子の交流を妨げ、親子の断絶を生むとして、これまで別居親が中心となり導入を求めてきた。しかし今、子どもと同居するシングルマザーからも、共同親権や、父母が子育てに関わり続ける「共同養育」を望む声が出てきている。共同養育や共同親権が子どもや別居親にとってばかりでなく、シングルマザーにとってもプラスが多いとする、その声とは。
「とにかく元夫に娘を会わせたくない、という気持ちが強かった」
面会交流や共同養育をサポートするNPO法人を運営する築城由佳さん(大阪府在住、40代)は、離婚調停を行っていた7年前のことを振り返る。
弁護士に促され、支援を受けながら月1回元夫と当時1歳の娘との面会交流を行っていた。しかし「連れ去られたり悪口を吹き込まれたりしたらどうしよう」と思い悩み、「面会交流に行くまでの間、吐き気やめまいがひどかった」と話す。元夫を父親として認めたくない気持ちも強く、「娘に彼の血が流れているというのも嫌で、その事実を消そうとさえしていました」。
母の思いを察してか、2歳になった娘は元夫と会う際「楽しくない、行きたくない」と泣き、その姿に「行きたくないのに行かされてかわいそう」と胸を痛めた。そんな状態が3年続いた後、大きな転機が訪れた。法人所属の社会保険労務士として仕事と育児に追われるなか、シングルマザーに密着するテレビの取材を受ける。その放送で見た、疲弊した自分の姿にショックを受けたのだ。
「すごくしんどそうで、笑顔がない。これは本来の自分ではないと。会社に『すみません』と言いながら仕事を残して定時で帰って、なんでこんなに謝っているんだろうって……」
やがてシングルマザーを支援する社会保険労務士として独立する、という夢を持つようになり、そのことが築城さんを大きく変えた。
夢の実現に向け自分の気持ちに向き合うなか、元夫への憎しみが心の大きな重しになっていることに気付く。「憎しみを手放すために、まず面会交流に肯定的になってみよう」と決意。娘が元夫に会う際には「楽しかったね」などの言葉をかけるように心掛けた。
すると娘も父と会うことを喜ぶようになり、帰宅後も「今度いつ会えるの?」と笑顔をみせるようになった。
「自分の気持ち=子どもの気持ちだと思っていました。『子どものため』と思っていたけれど、子どもの気持ちをコントロールし、嫌だと思わせながら面会交流をさせていたのではないかと。初めから楽しい時間を過ごせるようお互い努力するべきでした」
東京で離れて暮らす元夫と娘の面会交流も今では宿泊付きとなり、元夫とは直接LINEでやりとりする。娘と元夫が会っている間、築城さんは自分のために時間を使えるようになり、仕事も順調にまわりだした。元夫への憎しみ、怒りは自然とはがれ、「自分自身非常に楽になった」という。養育費も途絶えることなく続いている。
「苦しんでいた時を知るママ友に会うと、『別人だ』と言われますし、面会交流をやめていたら今の私はなかった。面会交流は10年後、20年後の子どもの成長を父母が見守っていくことに必要なこと。だから面会交流や共同養育は大切なのだと。そのことを知っていれば、自分も最初から違っていたはず」。そう痛感する築城さんは2019年にNPO法人「ハッピーシェアリング」を設立。面会交流支援や離婚後の親としての心構えを学ぶ講座などに力を入れている。
「お母さん一人で仕事して、育児して、子どもを養わなくてはいけないという社会構造ができあがっていることも問題で、これはしんどく、貧困に陥ったり子どもがほったらかしになって非行に走ったりなどいろんなことに関わってくると思います。離婚後もお父さんも子育てに関わって、お母さんの負担を解消していくことが社会的文化として当たり前になることも望んでいます」
共同養育を円滑に進め、子どもが安心して育つためには「制度としての共同親権が欠かせない」と強く訴えるシングルマザーもいる。
「離婚届にサインをする時、親権は1人しか持てないことを知って衝撃でした」。そう語るのは東京都在住のA子さん(40代)だ。「『単独親権』って、片方の親の、子どもを養育する義務の放棄じゃないですか。そんな不安定な状態に子どもを置くことを国が強いるなんてありえない」と憤る。
離婚原因は元夫の不倫。元夫から申し立てられた調停は長引き、その間娘(当時10歳)から父を奪ってしまっていいのか悩み続けた。元夫は娘を非常にかわいがり、娘も父を大好きなことはよく分かっていた。仕事が多忙なA子さんには育児を一人で担うことへの戸惑いもあった。
そんななか、「共同養育」の存在を知る。目の前の霧が晴れた瞬間だった。「別れても2人で娘を育てられるんだ」。「羽が生えたように心が軽く」なり、調停もスムーズに。和解調書では共同養育を行うことを明記し、3年半前に離婚が成立した。だがそこで再びショックを受けたのが、親権者を1人に選ばなくてはならない離婚届だった。A子さんが親権を持つことになったものの「なぜ1人に絞らなくてはならないのか」と今も納得できていない。
現在、中学2年生になる娘と元夫は自由に会い、今も非常に仲が良い。娘が元夫宅に行っている間、A子さんは仕事をしたり、趣味に時間を費やしたりと大切な息抜きの時間になっている。
「『親権』は『子どもを養育する親の義務』のこと。単独親権のままでは法的な縛りがなく、親権を持たない親は嫌になったら逃げることができてしまう。不利益をこうむるのは子どもです」とA子さん。DV被害者保護等の観点から共同親権の導入には慎重論が根強いことについて、「DVを受けた人たちも安心できるように制度を整え、そうしたケースは単独親権も選べるようにしつつ原則共同親権にしていくことが大切だと思う」。シングルマザーとして、共同親権を求める活動にも積極的に参加している。
共同養育支援を行う一般社団法人「りむすび」のしばはし聡子代表は、「女性の相談者は以前は『元夫に子どもを会わせたくないが取り決めで会わせなくてはならないから』という方が多かった。ただ、ここ1年は共同養育を希望して相談される方が増えています」と変化を指摘する。
「『共同養育』という言葉が普及し始めて、そんな方法で離婚することができるんだと気付いた層が増えた。夫のことは嫌いだけど子どもと父親を引き離したいわけではなく、育児分担をしたい。仕事もしたいしキャリアも積みたい、という女性たちに共同養育という価値観がマッチしたという印象を受けます。安易に離婚に進みやすくなるのならそれは懸念しますが。」と話す。自身も2015年に離婚後、共同養育を実践中だ。
共同養育は、子育てに関わり続けたい別居親や、両親からの愛情を感じながら成長し続けられるなど、子どもにとってのプラス面が多く指摘されるが、シングルマザーやファーザー(同居親)にとっても利点は多いという。
「何よりワンオペ育児で疲弊することから逃れることができる。自分自身が疲弊しないことで子どもにやさしくできるし、責任分担もできる。元夫や妻の養育費を払うモチベーションも当然上がる。そして自分にもしものことがあった時に命に代えてでも子どもを守ってくれる人がいるというのは大切です」
海外では共同養育や共同親権を採用している国は多いが、日本ではなかなか認識自体が大きく広がらない。その背景には、現行の単独親権制度をバックにした「離婚すると子どもはひとりで育てるもの」という意識が根強く、行政サポートも「ひとり親支援」ばかりであることや、元夫婦間の葛藤を解消し、親同士としてかかわる関係性をつくっていく支援が非常に少ないこと等があると、しばはしさんは指摘する。
今後は「ふたり親支援」という共同養育の視点を持って対応できる体制を行政で築き、国も発信していくこと、葛藤を下げる作業から行えるような協議離婚の制度を作っていくこと等が求められているという。
「原則共同親権とすることで二人で育てる基盤が広がると思いますが、今でもできることとして共同養育を進めていくことが必要だと思います。元夫婦として、親同士として、育児というチームをまた他人として築いていくという発想にそれぞれが変わっていくことが最終的に子どものためになり、自分の時間の確保になる。一方で離婚したら子どもに会わなくていいっていうお父さんがいたとしたら、離婚をしてもきちんと子育てをしなくちゃいけないんだよ、という自覚にもつながるので、離婚をしても共同養育というのがあたり前のように行われていくといいなと思います」
子どもの成長にとって望ましい離婚後の親子、元夫婦のあり方とは何か、幅広い議論が求められている。
◆離婚した親子を取り巻く現状
日本のひとり親世帯の相対的貧困率は5割近くにのぼる(OECD、2016年)。厚生労働省の2016年度調査によると、養育費を受け取っている母子世帯は全体の4分の1以下である一方、別居する親と定期的に面会しているのは母子世帯で29.8%、父子世帯で45.5%に過ぎない。昨年法務省が公表した資料によると、欧州、アジアなど調査した24カ国のうち22カ国が共同親権を採用。日本と同様に単独親権のみの国はインドとトルコだけだったが、日本への共同親権導入に関してはDV被害者保護の観点等から慎重論も根強い。(藤岡敦子)