姓を選ぶのは“個人”の権利。夫婦別姓OKの国際夫婦3組それぞれの選択

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「デンマークでは共同親権制度が採用されているため、もしふたりが離婚しても、子どもたちはこれまでの姓を維持できる。」だそうですよ。

12/24(木) 7:02配信

現代ビジネス

写真:現代ビジネス

 2014年に13年間のOL生活からライターへとキャリアチェンジ。2020年からデンマークに移住、現在はデンマーク・フィンランドの2拠点生活を送る小林香織さんの連載。今回のテーマは結婚後の「姓」の選択肢と在り方について。フィンランド・デンマークに住む3組の国際夫婦をインタビュー。

【写真】どの選択肢を選んだ?「独自の姓の選び方」をした3組の夫婦

 日本では、結婚の際、女性が姓を変える割合が96%にも上るという。しかし、最新の調査結果(※)で、約7割の人が結婚後も本人の希望により旧姓を名乗ることができる「選択的夫婦別姓」に賛成していると判明。にもかかわらず、この12月、日本では自民党内での批判が相次いだことから「選択的夫婦別姓」の実現が遠のいてしまった。

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※早稲田大学・棚村政行教授の棚村研究室と市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」による、全国の60歳未満の成人男女7,000人を対象に実施した選択的夫婦別姓制度に関する調査
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 海外では、「ジェンダー平等」や「個人の不平等をなくす」といった観点から、すでに夫婦別姓が認められている国も多い。そこで、夫婦別姓をはじめ姓の多様な選択肢を持つ北欧フィンランド・デンマークに住む3組の国際夫婦に、「姓」の選択について価値観を聞いた。
個人の意思がとことん尊重された両国の「姓名法」

個人の価値観を大事にするデンマークやフィンランド。コペンハーゲンは姓だけでなく、結婚制度自体も柔軟で、事実婚も認められている 撮影/小林香織

 まずは、デンマーク、及びフィンランドで法律婚の際に選択できる「姓」について紹介したい。基本的に、両国ともに以下4つの選択肢から選ぶことになる。

 A、ふたりとも旧姓を維持する
B、どちらかを複合姓にする
C、ふたりとも複合姓にする
D、どちらかの姓に統一する

 複合姓の補足事項として、姓は最大2つまでとなり、3つ以上は選べない。また、祖父母や曽祖父母など、いくつか世代をさかのぼった先祖の姓を使うこともできる。これだけでも、日本とは比べ物にならないほど選択肢の幅が多いが、両国にはさらなるオプションが用意されている。

 レアケースだが、デンマークでは500クローネ(約8,500円)の申請料を支払って「改姓」することも可能で、変更後の姓は旧姓と同じように扱える。「アンデルセン」など有名な姓が人気だという。

 一方、フィンランドでは、新しく「姓をつくる」ことができる。既存の中から理想の姓を選ぶのも良し、世の中に存在していない、まったく新しい姓をつくるのも良し。この場合、複合姓を選ぶことはできず、夫婦で統一した単一の姓となる。

 両国の姓名法からは、極限まで「個人の意思を尊重する」という意思が見られる。加えて、姓を変える場合に、諸々の手続きがオンラインで完結し、国民の負担にならないよう配慮されている点も日本にはないメリットだろう。ただし、姓名法があまりに複雑すぎるゆえ、現地に長年住んでいる人でさえも、すべてを把握できていないという側面もある。

愛着ある姓を変えたくなかった

ロンドン、福岡・糸島市での暮らしを経て、コペンハーゲンに移住した松村えりこさんとご家族 写真/えりこさん提供

 夫婦別姓も同姓もOKの両国で、人々はどのように「姓」を決めているのか。3組の国際夫婦に聞いた。

 2010年にデンマーク人男性と結婚、2019年からデンマークに住む日本人女性・松村えりこさん(40代)は、夫婦ともに別姓を選択(1ページ目A参照)。夫は「君の気持ちがいちばん一番大切だから」と、えりこさんに選択を委ねたという。

 「夫の姓は父方のヴィンターと母方のモルゴーを並べた複合姓で、フルネームは『アンドレアス・ヴィンター - モルゴー』です。名前は自分のアイデンティティであり、愛着ある姓を変えたくなかったため、お互い別姓を選びました。結婚前は『結婚したら姓を変えるんだろうな』と漠然と思っていたのですが、いざ婚姻届を出すとなったら『変えたくない』と気持ちが湧いてきて。結婚当時、松村家に姓を継ぐ人がいなかったことも影響しているかもしれません」(えりこさん)

 ふたりには、6歳の娘と3歳の息子がいる。子どもの姓も選択肢が広く、単一性でも複合姓でも良い。ふたりの子どもの姓は「ヴィンター - 松村」で、夫の父方の姓とえりこさんの姓を併記した複合性を選んだ。子どもたちは、デンマークで暮らす際は「ヴィンター - 松村」と名乗り、日本で暮らす際は「松村」のみとなる。デンマークでは共同親権制度が採用されているため、もしふたりが離婚しても、子どもたちはこれまでの姓を維持できる。

 「子どもに『松村』の姓を付けたいと思ったことも、私が夫婦別姓を選んだ理由のひとつです。姓の選択は個人の自由ですから、娘たちが結婚するときに『松村』を引き継ぐかはわかりませんが、残してくれたら嬉しいという気持ちはありますね」(えりこさん)

 デンマークでは姓ではなく名前で呼び合うこともあり、夫婦別姓にしたデメリットはほとんどないそう。日本に住んでいた時期に、夫だけ姓が違うことで多少の疎外感があったことと、飛行機のチケットを取ったときに家族だとみなされず、隣同士の席が取れなかったことぐらいだという。

将来の子どもを含め、家族でおそろいの姓に

複合姓に対し、しいてデメリットを挙げるなら「姓がちょっと長いこと」だとミキさんは語る 写真/i Stock

 2017年からフィンランド在住、2018年にフィンランド人男性と結婚した日本人女性・ミキさんは、夫は旧姓を維持、ミキさんは複合姓を選択した(1ページ目B参照)。彼女もえりこさん同様、周囲の人の声ではなく自身の意思で決断した。

 「私が複合姓にした理由は、日本の姓がなくなるのは寂しい、けれど夫と共通の姓もほしかったから。将来的に子どもが生まれたときに、家族みんなでおそろいの姓を持ちたいんです。こう思うのは、日本で生まれ育ったことが影響しているかもしれませんね」(ミキさん)

 複合姓を選んだ場合、日本国内での氏名変更手続きがまったく必要ない点も、ミキさんにはメリットだったという。

 「日本の友人数名が、『姓を変える手続きがすごく面倒だから、夫婦別姓ができるようにしてほしい』と不満を漏らしていて、確かに一理あるなと思いました。一方で、そんなネガティブな理由で姓を選ぶ人がいるほど面倒な手続き自体にも問題があるだろうなと。こちらでは、手続きの面倒さを理由に旧姓を選ぶなんて聞いたことがありません」(ミキさん)

 フィンランドでも、子どもの姓は単一性でも複合姓でも構わない。ただ、両親が共通の姓を持っている場合は、子どもの姓も常に共通の姓となる。デンマーク同様に、共同親権のため、両親が離婚した際は、子どもは旧姓を維持しても、どちらかの親の姓に変更しても構わない。

 ミキさんと夫は、完全に一致する姓ではないが、特に不自由さや違和感はないと語る。むしろ、「旧姓のみの荷物も問題なく届く」「証明書類に2つの姓が記載されていて便利」などメリットばかり。ミキさんは、この選択にとても満足していて、現在の姓に愛着を持っているそうだ。
夫婦での相談なし。個々で「姓」を選択

日本に住んだ経験もあることからジュリアさんは日本語が堪能。ふたりのYouTubeでは自然体の夫婦の掛け合いも垣間見られる 写真/タプサさん提供

 2014年にジュリアさんと結婚、遠距離恋愛や夫婦での日本滞在を経て、2016年からフィンランド在住の日本人男性・タプサさんは、妻は複合姓を選び、自身は旧姓を維持している(1ページ目B参照)。

 「僕は姓にこだわりがなくて、正直どんな選択でもOKでした。妻からの要望もなかったし『旧姓のままで良いか』という判断に。妻は『日本のカルチャーが好きで、日本の名前を入れたい』という気持ちから僕の姓を含めた複合性を選びました。といっても話し合いもせず、各々で決めて事後報告でした」(タプサさん)

 えりこさんやミキさんに比べると、非常にアッサリしていた印象のタプサさん。将来的に子どもを持つことも視野に入れているが、名前について妻と話すことはあっても姓をどうするかは考えたことがないそうだ。

 この姓の選択へのメリットを尋ねると、「妻が日本の姓を持っていることで、周囲の人に覚えてもらいやすい」「日本好きの現地人に話しかけてもらえる」と、姓がコミュニケーションツールとして機能している点を挙げた。デメリットは感じていない。

 「国際結婚するとなったとき、母から『姓が違うと同じお墓に入れないよ』と軽く言われたましたが、それが旧姓を残した理由ではないですね。親は死後のことを結構大事に考えているんだな、と思ったぐらいです」(タプサさん)

先進国に引き離される日本の「姓名法」

「フィンランドは、とにかく線引がなくて自由なんです」と語ってくれたタプサさん。現地で暮らす筆者も「個性」を受容されている感覚があった 写真/タプサさん提供

 先日、国内では「選択的夫婦別姓」の実現が遠のいたと報道された。このニュースに肩を落とした人も多いのではないだろうか。

 選択的夫婦別姓については、自民党内で賛成派と反対派にわかれ、激しい議論が続けられてきた。ところが「家族の絆が損なわれる」などの批判が相次いだことから、12月15日に了承された第5次男女共同参画基本計画案の改定案では、原案の「選択的夫婦別姓への対応を進める」から「更なる検討を進める」に変更。5年前よりも後退する内容になってしまったのだ。

 夫婦別姓が認められない日本の姓名法について、3名にも考えを聞いてみた。

 「個人の選択肢が広いデンマークに住んでみて、日本でも選択の自由が広がれば良いな思いました。日本の女性は、結婚後も職場で旧姓を使い続けることが多いですし、結婚しても両親や兄弟とのつながりとして、共通の姓を持ち続けたいと思う人もいるかもしれません。そんな個々の思いを汲むような制度に変わることを願います」(えりこさん)

 「本当に堅苦しい制度だし、現状のままでは女性がかわいそうだなぁと思います。選択的夫婦別姓って言い方にもトゲがある感じがしませんか? すごく線引されている感じがするので、『自由選択姓』などのほうが良いのでは。家族の絆は姓ではなく、家族で一緒に過ごす時間によって育まれるのではないでしょうか」(タプサさん)

 「日本は今、時代と共に生き方や価値観が変化し、多様性を育て尊重するタイミングなのではと思います。それほどニーズがあるなら、今まで当たり前とされてきたことを見直し、一つ新たな選択肢が増えることは悪いことではないんじゃないかなって」(ミキさん)

 筆者自身、1年にわたりデンマークとフィンランドで過ごし、現地での取材を続けるなかで、日本には「しなければならない」という制約が多すぎること、それらによって生きづらさを感じている人が少なくないであろうことを実感した。個の自由が確立された先進国に、どんどん引き離される日本の将来が不安でならない。

 3名の選択からもわかるとおり、姓の選択には人それぞれの価値観の違いが現れる。一生ついてまわる姓だからこそ、選択の自由はあって然るべきではないだろうか。

 編集/大森奈奈

小林 香織(ライター)

5か月前