「えんとつ町のプペル」疑った私が裏切られた訳

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あのブームに覚える違和感と映画の完成度

『えんとつ町のプペル』に感じてきた違和感と、映画の実際とは?(画像:映画公式サイトより)
コロナ自粛の影響で、近年になく映像作品に親しむ人が増えています。より日常が豊かになるような、映像作品の楽しみ方とは? コラムニストの佐藤友美(さとゆみ)さんが、ドラマと日常の間に、華麗に接線を引いていきます。
今回は12月25日に公開になったばかりの映画『えんとつ町のプペル』についてお届けします。

「鬼滅」よりも感動した?

12月25日に公開になった映画『えんとつ町のプペル』を観に行きました。舞台挨拶ライブビューイングつきの回です。

正直に告白すると、ワタクシ、かなり斜に構えた状態で客席にいました。というのも、私、この映画の総指揮・脚本・原作者である西野亮廣さんが、ちょーっとばかり、苦手だったんですよね。

あ、いえ、西野さんご本人が苦手というよりは、西野さんによってくり出される、マーケティング戦略の数々にややお腹いっぱいになっておりまして。なんというか、

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「初日に観に行くなんて、西野さんの手のひらの上で転がされた感あるよなあ」

という、謎の敗北感すら味わっていたのでした。まあ、手前勝手な感情です。

なので、「ちょっとやそっとのことじゃ、感動してやらないぞ」という、すごく感じの悪い観客として、映画館の椅子にどかっと座って観ていたのですが、もう、10分もしないうちに背筋が伸びまして。20分後には、完全に前のめって画面にかぶりついておりましたし、最後はもう涙なんかもにじんでおりましたよね。

エンドロールのあとには、映画では珍しく、観客から大きな拍手が起こっていました。ええ、もちろん、私もめいっぱい拍手しましたとも。

はい。もう、懺悔の気持ちも含めて、声を大にして言いたいです。大変よかった、です。

一緒に観に行った小学生の息子にいたっては、私の100倍ピュアなものですから

「ママ! 鬼滅よりも、ずっと感動したよ!」

と、目をキラキラさせておりました。

ついでに言うと、一緒に観に行った72歳の母もおおいに感銘を受けており、家に帰ってから、孫と一緒に絵本を読み直したりしていました。

もうこのあたり、まんまと映画のキャッチコピー(「大人も泣ける大ヒット絵本の映画化」)どおりの反応をしている家族でありまして、完全に西野さんの手のひらの上で踊っているわけですが。

写真左より原作絵本(英語併記版)、映画のパンフレット(写真:筆者提供)

もう、そういう悔しさを通り越して、とてもあたたかく優しい、よき映画だったと認めざるをえないのです(どこから目線)。

昨今のディズニー映画などでは最大の配慮をされているジェンダー表現からすると、少し気になる人もいるかなあと感じるのですが、役者さんも音楽も、そして何より絵が素晴らしく。

この年末年始の映画は『鬼滅の刃』『ポケットモンスター・ココ』『新解釈・三國志』の三つ巴と言われていましたが、公開直後の動員数は、そこに割って入る勢いだとか。

年末年始の家族映画に、そしてデート映画に、推します。絶対に、大画面で観たほうがいいタイプの映画です。

なぜ「プペル」に対して斜に構えてしまったか

さて、先ほど、私はこの映画のマーケティング戦略に乗せられている感が、ちょっと悔しくて、と書きました。

そう。ご存じの方も多いと思いますが、この映画ができるまでには、というか、この映画の原作にあたる絵本の制作の過程から、新しい制作方法やマーケティング手法が次々と打ち出されてきました。

たとえば絵本の制作時には、当時まだ先駆けだった、クラウドファンディングを利用して資金を集め、その資金を元手に総勢33名のクリエイターでの分業制を実現。細部まで緻密に描かれた絵を完成させました。

また、発売中の絵本をウェブで全ページ公開するマーケティングも話題になりました。この手法は今でこそ一般的になりましたが、当時は「無料で公開したものを、わざわざ買うはずはない」という意見が主流だったのです。

結果的に、絵本は12月現在で、57万部を超える大ヒット。これらの斬新な手法によって、コンテンツマーケティングにおいて、「西野以前、西野以降」という言葉を使う人がいるくらいです。

ただ、そのビジネスの裏側を西野さんが惜しみなくオープンにすることが、私たちに複雑な感情を呼び起こしました。

たとえば原画展に行って絵本を買ってしまうと、

「ああ、これが西野さんの言う『お土産消費』戦略ね……」

と思ってしまうし、クラウドファンディングの紹介文で心を動かされてしまうと、

「ああ、信頼をお金に変えるというのは、こういうことね……」

などと、余計なことを思ってしまうわけなのです。

いちビジネスパーソンとして、自分のコンテンツをどう売るかと考えたときには、「西野戦略」は、とても勉強になる。

しかしその一方で、いち生活者としては、「西野戦略」のいいカモになっている気がしてしまう。

そんな複雑な感情がうずまいてしまうので、

「プペル、面白そうーーー!」

と、観る前に無邪気に思えなかったのではないかと、自己分析する次第です。

こんなさもしいことを思っているのは私だけか、と思いきや、同様の理由で「今回の映画は見るつもりない」という人が何人もいたんですよね。ですから、意外とそういう人たちも、いるのかもしれないと感じます。

「プペル」を支えているコミュニティの存在

私が、映画「プペル」に対して斜に構えていた理由を深掘りしていくと、もうひとつ「チーム西野」とでもいうべきファンコミュニティに対する、複雑な心理があったような気がします。

今回の映画制作にあたって、資金面でも、宣伝に関しても、文字通り大応援団となったのが、西野さんが運営するオンラインサロン(西野亮廣エンタメ研究所)のメンバーたちでした。

月額980円~から参加できる西野さんのオンラインサロン、その会員数は現在7万人以上。日本のオンラインサロンの中で、ダントツに多い人数です。

映画公開に先駆けた西野さんのインタビューに、「興行収入が100億超えても赤字」というコメントがありましたが、この映画の資金の大部分に、オンラインサロンの収益があてられていると聞きます。

オンラインサロンのメンバーには、映画制作の裏側や、マーケティング戦略が同時進行で発信されていたそうです。

映画公開前から、すでにプペルの大ファンになっている人、関係者と同様の気持ちになっている人たちが、大勢いるわけです。

このファンコミュニティが、映画の宣伝と初動を支えています。

たとえば、映画に先駆けて公開された六本木ヒルズでの円形広告は、西野さんのマネージャーである田村Pこと、田村有樹子さんが、「西野さんにクリスマスプレゼントを」と、借金をして買いきったというのも、一部で話題になりました(その後、クラウドファンディングで資金回収)。

西野さんの映画を上映するために、映画館の上映枠を自腹で買ったというファンの話も聞きます。

このファンコミュニティの存在と、そこから漏れ聞こえてくる“熱い”エピソードが、そこまで熱くなれない人たちの心をざわつかせていたのではないかと思うのです。

西野さんを取り巻くコミュニティは、昨今話題の「ファンベース」的な考え方の究極の形だと思うのですが、そのファンコミュニティの熱量が高ければ高いほど、その輪の外にいる人間は身構えてしまうのかもしれません。

もちろん、ジャニーズや宝塚、坂道シリーズなど、強烈なファンビジネスは存在します。それらも、ファンによる献身的な投資や応援で支えられてきたでしょう。

しかし、そういったファンクラブとの違いは、「ファンの行動」や「絆の強さ」、そして「お金の流れ」が、それ以外の人たちに「見える化されてきたかどうか」の差だと思います。

コミュニティの絆が強ければ強いほど(強そうに見えれば見えるほど)、自分は“呼ばれて”いない感じがする。そんな心理が働くのかもしれません。

映画は、西野さんご本人も「これは、今までのチャレンジとは規模が違う」と言うほどの、ビッグビジネスです。

先ほど「興行収入100億円だとしても赤字」という西野さんの発言を紹介しましたが、2019年に興行収入が100億円を超えた映画は、『天気の子』『アナと雪の女王2』など4本だけ、2020年は現在のところ『鬼滅の刃』のみです。

そうしたビッグビジネスにおいて、ファンコミュニティは、どの程度の存在感を発揮するのか。これは、映画の内容とは別に、とても興味を引かれるところです。そして「プペル」が興行的に成功をおさめるかどうかは、今後の日本映画の作り方や売り方にも大きな影響を与えると感じます。

先入観があった人も、まずは劇場へ

映画の中では、既存の権力に対抗するプペルやルビッチの挑戦が描かれています。

最初は笑われ、次に恐れられて迫害される。そうした主人公たちの姿は、私には、お笑い界を飛び出し次々と新しいチャレンジをする西野さんに重なって見えました。

折しも、日本で一番早い上映会に現れた西野さんは、

「挑戦する人を笑う、夢を語れば叩かれる、この世界を終わらせにきた」

と発言し、会場の喝采をあびました。

この西野さんの発言を

「既存のシステムを一緒にぶっ壊していこう、と言ってもらった」

ととるか、

「既存のシステムに乗るつまらない人間は消えろ、と言われた」
と、とるか。

ちなみに、私は比較的、後者の気分で映画を観始めました。

けれども、冒頭申し上げたとおり、そんな先入観があったにもかかわらず、「食わず嫌いしなくてよかった」と、心から思った映画でありました。

私と同じような理由で、なんとなく『えんとつ町のプペル』を敬遠していた人へ。「ひとまず観てみませんか? なかなかよかったんですよー」とお伝えしたくて、書いた次第です。

現場からは、以上です。

4年前