FNNプライムオンライン
2020/11/20 15:43
「妻が不倫をしたんです!妻とはもう離婚します。未練は一切ありません。ただ、不倫をしたような妻に子供たちを任せることはできません。私には愛する5歳と3歳の娘たちがいます。どうすれば親権をとることができますか?」
妻に不倫をされた夫・弘樹さん(35歳、仮名)からの相談です。最近は、子育てに積極的に関与する「イクメン」と呼ばれる男性も珍しくなくなっています。
実際に、離婚の際に親権を取得して、主体的に子育てをしたいといった男性からの相談も増えています。裁判で男性が親権を取得したケースもちらほらあり、関係者に事情を聞くと、「ああ、あれはご主人が相当のイクメンで…」などといった話も聞こえてきます。では、現実問題として、親権獲得は昔のように母親有利ではなくなっているのでしょうか?
原則はやっぱり母親有利
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未成年者の子供がいる場合には、「子供の親権者」をどちらにするか決めないと離婚をすることはできません。親権者をどちらにするかは、離婚の話し合いにおける重要なポイントで、いわば“もめるポイント”でもあります。
離婚自体は合意しているが、親権については一歩も譲らない。「最高裁まで争ってやる!」と息巻く男性も少なくありません。しかも、弘樹さんのケースでは妻が不倫をしていることで、妻には絶対に親権を渡したくない、と思われるのも当然でしょう。
ですが、裁判所が親権を決める際の判断基準は、「子供を主に育てていたかどうか」が最も重視されます。妻が不倫にかまけて育児放棄をしていた等の事実があれば別ですが、育児はきちんとしていたということであれば、不倫の事実は親権にはほとんど影響しません。
実際に私が担当していた案件では、不倫していた妻でもほぼ100%親権を取得しています。15歳以上であれば子供の意思が尊重されるため、子供が不倫をしていた母親よりも父親と一緒に暮らしたいと明言すれば、まだ親権取得の可能性が出てきますが、子供が幼い場合は育児に取り組んでいた時間が重要視されるため、弘樹さんのケースではやはり母親有利とみて間違いないでしょう。
今回のケースでも、弘樹さんは、お子さんを大変可愛がっていましたし、育児にも積極的でした。しかしながら、フルタイムで勤務していたこともあり平日は朝7時には家を出て、夜は10時すぎに帰る毎日。
すでに子供は寝ていて、寝顔しか見ることができませでした。その分、休日は必ず子供と一緒に外出するなど、積極的に子育てにかかわってきたという自信はあります。お子さんの成長を見守っていきたい…、その気持ちは妻よりも強かったことは確かです。
ですが、やはり専業主婦の妻よりも圧倒的に子供に接する時間は短く、どうすることもできませんでした。親権を獲得するには専業主夫になるしかないのか…弘樹さんは理不尽さを感じざるを得ませんでした。
親権を取得するという強い気持ちを持つ
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では、父親が本気で親権を取得する場合、しておいた方がいいことはなんでしょうか?
親権について相談に来る男性に「男性の親権取得は難しいですよ。時間と費用もかかります。それでもやりますか?」というお話をすると、案外あっさりとあきらめる方が多いです。
なかには「とりあえず、妻に子供を渡すのはむかつくので、言ってみただけ」というような方もいます。ですが、本気で親権を争うと決意し、実際に親権を取り、立派に子供を育てている父親が沢山いるのも事実です。
親権を最後まで争う父親の多くは、「母親には任せられない」「母親が親権をとることは子供のためにならない」「子供のためには、たとえいばらの道でも自分が頑張らなければ!」という強い気持ちを持っています。その強い気持ちが裁判官の心に響き、親権を取得するきっかけになります。そんな父親は、親権を取った後も、深い愛情で子供を育てていけると思います。
父親が本気で親権を取得する場合は、まず、そう決意するに至った「母親の育児放棄や家事放棄、モラハラ的な言動やDV、アルコール依存症などの育児に支障があるような問題行動」を洗い出し、画像や音声、メール、LINE、メモなどの具体的かつ客観的な証拠を残しておくことが重要です。
客観的な証拠は裁判において最も重要なので、相手に悟られることなく、できるかぎり多くの証拠を収集しておきましょう。母親の優位性は、普段から子供の世話を行っているところにあるため、そこに問題があるのであれば、母親の優位性は著しく損なわれ、父親の巻き返しが可能となってくるのです。
子供との関わりを増やしていく
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次に、裁判所が重視するのは「これまでの養育・監護実績」です。これまでほとんど子供の世話をしてこなかった父親が、いくら親権を主張しても認められないのはこの点にあります。
裁判所は、「子供の福祉」という観点から、父親、母親どちらの元で養育されるのが子供の利益に適うかという点を重視します。いままでの養育監護に問題がなければ、養育実績を重視するのはある意味、当然のことでしょう。
子供を養育していたのが主に父親であった場合はともかく、フルタイムで働く一般的な会社員であれば、仮に親権を取得できた場合に、仕事と子育てを両立しなければならず、職場の理解が不可欠になります。
そういう意味では、コロナ禍で今後はテレワークが主体となる職場も増えてくると考えられるため、男性が圧倒的に不利とはいえなくなるかもしれません。また、絶対に親権を取ろうと思うのであれば、離婚を考え始めた時期から、子供との関わり方を子供中心にシフトすることが重要です。
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どんなに多忙であっても、子供と過ごす時間を確保し、まずは子供との信頼関係を強くすることが、後々、調停や裁判においても評価されます。もし現在、すでに別居をしている場合でも(妻が子供を連れて一方的に出て行ったなど)、生活費などの婚姻費用はきちんと支払い、妻や子供とのLINEやメールなどのやりとりを残しておいてください。
妻が一方的に連絡を拒絶し、子供に会わせない場合にはその事実を証拠として残しておくとよいでしょう。正当な理由なく子供に会わせないことは、妻側にとって不利な要素となります。
また、養育環境を整えることも重要です。養育を補助してくれる親族が近くにいればベストです。居住環境、健康状態、経済力などをアピールすることも視野に入れる必要があります。
優先すべきは「子供の利益」
父親が親権を取ることは並大抵のことではありません。親権取得まではけっしてあきらめないという強い気持ちが必要です。一方で、親権を取ることだけにこだわり、「子供の利益」を見失っては本末転倒です。
一番優先すべきは「子供の利益」ということを忘れてはいけません。実際に親権が取れた場合にも、母親との交流は、虐待などの正当な理由がない限り妨げるべきではないでしょう。子供にとっては、2人は父親と母親であり、離婚はしても愛してくれていると確認することがとても大切なことだからです。
後藤千絵
京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。