「離婚」は男性に圧倒的不利?
「離婚」は男にとって不利、女にとって有利というのが定説になりつつあります。離婚において、男はお金を失う側、女はもらう側ですが、失う金額を減らすより、もらう金額を増やす方が前向きなので、女の味方をする弁護士や調停委員、カウンセラーが多いのも納得です。
そして、妻に三くだり半を突きつけられるような夫は、何かしらの問題…借金、不倫、暴力などを犯したに違いないという世間の目もあり、夫が加害者、妻が被害者という構図をでっち上げられやすいというのも一つの理由です。
歌手の高橋ジョージさんは元妻でタレントの三船美佳さんとの離婚訴訟を振り返って、「毎日子どもと会えるなら離婚は即決だった」と述べています(3月3日、日刊スポーツ)。このコメントは暗に「離婚後、子どもと会えていないこと」を示唆していますが、夫婦間の娘さんは現在16歳。かわいい盛りのわが子と会うことがかなわない心中を察すると、余りあるものがあります。
しかし、別れたくないのに離婚させられ、子どもの親権を失い、せっせと養育費を送り続けても、子ども本人と会うこともままならない…そうしたケースは高橋さんに限らず、世の中には一定数存在します。今回は、離婚の悲劇として親権、養育費、面会、そして、婚姻費用(別居中の生活費)、慰謝料、住宅ローンの順で紹介します。
わが子を“人質”に取られ、お金を搾取
(1)親権 子どものことを心の底から愛し、子育てを積極的に手伝い、そして、将来的には子どもの入学式や卒業式、入社式や結婚式への参加を心待ちにしていた男性にとって厳しい現実があります。統計上は「妻が全児の親権を行う場合」79.2%、「夫が全児の親権を行う場合」16.5%(平成10年、厚生労働省・母子家庭に関する調査)なので、悪妻と離婚しても、8割以上の確率で子どもを引き離されてしまうのです。
実際のところ、夫はフルタイムで働いていることが多く、平日の昼間に子どもの面倒をみることは難しいです。子どもがまだ小さいなら、保育園や学童、そして民間の保育施設に預けるという手もありますが、まともな収入がない妻に養育費を払わせることは難しく、割高な保育料を負担するのは厳しいところです。
一方、子どもがある程度大きい場合でも、子どもは普段、妻と接している時間の方が長いので、本人の気持ちを尊重したら母親を選ぶ可能性が高いです。
そもそも、夫婦が同居しながら離婚の話を進めることは難しいので、ほとんどの場合、離婚より前に別居するのですが、「妻が子どもを連れて実家に帰る」シチュエーションが圧倒的に多いです。そして別居中、子どもを引き取っている側が離婚後も子どもを育てた方が、子どもへの負担は少ないので、そのまま妻が親権を持つことになるのです。
このように離婚時、子どもの親権を決めるにあたっては、夫側が圧倒的に不利だと言わざるを得ません。 (2)養育費 ようやく「守銭奴」妻との離婚が成立し、やっと縁が切れたので、もう金の絡みで悩まされることもない! そんなふうに安心し切っている人は気を付けてください。「離婚したら僕たちは他人同士だけれど、子どもたちにとって父親、母親なので」。芸能人の離婚会見の決まり文句を真に受けている人は特に!
例えば、14歳の子どもがいる夫婦の場合。妻が子どもの親権を持ち、夫が妻に毎月8万円の養育費を子どもが20歳に達するまで支払うという条件で離婚したとします。そして、離婚から2年後、妻が突然「今すぐ30万円払って!」と連絡してきたのですが、どうやら、子どもが「私立」の高校に合格したので月末までに入学金や授業料、施設使用料などを納めなければならないとのこと。
妻が、入学金などをどのように支払うのかお金のめどを立てずに、公立ではなく割高な私立の高校を受験させたのは言語道断ですが、今まで頑張って受験勉強を続けてきた子どもの努力を無駄にするわけにはいきません。せっかく合格したのに経済的な理由で入学できないような事態に至っては、子どものショックは計り知れません。
結局のところ、妻の無計画ぶりを甘受して30万円を渡すしかないのですが、すでに妻が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をし、現夫のことを「パパ」と呼んでいたら…。
このように、妻と離婚したとしても完全に縁が切れるわけではなく、再婚や収入の増減、入学や留学、親の介護や相続などの事情変更によって、離婚時に決めた養育費を増やせ!と言われる場面に何度も遭遇するのです。子どもがいる場合、元夫婦は一蓮托生(いちれんたくしょう)。かわいいわが子を“人質”に取られている以上、妻に言われるがまま、お金を搾取されるという絶望的な状況は離婚しても変わらないのです。
離婚後、半数以上の父親が子どもと面会せず
(3)面会
統計(平成23年度、全国母子世帯等調査結果報告、厚生労働省)によると、父と子が「現在も面会している」「面会したことがある」を合わせて45.6%なのに対し、「面会したことはない」は50.9%で、離婚から現在まで、子どもの顔を一度も見たことのない父親が半分以上というのが偽らざる現実ですが、それもそのはず。
妻が子どもを連れて勝手に出ていった場合、前もって面会の約束(頻度や時間、場所、送迎方法など)を決めることは難しく、「約束あり」は25.3%、「約束なし」は73.6%というのが現実です。残念ながら、妻が、面会させてもさせなくても養育費が変わらないのなら「面会させない」を選ぶのは当然といえば当然。
何とか、わが子の顔を見たい一心で養育費をたんまりと払っても、妻が会わせてくれる保証はなく、「ママがパパをだましたせいで先生やお友達にサヨナラも言えず、転校しなくちゃいけなくなったんだよ」と本当のことを子どもに伝えることもできず、妻は子どもの気持ちを確かめずに「パパが嫌いだと言っている」と平気な顔でうそをつくので、いったん子どもを連れ去られたら最後。夫側は圧倒的に不利な状況に追いやられるのです。
(4)婚姻費用(別居中の生活費)
「もう我慢の限界! 離婚しかないわ!!」 そんなふうに、妻がまともな話し合いもせず、捨てぜりふを吐き散らかし、荷物を置いたまま出ていってしまったので、夫が1人だけ自宅に取り残されてぼうぜん自失。さらに、追い打ちをかけるように「ちゃんと離婚するまで生活費を送ってよね!」と畳みかけてくると、夫は落ち込んでいる暇はありません。
まだ離婚が決まったわけではないのに、妻の方から同居を解消し、勝手に結婚生活を放り出して強引に別居状態へ発展したのに、「生活費が欲しいなんて何さまだ!」と思うかもしれませんが、法律上、夫婦間には扶養義務があるので、離婚して「元夫婦」に切り替わるまでは別居中の生活費(婚姻費用)を払わなければなりません。 家庭裁判所が公表している婚姻費用算定表(2019年12月改定)によると、夫の年収が600万円、妻が100万円の場合、婚姻費用の相場は月9万円、夫が900万円、妻が300万円の場合は月9万円です(いずれも、夫婦間に子どもがいない場合)。
一部の例外を除き、別居の経緯に関係なく、婚姻費用の支払い義務は生じますが、それだけではありません。 夫が妻に夫名義のカード類を預けている場合、金銭感覚のおかしい妻は夫のカードを使って散財する可能性があります。例えば、ここぞとばかりに別居先の家具や家電、家財を夫のカードで買い足したり、別居先のアパートの敷金や礼金を支払ったりすると、夫の負担は「婚姻費用+カード分」という二重払いを強いられるので首が回らなくなり、絶望的な状況に追い込まれるのです。
(5)慰謝料
妻が突然行方をくらまし、呆気(あっけ)に取られる間もなく、弁護士から「当職が離婚の案件を受任したので本人(妻)への連絡はお控えください」という手紙が届くや否や、今度は裁判所から離婚調停の呼び出し状が届く…そんな感じで、展開が急すぎて何がなんだか分からないまま、弁護士や調停委員に丸め込まれ、とんとん拍子で離婚が成立。夫に有無を言わせず、話をまとめようとするのは妻に“隠し事”があるからです。
本当は妻に交際している男がおり、男と再婚するために離婚を急いでいるのに、調停の最中は夫の欠点や落ち度、至らない点を並べ立てられ、夫がばか正直に「そうか、それなら(離婚も)仕方がないな」と信じ込めばお手のもの。
「うそも方便。見抜けない方が悪いし、バレるまでやりたい放題」と夫をばかにしているので、不倫の事実を隠して逃げ切ろうとするし、後日、再婚の事実を知ったところで過去にさかのぼって証拠を集めることは困難ですし、(元)妻に白状させたところで慰謝料の時効は「離婚から3年」(民法724条)なのですでに手遅れ。
しかも、夫婦の子どもの父親が本当に夫なのか、もしかすると種違いの子ではないのか。そんなふうに疑っても、今更、戸籍上の父親を「交換」するわけにもいかず、悶々(もんもん)とした気持ちを抱えながら養育費をせっせと振り込み続けるとしかないという、最悪の展開が待っているのです。
別居の時点で離婚は決定的に
(6)住宅ローン
カップルが同居の末に結婚、子どもを授かり、第2子、第3子と家族が増えたり、子どもたちが成長して大きくなり、自分の部屋を欲したりするタイミングでマイホームを購入し、賃貸アパートから持ち家へ移り住む…一見すると、心温まるほほ笑ましい光景ですが、「住宅ローン付きの不動産」は夫婦が離婚する上で重荷にしかなりません。
例えば、妻が育児ノイローゼに陥り、夫婦げんかが絶えず、「しばらく、あんたの顔は見たくない」と言い出したため、夫は一時的に実家へ避難したのですが…。
ほとぼりが冷めた頃に自宅へ戻ろうとすると、すでに鍵を交換されており、妻からは「もう関わらないでほしい!」と一蹴され、夫は離婚を決断せざるを得なかったのですが、8年前に3800万円で購入したマイホームは3000万円しか値がつかず、800万円も住宅ローンが残ることに…しかし、夫は800万円もの大金を持ち合わせておらず、融資してくれる金融機関も見当たりません。 そして、自宅を賃貸に出そうにも賃料は10万円しか期待できず、住宅ローンの返済額は毎月12万円なので、毎月2万円の赤字を垂れ流すことになります。
さらに、妻が家族カードを使って毎月10万円を夫の口座から引き出しており、その上で住宅ローンも引き落とされるので、手取り25万円の夫の手元に残るのはわずかに3万円。もし悪妻と離婚できたとしても、「養育費+住宅ローン」という二重の負担を強いられるようでは今と変わらないので、景気よくマイホームを購入し、一国一城のあるじになったせいで、離婚を切り出すことができないという堂々巡りに陥ってしまったのです。
ここまで、離婚の悲劇として、親権、養育費、面会、そして、婚姻費用、慰謝料、住宅ローンについて紹介してきましたが、どう思われましたか?
男性は離婚によって失うものが大きすぎるので、離婚回避に向けてあらゆる努力をしなければなりませんが、妻子が一度出て行くと遅かれ早かれ離婚に至ります。別々に暮らし、ほとんど連絡をせず、お金だけ送るという生活は別居も離婚も同じです。別居と離婚の違いは戸籍だけですが、戸籍が同じでも離婚同然の生活なら、籍を入れておいても仕方がありません。 つまり、別居の時点で離婚が決定的なのだから、「勝手に出て行ったら、子どもだけ連れ戻すし、親権も渡さない。生活費は送らないし、慰謝料を請求されて困るのはそっちの方だろう」とくぎを刺し、別居を阻止することが、不本意な形で離婚しないための第一歩です。
露木行政書士事務所代表 露木幸彦