髙橋史朗 – EUと国連の「実子誘拐」対日勧告と我が国の課題

右派の論客も発言しています。

髙橋史朗 – EUと国連の「実子誘拐」対日勧告と我が国の課題

髙橋史朗

モラロジー研究所教授

麗澤大学大学院特任教授

 

 

●欧州議会の対日非難決議――「親による子の拉致国家」日本

 EU欧州議会本会議は7月8日、日本での親による子供の連れ去りから生じる子供の健康や幸福への影響について懸念を表明し、日本政府に対して、ハーグ条約を履行し、「共同親権」を認めるよう国内法の改正を促す決議を採択した。

 昨年3月、国連の児童の権利委員会も日本政府に対して、離婚後の親子関係に関する法律を、「子供の最善の利益」に合致する場合に「共同養育権」を行使できるように改めるよう勧告した。

 児童の権利条約第9条には、「子供がその父母から、その父母の意思に反し、切り離されてはならない」と明記しているが、わが国では、親子が交流する権利が侵害され続けている。

 弁護士のアドバイスによる、一方の親による子供の連れ去り、DVシェルターへの切り離しの推奨、児童相談所による、子供の実父母からの切り離しの推奨が蔓延している。

 この行為は刑法第224条の「未成年者略取誘拐罪」に該当することが、昨年11月27日の衆議院法務委員会で、森法相によって確認されている。

 しかし、一方の父母による最初の連れ去り、切り離し行為にこの刑法が適用され、警察が刑事事件として適正に捜査を行うことはほとんどない。

 子供を最初に連れ去り、切り離しを行った状態を継続させることが子供の最善の利益を保証する(継続性の原則)という世界に例のない不平等な取扱いがわが国では日常化している。

 子供を連れ去られた親が客観的な事実を主張しても、その主張自体が「夫婦間の葛藤」を生み、それが「子供の最善の利益」に反するという、世界の「子供の最善の利益」に関する研究結果とは真逆の論理によって拒否される。

 国連人権理事会に日本人の実子誘拐が「重大かつ一貫した人権侵害」に該当するとして申し立てがなされたように、毎年15万人もの親子が生き別れになるという桁違いの人権侵害をこれ以上放置してはならない。実子誘拐は、子供を誘拐された親と子供の生命、身体、財産を侵害する重大犯罪である。拉致被害者である全ての親子が以前のような親子の関係に戻ることができてはじめてこの問題は解決されたといえる。

 

 

●欧米は共同親権、日本は単独親権

 欧米諸国では、離婚後も子供が両親との関係を維持することが「子供の最善の利益」の保証につながるという実証的知見を蓄積している。

 諸外国では国が「共同親権」と「面会交流」を保証しており、離婚後、単独親権しか選択できないのは、日本、インド、トルコ等に過ぎない。

 面会交流も日本では、1か月1日数時間程度と一律に決められることが多いが、諸外国では発達心理学等の科学的知見に基づく発達段階に応じた面会交流の頻度と時間が決められている。

 日本では一方の親を養育から排除する「排他的単独親権・監護権」を母親が得ることが多く、この権利に基づいた子供の養育費の中から弁護士が報酬を得ることを禁じていないために、「実子誘拐ビジネス」の悪質な利権構造に巣食う弁護士が後を絶たないのである。

 こうした世界の常識に反する日本の異常さが、国連の委員会のみならず、EU議会をはじめとする世界各国から「子供の拉致国家」という極めて不名誉な対日非難の集中砲火を招いているのである。

 

 

●注目すべき台湾の民法

 厚生労働省の調査によれば、子供が非監護親と面会交流をしている割合は、母子世帯で30%、父子世帯で45.5%に過ぎない。

 両親の愛情を等しく受けて成長する権利が子供にはあるが、一方の親から引き裂かれることによって、もう一方の親との愛着形成が奪われ、自己肯定感の低下、社会的不適応、抑うつ等の影響があることが、国内外の実証的研究によって明らかになっている。

 日本の制度を導入してきた台湾や韓国では、日本よりも先駆的取組が実施されている。韓国では、離婚意思確認の申請をし、親教育を受けてから3か月以内に、親権者、主たる養育者、養育費の分担、面会交流の実施方法を協議しなければ、協議離婚ができない法制度になっている。

 また、台湾では、中華民国民法第1055条に「フレンドリーペアレント・ルール(善意父母原則)」を採用しており、父母のどちらが友好的であるかを裁判所に斟酌、評価させ、親権を定める判断根拠の1つにした。同民法第1084条には、「子供たちは両親を敬うべきです。両親は未成年の子供を保護し、教育する権利がある」と明記されている。

 さらに注目されるのは、「親教育の受講を協議離婚の要件」とする、親教育を義務化する国家科学委員会の委託研究が進められており、親教育によって、親権者の定め、面会交流等の協議と合意形成を目指していることである。

 

 

●アメリカの親教育プログラム

 東京国際大学の小田切紀子教授によれば、離婚後の親教育は、1960年代後半からアメリカで開発され、家庭裁判所を中心に導入され、現在でも、離婚時に裁判所は親教育プログラムの受講を父母に義務づけ、または強く奨励している。

同プログラムの目的は、

  1. ⑴ 離婚が子供に与える影響を知る
  2. ⑵ 離婚後に父母が子供の養育に継続して関与することの大切さを理解する
  3. ⑶ 元パートナーと協力して子育てをするために必要な知識やスキルを身に付ける
  4. ⑷ 共同養育は、親のメンタルヘルスにも良い影響を与える

ことを学ぶことにある。

 米フロリダ州公認のオンライン親教育プログラムの著作権を得て、日本における離婚と親教育プログラム「リコンゴの子育て広場」に導入した小田切紀子教授は、離婚した人や離婚を考えている家族、あるいは家族支援の専門家を対象に、離婚が子供と親に与える影響と、離婚後に子供のために父親と母親が協力して子育てをするための方法やコツを伝える共同養育講座を公開し、1年間で300人を超える受講者がいる。単独親権制度を取り、離婚後の共同養育が浸透していない日本では、元配偶者と協力して子育てする方法を学ぶことは極めて重要である。

 

 

 

●「逆転した男女差別」「究極の男女不平等」

 日本大学の先崎彰容教授は、「逆転した男女差別」が「単独親権」であり、夫が男というだけで養育の権利を奪われ、「家族」が解体してしまうことが問題であり、「究極の男女不平等ではないか」と、昨年9月16日付産経新聞「正論」で述べているが、この問題の本質を衝いた鋭い指摘といえよう。

 また、小田切紀子教授は、海外の離婚後の共同養育に関する多くの研究報告を踏まえて、次のように結論づけている。

  1. ⑴ アメリカ、カナダ、シンガポール、韓国、イギリス、ドイツなどの諸外国では、家庭裁判所が核となり、民間の面会交流支援機関と連携・協力して、「親教育」や心理・法律相談を提供している。
  2. ⑵ 裁判所命令に基づいて民間の面会交流支援機関が、親子の交流を支えることで面会交流が可能になり、離婚後の親子関係が継続できている。
  3. ⑶ このような制度を支えているのは、離婚後の共同親責任(共同親権)と面会交流を子供の権利とする法律である。

 

 

●「“拉致” EUは見捨てない」

 自民党女性活躍推進本部は官邸に「養育費不払い解消対策本部」を設置し、政府の骨太の方針等に反映させるよう安倍総理に要請したが、「共同養育」「共同親権」「面会交流」とセットで議論すべきであり、EU議会決議をはじめとする世界各国の対日非難に明確に答える必要がある。ハーグ条約を骨抜きにした国内実施法の改正とハーグ条約と整合性のとれた国内法の制定が必要である。

 自国民による「拉致」を全面的に擁護しつつ、北朝鮮に拉致された日本人を助けてくれと訴えても、どの国がまともに取り合うであろうか。北朝鮮に拉致された子供を取り戻す日本政府のポスター「“拉致”日本は見捨てない」「必ず取り戻す!」の言葉は、「日本」を「EU」に置き換えれば、EUのポスターとしてそのまま使用できるのではないか。

 国際的に問題となっている日本人による実子誘拐問題について、各国大使との十分な情報交換、意見交換を踏まえて、実子誘拐の刑事罰化、共同親権制度導入(面会交流・養育費支払いの義務化)、その他の法制度の整備が必要である。

 

(令和2年7月14日)

4年前