「お父ちゃんちにずっといる!」泣き叫ぶ息子を保護で有罪に 元ラガーマン父の闘い

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デイリー新潮

親子で暮らしていた頃

コロナ離婚」なんて言葉が生まれるほど、別れを選ぶ男女は後を絶たないが、子供がいれば待ち受けるのは親権を巡る争い。日本では法的に片方の親にしか認められないため、離婚後は子供に会えなくなる親が増え、悲劇が起こっている。

「母ちゃん家(ち)じゃない! お父ちゃん家にずっといる!」  そう泣き叫ぶ3歳の男の子を、母親と祖母が力ずくで連れて行こうとする。

男の子はさらに抵抗し、「イヤだ、イヤだよ!」と泣きじゃくるばかり。なす術もなく立ち尽くす父親の前で、男の子は車に乗せられていってしまった――。

そんな切ない光景が見られたのは、今から7年前の7月のこと。神奈川県在住の会社員・小島信二さん(46)=仮名=は、大学選手権優勝チームに在籍していた元ラガーマン。2018年に離婚して親権を持つ妻(46)とは当時まだ別居中で、一人息子との面会交流を終え、母親へ引き渡す際の、悲劇的な場面である。

それから1カ月後の面会でも、「帰りたくない!」と喚く息子は過呼吸を起こし、病院に搬送されてしまう。

小島さんが振り返るには、 「夫婦間で価値観の違いが多く、彼女は子供を突然連れ去り実家に帰ったのです。家裁の調停で、息子とは定期的に面会交流することで話がついたのですが……」

やはり息子の面倒は自分がみないといけない。そう決意した彼は、子供を引き渡さない道を選ぶ。それから3年間は息子と暮らせたものの、妻からの訴えを受けた神奈川県警が、人身保護法違反の容疑で彼を逮捕するに至ったのである。

「警官に羽交い締め」

 改めて小島さんが言う。 「息子の目の前で連行となり、警官に羽交い締めにされました。裁判所では1年6カ月の懲役と3年の執行猶予判決を受けましたが、今年4月にようやく執行猶予が明けてキレイな身になったので、今一度この理不尽な扱いを世に訴えたい」

これまでも判決を不服として最高裁まで争ったが、訴えは退けられた。今後は再審請求を行う決意を固めている。  むろん、妻の側にも言い分があって、一連の裁判資料によれば、子供は普段母親にとても懐(なつ)いており、父親と面会する際に何らかの刷り込みをされてしまっていたのでは、と主張している。

離婚後、どちらか一方にしか親権が認められない日本では、諍(いさか)いが続けば片方の親が子供に会う機会が絶たれ、より争いが激化してしまう傾向にあるのだ。

小島さんの代理人を務め、親権問題に詳しい杉山程彦弁護士はこう話す。

「日本の民法では、単独親権制度を採用しているため、最初に子供を連れ去った親の権利が認められることが多い。どちらが親として本当に相応しいか。それを裁判所が判断するのは難しいため、“先に子供との生活実態を作った親の方が、子供は慣れている”という『継続性の原則』が判断基準になってしまっています。今回のように、子供が嫌がっている場合でも詳細な事情には踏み込まず、まず結論ありきで判断してしまうのです」

子供に会えず、家裁に親権の調停を求める親の数は年間2万人にも及ぶ。大人の事情に振り回される子供の泣き声が、今日もまたどこかで聞こえてくるのだ。 「週刊新潮」2020年6月25日号 掲載

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