ピンハネビジネス続々
6月23日に共同親権運動のグループで、「養育費のピンハネは人権侵害」という緊急声明を出して、メディアや官庁に送付した。
ネットでは、ZOZOの前澤友作社長が作った「小さな一歩」という会社が、養育費の取り立ての代行事業を毎日宣伝している。同居シングルマザーを雇用して事業を展開するという話題で注目を集め、メディアも好意的に報じている。その内容が、回収する養育費のうちの15%を保証料として徴収するというもので、ピンハネになっている。
前々から離婚弁護士たちが養育費の支払いを自分の口座名義に指定し、ピンハネして残金を母親(父親)に支払うというやり方がとられているということは知られていて、ぼくもそれについてルポを書いたことがある。今日見つけた「日本法規情報」という会社の「養育費安心サポート」という事業では、「保証料」は毎月の養育費の50%になる。この会社の場合、「保証料」を払えば、支払いが滞った場合でも半額が振り込まれる。この会社は全国1500事務所の弁護士・税理士のネットワークだそうだ。それだけの数の事業所が、この会社1社のピンハネビジネスのすそ野ということになる。
大学の初年度費用と同じ額がピンハネされる
怖いのは、先の二つの会社が養育費を「子どもの権利」と言っていることだ。養育費は子どものためのお金だという自覚はある。支払うほうもそのつもりで支払う。母親(父親)が何でも自由に使っていいお金ではなく、過去の判例では、父親に使用明細を送るという家裁の決定も見たことがある。
父親(母親)が自分のためにお金を使って養育費を未払いにするのと同じように、母親(父親)が子どものための養育費を自分の生活費に充てることは当然ある。こんなのは夫のお小遣制がある日本では、婚姻中にも普通にあることだ。つまり申し込み手続きにおける母親(父親)の、養育費の民間会社へのピンハネの同意は、父親(母親)の同意なく子どものためのお金を使い込む同意ということになる。養育権の侵害行為でもある。
「母親が子どものためのお金を使って何が悪い」という人のために試しに計算してみよう。
例えば、子どもが3歳のときに父親が連れ去りに遭い、その後母親が「小さな一歩」を利用したとする。養育費の額が4万だとすると、毎月6000円を「小さな一歩」が保証料としてピンハネする。年間だと7万2000円。成人する18歳までの15年間で、6000円×12カ月×15年で108万円になる。文系の公立大学の初年度入学金・授業料ほどの「子どものためのお金」を「小さな一歩」がとることになる。養育費の額が6万だとこの額は162万円になる。
母親だってピンハネされる
憲法学者の井上武史氏はツイッターで、「養育費については,もっぱら子に対するものであること(同居親の生活費は含まない),同居親にも子に対する扶養義務があること,が忘れられていると思います。制度論としては,同居親は自らの生活費+子の養育費分を稼ぐ必要があるはずで,別居親からの養育費名目の金銭は自らのために使用できません。」と述べている。
「母親が子どものためのお金を使って何が悪い」という発想からは、こういった意見に反発も出るだろう。しかし実際には、連れ去り・引き離しが横行している昨今、母親のほうが養育費の請求対象になることもある。
その場合、子どもを連れ去った父親が、「小さな一歩」にスマホで申し込んで、ピンハネされた額を受け取ることももちろん可能だ。子どもにも会えずにお金をピンハネされながら「小さな一歩」に養育費を支払い続ける母親は悲惨だともし思ったら、男性だって同じ目にあったら悲惨だと想像できるだろうか。
子どものお金の分捕りに手を貸す自治体と国
「小さな一歩」を見ると、「保証料への助成制度」という形で、ピンハネの一部立て替えを行政がしている。ピンハネ事業を応援する自治体は、宮城県仙台市、千葉県船橋市、東京都港区、東京都豊島区、神奈川県横須賀市、愛知県知立市、滋賀県湖南市、大阪府大阪市、兵庫県神戸市、兵庫県明石市、岡山県津山市、福岡県福岡市、福岡県飯塚市の各自治体である。
これは子どもへの支援ではなく、明らかに子どものためのお金分捕り支援だ。誰もおかしいと思わなかったのだろうか。
ピンハネを批判すると弁護士たちの間から、「ただ働きしろというのか」という反発が出てくる。ほかの国では日本と違って時間毎の報酬体系になっていて、トータルでは日本よりもずっと高い弁護士費用になりがちだという指摘もある。とはいえ、日本にもピンハネしない弁護士はいるし、養育費徴収のための弁護士報酬が108万円になることは日本でもめったにない。養育費ピンハネビジネスで儲けること自体がいけないことだくらいは、弁護士業界以外では普通に思う。
この件で厚生労働省の担当課に電話して行政指導を促したら「法的に難しい」と渋っていた。「だからって子どものためのお金をピンハネするのを許していていいんですか。これはまずいでしょう」と言うと、職員は唸っていた。
弁護士たちは反発して「離婚ビジネス」についてのぼくの記事をヤフーニュースから削除させるくらいのことはするけど、指摘されたらまずいくらいの自覚はある。
そもそも報酬支払能力がない人が多くてビジネスとして成り立たず、それでも子どもが成長するための費用を確保することが社会的に必要だというなら、これは裁判所や行政がやる仕事なのだ。そうなればビジネスを維持するためではなく、税金の無駄遣いという批判を避けるために、未払いの原因を探り、いかに主体的に支払いたくなるか(共同親権)を考えるのは、あってもよさそうな発想だ。それも無理なら、コロナのもとにおいてお試しでなされたように、すべての子どもに対する直接の給付ということになる。
そうなると困る人はいる。よくないとわかっててやっている部分があると、議論を封じるという対応はわかりやすい。そういう人は共同親権という言葉は出したくないし、カモを逃がすのも困るので、別居親の不満を抑えるための「面会交流は促進」と口では言う。(宗像充2020/6/26)