渡部健の不倫報道「海外からの視点」はこんなに違っていた!

海外から見て覚えた違和感

写真:現代ビジネス

 有名な男性タレントが不倫相手とビルの多目的トイレでセックスをし、1万円を渡したことに、部外者が「どちらが加害者か被害者か」を言い合っている……。英文でニュースにしたら世界中の人は頭をかしげるだろう。不倫に加害者も被害者もないからだ。他人から見てどんなにひどい不倫であっても、すべての不倫は「同意」によって成立している。大人なのだから。

【写真】不倫相手と暮らすため「5700万円のタワマン」を買ったOLのその後

欧米ではそれよりも、行為のあと男性が女性に1万円を渡していたことは「売春」に当たらないのか、という意見のほうが多くなるだろう。数分の行為のあと、お金を渡しすぐに別れることを欧米では「不倫」とは呼ばない。今後、日本では売春の線引きがより曖昧になるのではないだろうか。

 アメリカでは不倫をしたからといって離婚の際に夫婦がどちらかに対して「慰謝料」の請求はできない。無過失離婚(No-fault divorce)という法律があるので、離婚に相手の過失を証明する必要もない。細かいところは日本と法律が違うので省くが、基本的にはどんなに相手に非があると思える理由があっても、離婚した場合は夫婦の資産が半分ずつになるだけだ。

ニューヨークに在住の知り合いの日本人女性は、アメリカ人男性と結婚していたが、アメリカ人の夫の不倫が原因で離婚した。しかし、日本人女性のほうの資産が多く、不倫した夫に資産を渡すことになった。つまりこの場合、不倫という点だけで見ると、妻になんら過失はないが、離婚の際は共同資産を半分にされる。もちろん、資産は借金であっても半分ずつということにもなる。

また、日本のように夫婦のどちらかが不倫相手に対しての仕返し的な「慰謝料」の請求もほとんどの州で認められていない。アメリカ50州のうち、ミシシッピ州やユタ州など8つの州では認められているが、ニューヨークやカリフォルニアなどの都市では認められない。

「慰謝料」が請求できない…?

アメリカで不倫報道はゴシップ雑誌が報じる程度だ

 アメリカではいまから約200年前、こういった「不貞を理由に」不倫相手に慰謝料を請求できる法律ができたが、近代化が進むにつれ、各州で廃止になった。理由は恐喝や乱用ができる(夫婦が共謀して話をでっち上げることもできる)こともあるが、元々は女性を「所有物」とみていた男性社会だったからでもある。自分の「所有物」である妻が他の男性と不倫した場合に、夫がその男性を訴えていた。

そして現代、アメリカの各州で、不倫による離婚で結婚相手にも「慰謝料」を請求できず、不倫相手にも「慰謝料」もほぼ請求できないことになっている。結論から言うと、男女平等社会だからだ。

日本での不倫は、おおかた既婚男性が妻ではない女性とするものとされている。だから、立場の弱い「妻であり被害者である女性」が、「かわいそう」になり、離婚の際に懲罰的に不倫をした夫に罰金のように慰謝料を払わせるようになっている。

わかりにくいと思うので、日本でありがちなケースとして書き直すと、夫の不倫が発覚したから妻が離婚を申し出て離婚が成立したとしても、夫が妻に「不倫の謝罪」の意味を込めた「慰謝料」を支払うことはない、ということだ。

おそらく知らない人にとっては、不倫に慰謝料がないアメリカの実態を不思議に思うかもしれない。ただ、アメリカでは不倫に「被害者」という概念がないから慰謝料もないのである。

不倫に決まった形はないが

 当たり前だが、男性と女性がいて不倫が成立する。女性が既婚者で相手の男性が独身の場合であっても不倫になる。もちろん既婚者同士の場合もある。不倫に決まった形はない。アメリカでは以下のようなデータがある。

———- ・57%の男性が浮気をしたことがある ・54%の女性が浮気をしたことがある ・22%の既婚男性が不倫をしたことがある ・ 14%の既婚女性が不倫をしたことがある (ソース:スタスチックブレイン研究所) ———-

浮気に関しては「感情的なものだけ」も含まれる。ただ、浮気も不倫も男性のほうの比率が高いので、なんとなく世相を表していることはわかる。しかし、既婚女性の不倫の割合を見ると、ゼロに近いわけでもない。アメリカでは既婚男女ともに「不倫する人はする」ということが一般常識になっているのだ。

アメリカでは男女平等が進み、収入の格差も男性と女性の差は日本ほどではない。男性による仕事と家事や子育ても日本より両立しているので、不倫も男女平等に近くなる。子供がいくら小さくても「女性が育てなければいけない」という固定観念もないので、子供が幼いときからの父子家庭もあるし、離婚後は共同親権である場合がほとんどだ。

極端に書けば、日本の女性の収入が男性と変わらなくなり、男女の権利が等しくなると、日本はいまほど視聴者や読者が不倫で騒ぐことはなくなるだろう。男女どちらかが極端に時間的にも金銭的にも不自由な状態にはならないからだ。女性の賃金が男性並みになれば、子供のいる家庭では保育所に預けることやベビーシッターを雇うこともできる。「子育て中の奥さんがかわいそう」という論理も当てはまらないわけだ。

離婚の際に不利にならないからといって、アメリカで不倫が盛んに行われているわけではない。その背景には、家事や子育てに男性も忙しくなり、子供がいる女性もバリバリ働いていて、お互い「それどころではない」といったところがある。

男性社会であることは間違いない

ニューヨークで女性同士の連帯を示す女性によるパフォーマンス

 日本は誰がどんな否定をしても、男性社会であることは間違いない。日本人は、テレビで男性ばかりの政治家の集まりや有識者会議の映像を見慣れているので違和感はないだろうが、欧米社会から見ればすぐにわかる。  例えば、サウジアラビアの国王や王族、政府関係者など約1000人が日本を訪問したことがあるが、ほとんどが男性で、髭を生やし、クーフィーヤと呼ばれる頭にかぶる装身具の人たちの映像が流れると、「男社会なんだな」と思うだろう。欧米人にとっては、アジア人を見慣れていないので、日本の会社との会議であっても同じような感覚になるのだ。「日本は男ばかりだな」と。  日本が男性社会である理由は感覚だけではない。男女の賃金格差にも表れている。ニューヨーク市での男女の賃金格差は、男性が1ドル稼ぐたびに89セント稼ぐ、と示される。つまり、数字としては男性100に対して女性は89なので、いまだ男女に11%の格差があることになる。だが、欧米ともに先進国はだいたい同じで、男女比は100対80~90で推移している。一方で、日本は男女の賃金格差は男性100に対して女性は75なので、25%の格差があることになる。先進国で日本は毎年最下位だ。  日本の賃金格差の数字は、ニューヨーク市の白人女性と黒人女性の賃金格差が34%なので、むしろ昨今問題になっている黒人の「システム化された人種差別」の数字に近いだろう。日本の場合、「子育て期間中に休むから女性のキャリア形成ができない。だから年齢が上がっても女性の賃金が安いのだ」という意見もあるだろうが、これは女性が40歳をすぎると急に能力が下がるわけではなく、日本社会の女性ケアシステムが欧米並みになっていないだけの話である。

女性のほうが収入の高いエリアもある

ニューヨークのウィメンズ・マーチ。男女の同一労働・同一賃金を訴えるプラカードを掲げている

 ニューヨークでは最低賃金を引き上げることにより、男女の賃金格差も減らせるとし、2016年、ニューヨークのクオモ州知事は時給の最低賃金を15ドル(約1600円)になる法案に署名した。マクドナルドのようなファストフード店で働いても時給は約1600円ということだ。 州の試算では最低賃金を上げることにより、約230万人に男女の賃金格差に影響を与えた。ニューヨークには約55%の女性が住んでいる。そして実際に、2018年の報告によると、パートタイムで20時間働く女性は、同じ20時間働く男性よりも収入が高くなった。男性100に対し女性103.7なので格差は男女逆転した。30時間になると男性100に対し女性は99.6になったが僅差といえよう。ニューヨークでは地区によれば女性のほうが収入の高いエリアもある※ 。

こうして少しずつ女性の待遇が変わっていく。積み重ねていくと、自立した女性が多くなるわけだ。だからタレントの不倫くらいで本気で腹を立てたりするような人も少なくなる。反対にそういう社会になると、甘えた声で働くような女性はいないので、女性にも覚悟は求められる社会ともいえるだろう。

※ソース:Closing the Gender Wage Gap in New York State(NY州労働局)

家父長制のようなもの

 日本では女性の権利を訴えると煙たがられるふしがあるが、やはりおかしいことはおかしいと言い続けなければならない。例えば、日本での新型コロナの給付金「10万円」は、4人家族であれば世帯主(男性)が妻や子供の分をまとめて申請することになっている。個人に個別申請させないやり方は家父長制のようなものだ。こういった点を指摘するほうが、不倫報道を延々と流すよりも社会にとって有益になる。

たとえ結婚していても、各家庭の夫婦がどういう状態であり、どういう形態なのか(それこそ芸能ニュース程度でしか)わからない。だからこそ「10万円の給付金」の申請方法も男女平等になるよう配慮しなければならないし、そういったことを議論することにより社会は進歩するだろう。

日本ではタレントの不倫になると週刊誌などで記事が多くなるが、実際のところの男女の仲など、当人同士にしかわからないことだらけなので、妄想による記事が大半を占める。忘れた頃にまたタレントの不倫が発覚すれば、ゴシップ記事の記者は匿名の不倫カップルに話を聞き、文末に「世の男性諸君、ご用心を」「あまりにも失うものが大きい」とでも書いておけば一丁上がりな感じさえもする。

アメリカで俳優や女優が不倫して謝罪会見を開いたりすることは考えられない。あっても政治家くらいのもので、大統領クラスになって初めて人々が会見に関心を持つ。クリントン元大統領とホワイトハウスの元インターン、モニカ・ルインスキーさんとの不倫がその例だが、基本的には政治的に反対勢力の人たちが政治的失墜を求めるから会見への関心が高まる。一議員の不倫など誰も興味を持たない。むしろ不倫せずに無能な政治家より、不倫しても有能な政治家のほうが良いと考える人が多いからだ。そこに男女の垣根はない。

日本でときおり続く不倫報道は、期間が長ければ長いほど大事なニュースが抜け落ちていく。社会のためにも女性の地位向上が急務だろう。

 

笹野 大輔(ジャーナリスト)

2週間前