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親が離婚するとき「お母さんとお父さん、どっちについて行く?」と聞かれ、辛い思いをしたという子どもたちが多いと言います。そもそも子どもに聞いていいの? 聞くとしたら、どんなことに注意したらいい? “いろんな家族の形”を数多く取材してきたノンフィクションライター・大塚玲子さんに聞きました。 「親が離婚するとき、どっちについていくか聞かれたのが辛かった」 筆者はいろんな形の家族や環境で育った人にインタビューをしていますが、これは親の離婚を経験した立場の人からよく聞く話です。 でも、たまに逆の声も聞きます。以前、親の離婚を語るトークイベントに登壇したある女性は、「もっと、しつこいくらいに聞いてほしかった」と話していました。 聞いたほうがいいのか? 聞かないほうがいいのか? 子どもによって感じ方は違うので、一概には言えませんが、その後、取材を重ねるうち、「親が気をつけるべきポイント」がいくつか浮かんできました。 まず、ひとつめ。子どもは内心「どちらかというと、父(または母)についていきたい」と思っていたとしても、口にすれば他方の親を傷つけてしまうことを察し、聞かれたことをつらく感じてしまうこともあります。 私が母親を傷つけた? 杏子さん(仮名)のケース たとえば、杏子さん(仮名)の場合。両親は彼女が生まれる前から、飲食店を経営していました。生後間もないころから、杏子さんは近所の家に預けられて育ち、その家のおばさんを母親のように慕っていたそう。 ところが、杏子さんが小学生のとき、一家は引っ越してしまいます。それから彼女は毎日、家ではほぼひとりで過ごすように。いまさら自分の両親に近しい感情も抱けず、両親が休みで家にいるときは、むしろ居心地の悪さを感じていたといいます。 両親とも外で浮気をしており、杏子さんは特に同性である母親のほうに嫌悪感を抱いていました。ずっと夫婦仲はよくなかったのですが、離婚話が出たのは、杏子さんが高校生のときでした。 「『どっちについていくか?』と母に聞かれたので、『お父さん』って言ったんです。そうしたら『そういう考えなんだ』って。私になじられた、みたいな感じで言われて」 杏子さんも、つらかったでしょう。聞かれたから正直に答えたものの、その答えが、選ばなかったほうの母親を傷つけたであろうことは、彼女もわかっているのです。結局両親は離婚しなかったそうですが、嫌な記憶がなくなるわけではありません。 このように、自分が選ばなかったほうの親の傷を察して、「聞かれてつらかった」という人は、多いように感じます。
どちらかを傷つけてしまう不安
両親どちらとも好きだった人はもちろん、親をあまり好きでなかった人でも、その親を傷つけたいとまでは思っていなかったりするのです(人にもよりますが)。 もし、子どもに「どっちに付いていくか」を本当に選ばせたいなら、親は「どちらを選んでも気にしない(傷つかない)」ということを、うまく伝える必要があるのでは。本音を聞きやすいように、親せきや知人など第三者から聞いてもらう手もあります。
「母」を選んだら「父」を勧められ……美玖さん(仮名)のケース 「実際には選べない状況だったのに、形だけ聞かれたのが嫌だった」という人も、ときどきいます。 美玖さん(仮名)は、幼少期は母親から、小学生のころからは両方の親から、暴力を受けてきました。一度は学校からの通告で、児童相談所に保護されたこともあります。 彼女の姉には障害があり、母親は常に「自分がちゃんと子育てをしなければ」というプレッシャーを感じていたらしく、アルコール依存の傾向もありました。一方、大手企業に勤める父親は、美玖さんが小さいころから浮気を重ねていたそう。 小学校に入る前のことです。母親が姉に向かって、「どっちの味方につくの?」と尋ねたところ、姉は「お父さん」と答えました。当時、子どもたちに暴力をふるうのは母親だけでしたから、当然の答えです。 しかし、次に「どっち?」と聞かれた美玖さんに、選択肢はありませんでした。姉がお父さんと答えたら、自分はお母さんと答えざるを得ない。2人とも父親と答えれば、母親がどう感じるか、わからないはずがありません。現実には、選べない事柄だったのです。 実際に両親が離婚することになったのは、それから約10年後でした。中学生になっていた美玖さんは、それまでずっと母親を慰める役回りだったこともあり、母親についていくつもりでした。ところがこのときは母親のほうから、父親についていくようにと言われます。 「私のほうに来ても、学費さえ出してあげられない。あんたにとって幸せな人生は送れないと思うよ」 おそらくそれは事実だったでしょう。母親についていけば、美玖さんが経済的に苦労したことは間違いありません。ところが母親はそれを「皮肉たらしく」言ったため(父親に対して悔しさがあったのかもしれません)、美玖さんは「母は、私についてきてほしくないんだ」と受け止め、傷ついてしまいました。
大切なのは子どもが納得できること
こんなふうに、一見、親が子どもの意見を尊重して選択肢を与えているように見えても、実際には子どもが選べない場合や、一度は選ばせてもあとで親がひっくり返すような場合には、子どもはむしろ傷ついてしまったりします。 どちらの親のもとにいったほうが子どもによいか明らかな場合や、親同士で話がついている場合、あるいは子どもが気を遣って選べないような場合には、子どもにどうしたいか聞くよりも、親が判断したほうがいいケースもあるかもしれません。 ただ、大切なのは子ども自身が納得できることです。大人たちがそのような判断をしたのは、子どもの利益を考えた結果であるということの説明は、忘れてはいけないように思います。
“罪悪感”から一部記憶を失った音江さん(仮名)のケース あとになってから「聞かないでくれたほうがよかった」と感じた、という人もいました。 音江さん(仮名)の両親は、彼女が小学生のときに離婚。それまで音江さんは父親に大変かわいがられていましたが、離婚原因が父の浮気であることを知っており、母親に同情していたそう。そのため「どっちについていく?」と聞かれたときは、「母親」と答えます。妹はまだ小さかったため何も聞かれず、姉妹は母親についていくことになりました。 その後、母親は再婚。音江さんは、母親の再婚相手や当時の生活について、楽しかった記憶しかなかったのですが、大人になってから妹と話をしたところ、当時、妹は継父からひどい虐待を受けていたことがわかりました。しかも、音江さん自身が、その事実を母親に知らせていたというのです。 そう、音江さんは、妹が受けた虐待について、記憶を失っていました。それはおそらく、彼女が自分を責め過ぎたためのように思えます。音江さんは両親が離婚する際、自分が「父親についていく」と答えていれば、妹への虐待は起きなかったのに……、と思っていたのです。罪悪感が強すぎて、彼女は当時の記憶の多くを失ってしまったのではないでしょうか。 もちろん実際には、音江さんが「母親についていく」と答えたことと、妹が継父から虐待を受けたことに、因果関係はありません。それでも子どもは、「自分のせいだ」と思うことによって、耐え難い出来事を呑み下そうとすることがあります。 誰か周囲の大人が、「あなたのせいではない」と音江さんに教えてあげられたらよかったのですが。残念ながら当時、彼女の苦しみに気付く大人は、周りにいなかったのでした。
「自分で決めたいか?」そこから聞いてみるのもアリ
最近では「コロナ離婚」という言葉も聞かれます。離婚を考えたことがある人は、少なくないでしょう。もし実行に移す場合は、子どもの心の傷や負担を最小限にとどめるため、今回挙げたエピソードを参考にしてもらえたらと思います。 大人が判断に迷ったときは、こういった注意点を子ども自身にも伝えたうえで、「自分で決めたいか? 親が決めたほうがいいか?」ということから聞いてみるのもいいかもしれません。 大塚玲子(おおつか・れいこ) 「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
大塚玲子